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魔女には記憶がない  作者:
第1章
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雪の中で目覚める 06

 


 話を聞こうとすれば階段の方から声が聞こえた。顔を向けるとスープをトレーに乗せたディエゴが階段を登っており、その後ろからルアーナも全員分の食事を持って現れた。そのままソファの後ろのダイニングテーブルに料理を並べている。


「スープ持ってきたよ。ゆっくり飲んで」

「ありがとう。今日はディエゴのお家に泊まらせてもらう事になったわ。明日、病院にいくつもりよ」


 ディエゴの持って来てくれた野菜スープを受け取ると曖昧に笑った。先ほどの話が気になり、どうも意識が散漫になってしてしまう。また老人の方を見るが彼は気にしたそぶりはなく、また美味しそうにパイプの煙を吸っていた。

 紫魔の国ってどこのことだろう。自分を見てそう思ったと言うことは何か知ってるのかもしれない。


「僕も、一緒に病院行くよ」


 気になりながらもスープを飲もうとしていたブレンダは、ディエゴの言葉に目を見開いて彼を見上げる。当の本人は相変わらず無表情だが、何か使命感に燃えているような目つきでブレンダのことを見つめ返していた。


「だめよ。明日の店番、誰がやると思ってるの!」


 ルアーナが夕飯をテーブルに並べながら、怒ったように答える。ディエゴは小さくしかめ面をしていた。


「ブレンダは病院の場所を知らないし、怪我人の女性を1人にするのはよくない」

「あら、随分と紳士的ね。その優しさを私にも発揮してくれるかしら。あなたが今日サボったからまた私が1人で店番してたのよ!明日は私が病院に連れていく。あなたは今日サボった分大人しく店番をしてなさい」


 怒った表情のルアーナはそう答えるとふん、と顔を背けている。どうしようと考えるブレンダの横で、ディエゴが納得いかない表情をしていた。


「その夕飯の魚は僕が今日取ったんだ。別の仕事をしてただけだ!」

「取ってきてなんて頼んでない。それに今日はこの間もサボった交換条件に店番を一緒にする約束をしたのに破ったわよね?」

「……サボってない」


 相変わらずしかめ面でぶつくさ文句を言うディエゴをブレンダは困った顔で見上げる。家族の意向に意見できる立場でもない。


「約束を破るのは、反則ね」

「…………」

「そうゆう訳だから明日は私が病院まで案内するわ、ブレンダ」

「あ、ありがとう。ルアーナ」


 いまだにしかめ面のディエゴは、満足気に笑うルアーナの横に黙って座る。3人とも席について夕飯を食べはじめブレンダも貰ったスープをゆっくり飲んだ。野菜の柔らかな味が口に広がる。胃がじんわり温まり体がポカポカした。ディエゴはものすごい速さで夕飯をかき込むと、すぐにブレンダの元にやってきて、姉から隠れるようにソファの影に胡座をかいていた。床に敷いてある絨毯のほつれをいじりながら小声で文句を言っている。

 後の2人もご飯を食べ終わったようで、ルアーナが祖父のデズモンドを紹介してくれる。彼がソファに腰かけたのを見て、先ほどから気になっていたことについて質問した。


「紫魔の国のことについて、教えて欲しいのですが」


 彼女の質問に彼は不思議そうな顔でブレンダを見つめ返す。ディエゴもルアーナも食後のお茶を飲んでいて、くつろいでいた顔をこちらにむけてきた。ここまでお世話になって自分の状態を隠すのも忍びない。ブレンダは今日の出来事を3人に話して聞かせる事にした。


 本当は自分の記憶が一切なく何も思い出せないこと。

 目覚めたら雪山で倒れており、右腕にひどい怪我を負っていたこと。

 傷痕は何かに噛まれたような痕で、奇妙な液体が付着していたこと。


 知っていること全てを説明すれば、お互いに顔を見合わせ不安そうにしていた。正直に話してしまってよかったのか心配だったが、少しでも自分のことが知りたい。しばらく無言が続いたがデズモンドがようやく口を開いた。


「記憶がないとは。そんな状況でよくここまで歩いてきたものだ」

「ディエゴに会えて幸運でした」


 まだ不安そうな表情のディエゴに小さく微笑んだ。彼はまた少し照れくさそうに視線を逸らして俯く。


「紫魔の国ってセグレシアのこと?閉鎖的な上に秘密が多い国だからよく知らないけれど、魔術師達が多く住むって聞いたことがあるわ。……デズは何で知ってるの?」


 暖炉の側によっかかりながら暖かいお茶を飲んでいるルアーナがデズモンドに聞く。


「昔いろんな国でハーブを売り捌いていた時に行った事があるからの。紫魔の国の者たちは真っ白な肌と、髪は珍しい綺麗な紫色だった。お嬢さんの髪も藤色で綺麗だ」

「デズ、そんな所まで仕事に出てたの。よく戻ってこれたわね」

「じゃあブレンダは、魔女なの?」


 デズモンドの返答に呆れ顔のルアーナをよそにディエゴが興味津々な様子でブレンダに聞く。話を聞く限り、肌も白く髪の色もかなり薄いが紫色なので身体的特徴はその国と一致しているようだ。しかし、だからと言って魔術が使える気はしなかった。何か不思議な力がみなぎってくる訳でもなく、キラキラしたディエゴの瞳を困ったように見返すしかない。


「貴重なお話ありがとう。でも、やっぱり記憶がないのでよくわからないわね」

「仕方ないわよ。そういえば、名前はどうしてわかったの?」

「あ、それは指輪を見つけて。これよ」


 ブレンダは思い出したように服の中からチェーンを引っ張り指輪を取り出した。相変わらず綺麗な宝石が光り輝いており、明るい光源の元で見ると指輪がまだ新しいということがわかる。ルアーナとディエゴはブレンダの手の中の物をよく見ようと彼女の元に集まってきた。


「やだ、ブレンダこれ恋人からの指輪じゃないの?」

「え、そうなのかしら。家族からかと思ってたわ」

「……恋人から。その耳飾りも?」

「うーん、恋人からって決まったわけでは──え、耳飾り?」


 ディエゴは神妙な顔で話したかと思えばブレンダの耳元を見つめている。言われた通り自分の耳に触れてみれば何か固い物に触れた。キョトンとした顔をしているルアーナと顔を見合わせ手探りで外してみた。



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