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魔女には記憶がない  作者:
第2章
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雪の町で調べごと 01

 


 ディエゴのお家は茶葉を売っているお店らしく、見たことがないハーブが店のいたるところに並んでいた。嬉しそうに出かける準備をするルアーナと、それを横目で見ながらむくれっ面をするディエゴがカウンターに肘をついて立っている。


「ブレンダ、準備はいい?」

「荷物は持ったわ。案内お願いします」

「まかせて!それじゃあディエゴ。あとはお願いね。抜け出したりしないように」

「わかってるよ!……ブレンダ、気をつけてね」


 ディエゴは姉の念押しに嫌そうに返事をすると、羨ましそうな顔でブレンダたちを見送る。体調は昨日よりいいがまだ微熱があり、腕の傷も昨日より腫れていたので、約束通りルアーナに病院まで案内してもらう事になった。

 元々着ていた服も洗濯中なので、ルアーナの母親のロングコートを借りた。ネイビーの生地に薄ら雪模様が入って可愛らしく内側がモコモコで暖かい。ミトンの手袋とディエゴのグレーのマフラーを借りて寒さ対策は万全だ。


「両親は首都の方で働いてるの。部屋に眠ってるだけの服だし遠慮なく使ってくれていいからね!」


 そう言いながらブレンダの長い髪を1束に三つ編みにすると横に流してくれた。ルアーナの方が背が小さいため、少し背伸びしながらモコモコの耳当てを付けると、彼女は満足そうに笑った。

 お店の扉を開けて外に出ると、雪国のツンとした冷たい風が体にあたり身震いする。夜のうちに積もっていたのか、雪が道を真っ白に埋め尽くしブーツの足首ほどまであった。


「よーし、じゃあ私に着いてきて!」


 ルアーナは鳶色の長い髪を払うと黒のベレー帽を被り直し慣れた様子で雪道を進み始めた。大きめのリュックを背負って気持ちよさそうに外の空気を吸い込んでる。ブレンダは転ばないよう慎重に彼女の後に続いた。

 住宅街を進むルアーナはかなり上機嫌だ。まだ早朝だからか人通りは少なく、鳥の声がピチチと寒空に響いている。吐き出す息は全て白くなり、すぐ頬が冷たくなる。


「はー、お休みって最高!」

「お店忙しそうね。お休みは久々なの?」

「休みが無いのはディエゴのせいよ。デズも歳だし本当は2人で仕事を回していきたいんだけど、あの子すぐにどこかに逃げ出すから。この仕事が好きじゃないみたい。動物みたいでしょ」


 呆れたように答えるルアーナに小さく苦笑いをする。確かにディエゴは弓を片手に狩りをしている方がしっくりくる。弓の腕も一級品なのに勿体ないなと思っていれば、ルアーナは"弟のサボり戦歴"を聞かせてくれた。毎回隙を見つけては抜け出すのだが、いつも獲物を仕留めて戻ってくるらしく図らずも夕飯は潤うらしい。

 気がつくと大通りに出たのか人通りが多くなり、石畳の大きな通りにでた。華やかなお店が増え、どの建物も屋根に重そうな雪を乗っけている。木彫りの看板やレンガの壁面が可愛らしく雪国らしい風景が広がっていた。


「病院は大通りの外れだからまだ少し歩くわ。体調は大丈夫そう?」

「昨日より平気よ。天気もいいし、服も暖かいからまだまだ動けそう」

「ならよかった。でも無理は禁物よ!」


 ルアーナはブレンダの顔色を確認しながらディエゴに言いきかせるように話す。早い時間なのに人通りが多くて賑やかだ。ルアーナは久々の休日が余程嬉しいのか、鼻歌を歌いながら石畳を楽しそうに歩いている。無口気味のディエゴとは違いルアーナは明るく社交的だ。


「小さいけどいい町でしょ。年中雪が降ってるから観光客は少ないんだけど」

「ええ、素敵な町だと思うわ。景色も綺麗だし可愛い店もたくさんあるのね。元気が残ってたら少し覗いてみたいな。寒い地域なのに生物も多いわよね」

「その分狩人も多いけどねぇ。名産品は豪快な肉料理と毛皮ばかりだから華やかでは無いんだけど。その代わり腕のいい狩人や強い兵士が多いの」


 夜になると酒場が営業し狩人達が増えるらしい。のどかな昼の雰囲気とは違い、また賑やかな雰囲気を楽しめるそうだった。進むにつれて大通りは人通りが増え、ついついあたりを見回してしまう。すれ違う人々は楽しそうに談笑する人たちもいたが、ブレンダの髪色や目の色が珍しいのか不思議と人と目があう気がした。


 (そういえば、私の外見は珍しいんだったわ。)


 ここまで見られると堂々と歩くのは気が引けて、なるべく目立たないようにこっそり外套のフードをかぶる。ルアーナはそんなブレンダを不思議そう見ていたが外気が寒いからと誤魔化し病院に急ぐことにした。

 横道に入り少し閑散とした雪道をしばらく歩くと、大きな木の扉が印象的な建物の前にたどり着く。ルアーナが真鍮でできたドラゴンのノッカーでノックをすると、はいはいと快活な返事が聞こえてきた。ゆっくりと木の扉が開いたと思えば、かなりガタイのいい優しそうな初老の男性が顔を出す。


「おや、デズのところのルアーナじゃないか。またディエゴが怪我でもしたかい」

「おはようございます先生。今日は別用できたの、怪我を見てくれますか」


 先生と呼ばれた男性はちらりと後ろにいたブレンダを見ると、体をどかして2人を中に通してくれる。部屋の中は暖かく広い広間だった。ブレンダは上着のフードを脱ぎながら先生に着いていくと薬品の匂いに包まれた小さな部屋に通された。

 部屋の棚にはたくさんの小瓶が並べられ、窓からは暖かい日差しが差し込んでいる。薬品の香りはどこか懐かしくぼんやりと部屋を見回していると、ルアーナがブレンダを目の前の小さな椅子に促して座らせた。


「腕を獣に噛まれたのか傷が酷く腫れてて。一応応急手当はして止血はしたんですけど」

「獣に?夜にでも出歩いたのかい。どれ、見せてごらん」


 優しく微笑み椅子に腰掛けた先生に、ブレンダは傷を見せるためにコートを脱ぐ。ルアーナが今朝に巻き直してくれた包帯を慎重に外し、止血の当て布を外すと不気味な傷痕が出てきた。ルアーナも先生も噛み跡をみてギョッとし、ブレンダ自身も驚いて目を見開らく。




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