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魔女には記憶がない  作者:
第1章
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雪の中で目覚める 07

 


 触れた物はどうやらピアスのようで、耳から外すと途端に不安な気持ちになった。何か体の一部が離れたような感覚が心を占めて落ち着かない。ピアスは雫型のエメラルドの大きな石が光り輝き、金色の装飾品が石をふちどっている。その石の下に垂れさがるように紫の丸石がユラユラと煌めいて美しかった。


「体に馴染み過ぎて気づかなかったわ」

「凄く素敵なピアスね。これ宝石?なんか凄く高価そう!でも新品って感じじゃないし、昔から付けてたのかしら」

「そうかも。外すと落ち着かないわ」


 いくら眺めても怪しいところはなく、ピアスの石が暖炉の光で美しく煌めいているだけだ。ルアーナが興味深々にピアスを見ていたのでそのまま手渡すと、少し驚いた顔をしたが恐る恐る受けとった。高揚した表情でピアスを見る彼女に小さく微笑みながらも、手から離れたことに大切にしていた人形を手放したような悲しい感情が湧き上がり戸惑う。ただ片方のピアスを外しただけでこんなに落ち着かない気持ちになるものだろうか。不思議な感覚に難しい表情をしていれば、慌ててルアーナがピアスを返してくれた。


「もう大丈夫。こんな綺麗で高価そうなのずっと持ってる方が落ち着かないわ」

「たしかに価値がありそうなピアスね。耳から外すと不安な気持ちになる……不思議ね」


 静かにピアスを見つめる。指輪は首から外してみても心がざわつくような変化はなかった。ピアスには何か特別な思い入れがあるのかもしれない。改めて耳に付け直すと先ほどの不安感はなくなり、ゆっくり呼吸ができるような安心感があった。


「うーん、でも荷物を見た感じその指輪しか手がかりなさそうね。あとは出身がセグレシアかもってことくらい」

「でも、少しでも自分の事が知れてよかったわ」

「そうね。そう言えば、ブレンダが着ていた服はよくあるうちの国の衣装よね」

「あ、僕も思ってた。元々この国に住んでた人なのかな」

「それか観光で着る人もいるわよね。でも、それにしては結構使い込まれてる感じがあったわ」


 一緒になって色々な意見を交わしたが、結局憶測にすぎなかったため話し合いが行き詰まってしまった。代わりにルアーナは何も知らないブレンダのために、今いるオルネラ国について話してくれた。大きな雪山一帯が領らしく、雪山には小さな町や村がいくつもあるそうだ。その大きな雪山に囲まれた中心に国の首都があるらしい。

 ブレンダが着ていた服はこの国では一般的な冬服らしく、使い古された状態からして数年は使っていそうだった。血痕で汚れ破けていて、とても着れたものじゃないが、一応洗濯してくれていた。代わりに借りた寝巻きとガウンのおかげでブレンダの体はポカポカだった。手厚い看護に感謝しかない。


「これ以上話してても何も出ないわ。とにかくブレンダはまだ熱があるんだし早く寝なさい。明日病院に行くんだから少しでも回復してもらわなきゃ」

「そうね。何から何までありがとう」

「気にしないで。ディエゴの貴重なお友達なんだし元気になるまでうちに居ていいんだからね。それに明日は店番してくれる人がいるから、久々にゆっくりできるし!」

「……友達くらい他にもいる。店番だってやってる」


 ルアーナは意地悪な表情で話し、彼は悔しそうに姉を睨みながら反論していた。どうやらサボりは常習犯のようで、今回の逃げられない状況に不貞腐れた表情をしていた。2人のやりとりに小さく笑うと、そろそろ寝なさいとデズモンドが皆に声をかけて椅子から立ち上がる。

 ディエゴが自分のベットを譲ろうと食い下がっていたがなんとか断り、ブレンダはほんのりと赤く残り火がつく暖炉を眺めながらソファで寝転んでいた。追加で毛布を貸してくれたおかげでとても暖かい。さっきまでの賑やかさは無くなり、暗い部屋に時計の針の音と火が爆ぜる音が時々部屋に響くだけ。ブレンダは体を仰向けにすると明日からの事をぼんやりと考え始めた。

 ルアーナは回復するまで居ていいと言ってくれていたが善意に甘えて過ごすわけにもいかない。明日は病院へ行って今後のついて考えなければならない。荷物に紙幣が少しあるが、どれくらい持ち合わせてるのかもちゃんと確認してないし今後足りなくなると困る。最悪手持ちの物を売ったりして金策を工面しないといけない。

 自分の事についても調べなきゃいけないし、この町の住人ではないのならオルネラの首都に行って調べた方がいいかもしれない。


「はぁ、記憶を無くすってやる事が多くて大変」


 ふーっと大きなため息を吐き、毛布を首元まで引き上げた。重くなってきた瞼をゆっくりと瞬かせる。

 今日生き延びられてよかった。色々やらなきゃいけない事を考えはしたが、今はこの一言に尽きる。熱のせいで未だに頭がぼんやりするが、雪山を孤独に彷徨っていた数時間前を考えると、暖かい毛布と寝床で寝れてるなんてラッキーだと改め思えた。

 これからもっと忙しくなる。また暖炉からパチパチと炭が燃える音が聞こえ、ブレンダは微睡み始めた瞳をゆっくり閉じて、今度こそ深い眠りにゆっくりと落ちていった。



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