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魔女には記憶がない  作者:
第1章
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雪の中で目覚める 04

 


 薄暗い森に木漏れ日が差し込んで足元に積もる雪が綺麗に輝いている。相変わらず木々は不思議な形をしていて少し不気味だが、少年は川に向かう時に雪を踏んで作ったであろう雪道を進み、時々後ろを振り向いてブレンダがついてきているか確認しながら進んでくれていた。


「こっち。雪道だから転ばないでね」

「ありがとう。えっと、お名前は?」

「ディエゴ。お姉さんは?」

「ブレンダよ。町までよろしくね」


 小さく微笑むとディエゴはこくりと頷きまた雪道を歩き出した。無言で前を歩く彼はブレンダに合わせてゆっくり歩いてくれた。ディエゴの優しさに感謝しつつ離れない様に後を追う。ふらふらした足取りで歩くと広い山道が現れた。ディエゴは先に山道にでて待ってくれているようだ。なんとか歩きやすい道に出れたことに安心すると見上げてくる彼と目があう。


「髪と目の色、珍しいね」

「え?町の人達はこんな色じゃないの?」


 驚いて聞いてみるとまた小さく頷いて道なりに歩き出した。ブレンダは自分のライラックの髪を掴みよく見て見たが、一般的な色がわからないので困った。長い髪が寒さで少し凍ってしまってるところがある事に気づいただけだ。


「……うん。初めて見る色」

「この辺りだと珍しい色なのね」

「僕の町は山に囲まれてるしそんなに観光客も来ないから。みんな僕みたいな色だよ」


 そう言うとディエゴは鳶色の前髪を少し触り、ちらりとブレンダを見てすぐに目をそらした。それからまた黙って前を歩く彼に静かについて行く。少し無表情だけど素直で優しそうな子だ。日が落ちる前に人に出会えてよかったと改めて思った。しばらく道沿いに歩いて行くと道がひらけてくる。


「僕が住んでる町だよ」

「よかった。案内してくれてありがとう。本当に助かったわ」


 ディエゴに改めてお礼を言うとまた小さく頷く。そして、少し心配そうにブレンダを見上げていた。


「顔色悪いけど大丈夫?」

「少し疲れちゃったみたい。すぐに休まなきゃね」


 見上げてくるディエゴになんとか笑ってみせる。本当はかなりの疲労感だ。町に着けた安心感から眠気も襲ってきていた。早く暖かい宿で休みたいと思いながら町の中へと進む。どうやら町の外れの方から入ったらしく、宿やお店らしい建物は見当たらない。もう少し先にありそうだなと思いながら歩いていると、ディエゴに腕を捕まれ彼に視線を送った。


「どうかした?」

「宿より僕の家の方が近いからひとまず僕の家で休みなよ。なんか心配だし」

「え。でも、お家の人が驚かないかな」


 チラリと怪我した右腕に視線を移したブレンダは小さく苦笑いする。ディエゴも一瞬考えるそぶりを見せたが、気に留めず掴んだ腕をそのまま引っ張って歩き出したため、ブレンダはなすがまま彼の後を付いて行く事になった。


「大丈夫。怪我は僕もよくするから、姉さんも手当てに慣れてるし」


 ずんずん進んで行く姿にブレンダは目を瞬かせたが、抵抗する元気もなかったため黙り込んだ。可愛らしい家と家の隙間を通り抜け、小さい階段をいくつか登ると夕焼けに照らされた石畳の道にでる。夕飯の食材を持った人達が何人か通りを歩いており夕暮れの街並みが綺麗だ。


「いい町ね。少し視線を感じるけど」

「観光客はあんまり来ないから、ブレンダが珍しいんだよ」


 ディエゴは気にせずスタスタと石畳を歩き始めておりブレンダも彼に引っ張られ歩き出す。ちらちらと見る人の視線を感じたが、体調の悪さで気にする気力がない。周りに目もくれずに進むディエゴの後について行くと小さな赤レンガの橋を渡る。


「こんばんは、ディエゴ。ルアーナがあなたを探してたわよ」


 通りすがりの荷物をたくさん抱えた女性が困ったように声をかけ、ディエゴが肩をすくめて返事をしていた。


「ルアーナ?」

「僕の姉さんだよ。いつも僕を探しているから気にしないで。家にいるだろうし。ほらついたよ。お客さんがいる時に入れたらいいんだけど」


 ついた家は縦長の窓の多い家で、綺麗な深緑の屋根から小さい煙突が飛び出ていた。お茶のいい香りがして入り口を見ると、ディエゴが大きな扉の窓から中を覗き始めたのでブレンダも静かに近づく。中には茶葉が並べてあり、ディエゴに似た女性がカウンター越しにお客さんと話していた。彼女はお客さんへ紙袋を渡すとそのまま楽しそうに雑談を続けている。


「姉さんちょうどお客さんと話してる。裏口から入ろう」

「隠れるの?勝手に入って大丈夫かな」

「大丈夫。行こう」


 家の周りの柵を通り抜け、ディエゴについて店の裏側に行くと小さい木の扉があった。ディエゴが鍵を開けそっと家に入るとお店の裏側らしく、上へ行く階段とキッチン、小さいテーブルとチェアがある。茶葉の香りが漂い木製の家具が可愛らしく、暖かくて安心する部屋だ。そのせいかブレンダは余計に視界が狭くなった気がした。


「大丈夫?そこの椅子にかけて」

「ありがとう。なんだかフラフラして」

「暖かい飲み物もってくる」

「──ディエゴ?帰って来たの?」


 近くの椅子に座ると店の方から女性の声がしてブレンダは顔をあげたが、ディエゴは気にせずお鍋に火をかけている。女性はこちらの様子が気になるようだったがお客さんがいるからかこちらには来れないようだ。


「お昼に食べたスープのあまり。温まるし飲んで」

「ディエゴ!どこにいってたの!今日は店番一緒にするって──この、女性は?」

「僕の友達。上着、濡れてるから脱いで。上から毛布取ってくる!」


 ディエゴは暖かいスープをブレンダに押し付けると、急いで2階に駆け上がっていた。


「あの、はじめまして。急にごめんなさい。お邪魔してます」

「べつに、大丈夫だけど……顔色悪いわよ?」


 怒った顔をして現れた女性は、ブレンダを見て驚きと困惑の表情をしていた。近くで見ると余計にディエゴに似ており、手元には茶葉の入った瓶をいつくか持っていて忙しそうだ。ブレンダの髪や目を訝しげに見ていたが腕の傷を見て顔色を変えた。


「その傷どうしたの?すごい血よ」

「姉さん救急箱!ブレンダ、毛布だよ」

「右腕をだして。ディエゴ、デズを呼んで!」


 彼女は階段からかけ降りて来たディエゴから救急箱を受け取ると、ブレンダの傷を見るため上着を脱がせてきた。応急処置の包帯はすでに真っ赤だ。服の上からしか見ていなかったディエゴは、包帯が血まみれなことに顔を強張らせ、すぐにまた2階に登って行く。ディエゴの姉が救急箱から新しい包帯やガーゼを取り出し処置をしてくれていた。

 2階から老人がディエゴと共に降りてきてすぐに傷を見ると額に手を当ててきた。ぼんやりしだす頭のせいで状況がよくわからなかった。体がだるくて仕方がない。頭がくらくらする。ディエゴが何か話していたが、何をはなしてるのか理解ができない。


 ──あぁ、だめ。とても眠い。


 人の声が徐々に遠くなり彼らの顔がぼやける。

 視界はどんどん狭まる一方で、ついにブレンダは意識を手放した。



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