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魔女には記憶がない  作者:
第1章
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雪の中で目覚める 05



 火が爆ぜる音が聞こえブレンダはゆっくりと目を開けた。目の前には暖炉があり赤い炎がゆらゆらと揺れ、少しの間ぼんやりその炎を見つめていた。チラリと足元を見ればソファの陰に荷物が置かれている。

 誰かの足音が聞こえる。だるい頭を動かし音の方に目を向けるとルアーナが大きめの器を手にこちらに歩いてきていた。ブレンダの枕元にしゃがみこんで濡れタオルをとり出している彼女を見つめていると目があう。


「やだ!起きてたの?びっくりした!」

「ごめんなさい。さっき目が覚めて。ディエゴのお姉さん?」

「ルアーナよ。気を失ったこと覚えてる?」


 ルアーナがそう答えると体を起こそうとしていたブレンダを再びソファに戻し、先ほど絞っていた濡れタオルを額に置いてくれた。


「まだ寝てなきゃ。高熱なのよ。腕の包帯も変えておいたわ」

「ありがとうございます。本当は気絶するつもりはなかったのだけれど」

「気絶するつもりで気絶できる人なんていないわよ!」


 世話を焼く彼女の顔を見ると呆れたような顔をしている。やはりディエコと顔が似ているが彼とは違い表情がかなり豊かだ。よく見ると服も変わっており、かなりお世話になってしまったようだ。暖かい毛布に包まりながら小さくため息をつく。

 ディエゴの家で少し温まったら宿屋を教えてもらう予定だったのに。そう考えたが宿屋で独り倒れて動けなくなるよりはましだったのかもしれないとぼんやり思った。それと同時に初対面なのによくしてくれるルアーナに申し訳ない気持ちにもなる。


「ディエゴを呼んでくるわ。あなたのこと気になるみたいで全然店番にならないのよ。まだ眠てて。熱もあるみたいだし、少ししか休んでないわよ」


 優しく軽く肩を触るとルアーナはすぐ立ち上がった。お礼を小さく言うとにこりと笑って階段の方へと消えていく。彼女が階段を降りる足音を聴きながら、目だけを動かしてあたりを見渡した。

 どうやらソファに寝かされているらしく近くにある暖炉の炎が体を暖めてくれていた。暖炉の上にはフォトフレームがいくつかあり、なんとも言えないずんぐりとした奇妙なぬいぐるみも並べて置いてある。炎は暖かく木の燃える音が居心地がいい。寒い中、散々歩いた手足は動かすと痛み、軽い頭痛と熱っぽさで頭がぼーっとする。ブレンダは大人しく眠ることにした。休むように優しく言ったルアーナの言葉を思い出すと余計に気が抜けてしまう。

 少し微睡みかけていれば、ドタドタという足音が聞こえ、ブレンダは閉じていた瞼をゆっくり開いた。


「ブレンダ。大丈夫?気分は悪くない?」


 出会ってから1番の心配顔をしたディエゴが、ぼんやりしているブレンダの顔を覗き込んでいた。両手に茶葉の袋を持ったまま少し息を切らしている。階段を駆け上がって来てくれたようだ。


「迷惑かけてごめんなさい。だいぶよくなったわ」

「よかった……でも、寝て。まだ顔色悪いし」


 そう言うと茶葉の袋を床に置き、ブレンダの額にあった濡れタオルを手に取り新しいものに取り替えてくれた。何かしてないと落ち着かないのか、毛布を彼女の口元まで引き上げると落ち着きなくこちらを見ている。


「何かしてほしいことはある?お腹とかすいてない?」

「うん、大丈夫。でもまだ眠たいかな。ディエゴ、優しいのね」


 落ち着かないディエゴを見てブレンダは微笑んだ。少し気まずそうな表情のディエゴが可愛らしく、優しく見つめる。途端に彼の頰は赤みが差しブレンダを見つめていた焦茶色の瞳をさっと下へ向けた。

 何この子。可愛いわ。

 兄弟がいた記憶は思い出せないが弟ができたようで少し嬉しい。くすくす笑っていれば、少し恨みがましくこちらを見てきた。


「少しお腹すいてきちゃった。さっき飲み損ねたスープが飲みたいな」

「わかった。待ってて」


 少し拗ねたような顔になったディエゴだったが、まだ心配なのかブレンダのお願いに素直に立ち上がり、持ってきた茶葉を引っ掴むと急いで階段を降りていく音が聞こえた。ディエゴは褒められ慣れていないようだ。心配してくれる彼に励まされ、気持ちが少し楽になった。

 また、目線だけ動かし窓の外の明るさを見ると、日はすっかり落ちているようだった。ルアーナは少ししか休んでないと言っていたし、1日はたっていないと思う。かといってここの家にずっとお世話になるわけにもいかない。まだ働いていない頭でどうしたものかと悩んでいると、また階段の方から足音が聞こえ、白髪の豊かな髭を蓄えた老人がブレンダの視界に入って来た。


「あぁ、お嬢さん。もう目が覚めたのかね」


 老人はブレンダと目が合うとゆっくりと1人がけのソファへ歩いて行き座った。この老人は気を失う直前に見た気がする。ブレンダは重たい頭をなんとか持ち上げ体を起こした。老人はポケットからパイプをとり出し美味しそうにふかしている。


「ディエゴのお爺様ですか?見ず知らずの私によくしていただいて、ありがとうございます」


 小さく頭を下げると老人はディエゴと同じ焦茶色の瞳でこちらを見つめている。


「そんなかしこまらんでいい、体を寝かせなさい。まだ熱もあって辛いだろう。ゆっくりおやすみ」

「すみません。ご親切にありがとうございます」

「腕の傷がかなり深いから医者にかかった方がいい。起きて何か口にしたかね。食欲がなくとも何か口にしなくては」

「ディエゴがスープを持ってきて下さるみたいです」


 ブレンダが答えると、老人は豊富な顎髭をなで微笑み返しまたパイプをふかす。まだ熱があるブレンダは彼に言われた通りまたふかふかのソファに体を預けた。散々な日だったがいい人たちに助けてもらえてよかった。まだぼんやりする頭のままそう考えていると、老人とまた目があう。彼は何を言うでもなくじっくりとブレンダを見つめてくるので、ブレンダも見つめ返すと驚くことを言い出した。


「お嬢さん、紫魔の国の出身のようじゃの」

「しまのくに、ですか?」


 彼の言葉をゆっくりと繰り返す。どうやら彼はブレンダに見覚えがあるのか、彼女が繰り返した言葉に頷くと、吸っていたパイプの煙をふーっとゆっくりと吐き出した。



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