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魔女には記憶がない  作者:
第2章
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雪の町で調べごと 02

 



「な、なにこの傷。昨日手当した時はこんな色じゃなかったのに!」

「これまたすごい傷痕だな。魔獣に噛まれたに違いない。普通の獣だったらこうはならんぞ。しかし綺麗に噛まれたなぁ……肌が引き裂かれてないだけマシだ」

「…………」


 鋭い牙で噛まれた皮膚の一部が人の肌とは思えない青緑色に変色していた。傷痕周りに同じ色の液体と血が滲んでいる。先生は落ち着いた様子でブレンダの腕を見ると青緑の液体を傷に触らないように丁寧に拭き取り調べ始めてた。ルアーナは傷を見ていられないのか手で顔を隠して隣に座っている。


「最初は変色してなかったんですが、同じような色の液体が傷口に滲んでいました」

「そうか。しかし魔獣に襲われたのによく逃げだせたものだ。幸い止血はされてるし化膿してないが発熱があるようだね。傷を治す塗り薬と解熱剤をだしておくよ」

「はい。助かります」

「せ、先生。この傷の液体、大丈夫なの。毒じゃないわよね?」


 不安そうに先生に聞くルアーナは少し涙目だ。先生は腕の液体を調べ終わったのか、思い立ったように立ち上がり部屋の奥の本棚を漁り始める。とても整頓されているとは言い難い本棚から、本をとっては中を確認、とっては確認を繰り返し、ようやく見つけた古ぼけた本をひっぱりだすとブレンダの傷口の液体と見比べている。


「うーん、おそらく液体の正体はこれだと思う」

「もうわかったんですか?」

「おそらくだけどな。だが色々と矛盾している。何から説明すればいいのか」

「いいから早く教えて先生!」


 食い気味のルアーナに先生は苦笑いをすると、先ほど持ってきた本をひらいて目の前においた。その本は様々な種類のキノコが書かれた図鑑のようで、ブレンダの傷口の液体と同じ色をしたキノコの絵が大きく描かれている。青緑の細長い小さいキノコの表面には黄色い細い線がいくつも入っており見た目は神秘的だ。本を覗き込む2人を他所に先生はブレンダの傷口をできるだけ綺麗に消毒し始めた。


「この液体はおそらくその図鑑にのっているヒューニックというキノコの毒だ。体に有害な毒だが死にはしない」


 先生の言葉にブレンダは狼狽したが表情に出さない様に黙って先生を見つめた。先生は傷口に白い塗り薬をたっぷりと塗りながら真剣に説明をしてくれる。


「ヒューニックはなかなか手に入らない貴重なキノコだ。特定の環境でしか生植せず少量しか手に入れられないから、手に入れれば高価格で取引できる。

 キノコには毒があり、うまく使えば薬になるが、性質を知らずに少量でも体内に摂取すると錯乱や混乱を起こし、しばらくは手がつけられなくなる猛毒だ。今のところ解毒剤は開発されてないが、1週間もすれば症状はおさまり全快する不気味なキノコとして知られてる」

「でも、その毒ってキノコから取れる毒なんですよね?なんでそれが傷口に……」


 ブレンダが不思議そうに聞くと、先生はいい質問だ、という表情をして包帯を準備していた。


「そこが不可解なところだ。この毒はキノコからしか採取できないし取得できる量もほんの少し。しかし、君のこの痛々しい傷を見るとかなり大量の毒が獣に噛まれたことによって体に入り込んでいるみたいだ。腕が変色しているのもそのせいかな。知人に狩人は結構いるがヒューニックの毒を持つ魔獣にあったことがあるなんて聞いたことがない。なんで生きてるのか不思議なくらいだよ。いやー驚いた」


 はははと豪快に笑いながら包帯を巻く先生に、なんて返せばいいのかわからずブレンダはルアーナの方へ視線を向けた。ルアーナは安心していいのか分からないらしく、ブレンダと先生を交互に見ながら落ち着きなく視線を動かしていた。困惑する2人を他所に腕の処置を終えた先生は体に異常がないか検査をしている。


「特例だから完全に大丈夫とは言い難いが錯乱や混乱もないようだし、意識もはっきりしている。熱が引けば大丈夫だと思うぞ。あんまり気にやむな、生きててラッキーだったな」

「は、はい。そうですね先生」

「腕の傷痕は残ってしまうかもしれないがしっかりケアするように。何かあればまた来なさい。お大事に」


 穏やかな表情で先生は笑うと薬を準備しブレンダに手渡してくれた。傷の見た目はひどいが、体調も熱があるくらいだということに喜ぶしかない。先生にお礼を言い手持ちの紙幣で診療と薬代を支払うと、未だ不安そうなルアーナを連れて暖かい診療室から出ることにした。


 *****


 ブレンダとルアーナはどっと疲れたように同時にため息を吐く。晴れていた空は少し雲がかかり、まだ昼前なのもあってか冷たい風が体に沁み小さく身震いした。


「ブレンダの傷跡があんなことになってるなんて」

「そうね。見た目はひどいけど、傷は治るみたいだし毒の症状も出てなくてよかった、かな」


 もらった下熱剤はその場で飲んだのでしばらくしたら熱も下がりそうだ。少し滅入っているルアーナに大丈夫と声をかけ手持ちの紙幣を確認する。2週間分の薬や包帯をもらったため、手持ちが大分減ってしまった。腕の傷を放置するわけにもいかないため致し方ないが思ったよりも大きな出費だ。やはり今後を考えるとお金は必要不可欠と思ったブレンダは気落ち気味のルアーナに声をかける。


「ルアーナ。もう一つ行きたいところがあるんだけど。街に宝石とか持ち物を買い取ってくれる店はある?」

「え?まぁ、あるわよ。質屋の知り合いが近くにいるけど」

「質屋って……後でお金を払えば取り戻せる店?せっかくの休日に申し訳ないんだけど寄ってもいいかな。怪我はなんともなかったけど治療費はかかったし、今後を考えると手持ちのお金を増やしたいの。これから色々と入用になるだろうし」

「そ、そうなのね。わかったわ。それならこっちよ」


 そう言うとルアーナは元気よく方向を変えてそのまま裏通りを進んでいく。彼女の後を追いながらまた髪が目立たないように上着のフードをかぶった。建物の隙間を進み少し広い通りに出ると、大通りとは違う石造りのお店が並び雑多な雰囲気がなんとも楽しげな道に出た。



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