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魔女には記憶がない  作者:
第4章
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竜の籠と氷花の調べ 09



 


 ラスは覚悟を決めたように、流木の影から身を出すと慎重にミュラッカの花に近づく。もう壁を這う巨大な生き物には気づかれているため、慎重かつ急いで採取を行なっていた。ブレンダはラスの様子と、巨大な生き物が張り巡らした糸を見てディエゴにロープを手渡していた。


「ブレンダ?どうするつもり?」

「近づいて魔獣の気をラスから逸らすわ。ディエゴは弓で援護をお願い」

「近づくの?腕の怪我が治ってないのに危険だ」


 ディエゴから困惑した声が聞こえたが、腕は以前よりだいぶ良くなっていて絶対安静ではなくなっている。心配そうなディエゴに荷物を託すと、自分の短剣を手に下の様子を伺った。張り巡らされている糸はよく見ると凍っているようで巨大な生き物たちは徐々に下へと移り渡っているようだった。


「いい?私は近距離戦が得意。あなたは弓が得意よね。この人選が一番ラスを援護しやすい。なるべく戦闘はさけるわ。頼むわね」


 実は吹雪で身動きが取れない時に洞窟でラスに少しだけ体術を教えてもらっていた。その際、自然と基本的な護身術ができたのだ。記憶はないが身体が覚えているようで、思ったより動けるブレンダにラスも少し驚いていた。同じように弓も教えてもらったのだが驚くほど射的のセンスがなかった。それをディエゴも知っているため、彼は眉間に皺を寄せながらも頷く。ブレンダは小さく笑うと崖沿いに静かに降って行くことにした。

 木々に捕まり巨大な生き物が張り巡らした糸へ近づく。螺旋階段のように糸をめぐらしながら着実にラスへと近づいていた。足元の氷のかけらを拾って巨大な生き物に向かって放り投げると、氷は糸の上を滑るように転がり胴体に当たった。彼らは黒い瞳をキュルリと動かし身動きを止める。

 ブレンダはゆっくりと巨大な生き物を覗きみた。顔は蝙蝠の様な顔をしているが口は蜘蛛の様な牙が生えていた。手足には乾雪みたいにやわらかそうな翼がついており、体から6本も生えていた。何匹か体をブレンダの方へと向けて、氷の糸の上を難なく歩いている。あれだけ巨大な生き物が乗っても壊れない糸ならと、ブレンダは刀剣を静かに引き抜き、氷の糸にゆっくりと足をかけた。


「ブレンダ!」


 ラスが声を上げ、巨大な生き物の耳がぴくりと動く。ラスの方へ目を向ければ少し焦った表情で採取の手を止めていた。ブレンダは身体に保護魔法をかけると短剣を構え、巨大な生き物とは距離を空けながら氷の糸の上を移動した。耳のピアスがほんのりと光っているのがわかる。少し気を抜けば滑り落ちそうな足場だが、滑らないように基礎魔法もかけたおかげで普通に走れていた。そのことに少し安心すると反対側の崖まで距離をとりながら移動する。巨大な生物は体の向きを変えるのが苦手なのか、ジタバタと方向転換をしており、なるべく正面に立たないように移動することにした。


 ブレンダが氷の糸の上を駆けても落下しないことに驚いたような表情をしたラスが目に入る。ブレンダは身振りで採取を急ぐように伝えた。我に帰ったラスは、かなりブレンダを気にしながらも採取を再開し出しだした様だった。巨大な生き物はラスとブレンダの2人獲物がいることに少し身動きを止めていたが、2手に分かれて動き出した。

 ブレンダはラスとは反対側へと糸や岩を伝って移動することにした。正直自分が戦闘ができるかどうかは賭けでしかない。なるべく逃げるように動いて、ラスの方へ向かう敵を少しでも減らしたい。また糸の上を駆け出すと、巨大な生き物はブレンダめがけて糸を吐き出した。咄嗟に頭を下げて避け、避けられそうもないものは短剣で受け止める。


「うっ……!」


 ブレンダは思ったより重みのある糸を受け止めると転がるように足場の上を滑っていった。糸の足場の端まで吹っ飛び危うく落ちかけそうになったが、地面の糸を咄嗟に掴みうつ伏せの状態で止まった。短剣にぶつかった糸が徐々に冷たくなっていく。短剣と手が凍り切る前に急いで振り払うと、手に少し冷たさが残った。巨大な生き物がどんどん近づいてきている。


「ブレンダ!無理するな!」


 どうやらラスが採取を終えたようだ。なんとか下を見れば弓を構えて立ち上がっていた。ディエゴも少し上の方で弓を構えている。そのままディエゴが弓を放ち、ブレンダに近づいてきた生き物の前足に見事に当てた。

 甲高い声を上げると怯んで壁沿いに離れていく。ブレンダは倒れていた上体を起こし、真上に広がる糸へとよじ登った。倒れた時に重なり合う糸にヒビが入ったのか足場が崩れかけている。なんとか這い上がると蹴った衝撃で下の足場が、サラサラと崖下へと消えていくのが見え、ブレンダは冷や汗をかいた。


「ファニアの糸は衝撃と熱に弱い!頼むからその上にずっといるのはやめてくれ!」


 ラスはかなり焦った声でそう叫ぶと矢尻に採取した花を括りつけ、差し迫っているファニアと呼んだ生き物めがけて矢を放った。弓矢はファニアの目に直撃し、暴れたかと思えば弓矢の先端から一瞬にして氷漬けになった。そのままゴロゴロと崖下へと落下していく姿に、ブレンダとディエゴは目を丸くする。同じように矢尻に花をつけながらラスはまた大声を出した。


「花は採取した!早く出口に戻れ!」


 ラスはロープを辿って出口側へと移動していた。ブレンダが気を引いていたためかラス側にはファニアは少なく、ディエゴのおかげて怯んでいた数匹は攻撃が止んだのがわかるとまたブレンダに近づいてきていた。

 ディエゴは慌ててまた弓を構えて矢を放つ。焦りがあったからかファニアの左側を掠めただけだった。ブレンダはラスが崖を登り始めている姿を見ると不安定な糸の上に立ち上がり、思い切って短剣を足下に突き刺した。糸の一部が裂けポロポロと崩れ出す。

 ギョッとした表情をするラスを横目に他の箇所も幾つか切れ目を入れると糸の上を駆け出した。氷の糸は裂け目の箇所から普通の糸へと変化し、ブレンダが踏み締める衝撃でパラパラと崖下へ崩れ出していた。


 またディエゴか弓を構え深呼吸をすると、ブレンダの後ろに近付いていたファニアの胴体を射抜く。怯むファニアの上を別の個体がよじ登りブレンダめがけて跳びついてきた。ブレンダは後ろを振り返る暇もなく対岸に駆けるしかない。

 登ってきたラスが弓を構え待ち構えており、ミュラッカの花が矢尻についた弓矢を放つ。弓矢はブレンダの真上に差し迫っていたファニアの口に突き刺さると、また一瞬にして氷漬けになり、すでに脆い螺旋の糸の上に落下した。


「飛べ!!」


 その衝撃で足下がより不安定になったブレンダは、目の前で手を伸ばすラスめがけて飛び込んだ。ラスはブレンダの胴体を片手でがっしりと受け止めると、抱き込んで崩れ落ちる糸の破片から庇った。チリチリと音を立てて崩れる足場に、ファニアも対岸の壁へと飛び移っており、まだ諦めていないのか、また足場をせっせと作り始めていた。




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