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魔女には記憶がない  作者:
第4章
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竜の籠と氷花の調べ 03

 


 ラスがブレンダを支えてる腕に小さく力をいれる。ハッとして彼を見上げた。綺麗な瞳と目が合い、夕日が逆光なのも相まってひときは輝いて見える。また、あの香水の香りがした。不思議と心を落ち着かせることができ、意を決してラオネンの方へ足を踏み出した。彼はすかさずブレンダの手を取り、体がふわりと浮かんだかと思えば、フワフワの羽毛にゆっくりと降ろされた。ラオネンの背中は驚くほど暖かく、ディエゴが頬擦りしてしまう気持ちが分かるほどだ。すぐにラスが飛び乗り、ブレンダのお腹へ腕を回す。


「絶対落ちないように、気合い入れてディエゴを支えろ」


 フワフワを楽しんでいたディエゴも、ラスが乗ったのを確認すると、ちゃんと座り直してブレンダに寄っ掛かる。ブレンダもぎゅっと両腕でディエゴを支えるとラオネンがゆっくりと立ち上がった。羽をバサバサと動かすと、身体をグッと持ち上げて一気に谷間へと飛び立った。


「……ま、まって!」


 ブレンダの制止を気にもとめずに、ラオネンは優雅に谷間を飛んでいる。やはり3人は重いのか、嫌そうな鳴き声を発しながらも、ゆっくり砦へと降下していた。あまりの怖さにディエゴを支えるというよりは、しがみつくように捕まる。反対にディエゴは楽しそうに笑い声を上げて、外の景色を楽しんでいるようだった。

 前屈みにディエゴにしがみついていたが、急にラスがグッと自分側にブレンダを引き寄せた。ラスの大きな体と外套にディエゴごと包まれるように寄りかかると、大きな布に包まれているような、なんとも言えない安心感と人の温かさを感じた。


「目を瞑ると余計怖くなる。遠くを見ろ」

「……うぅ」


 ゆっくり目を開くと太陽がほぼ沈みかけており、ピンクとブルーの夕闇が広がっている。白い雪山がいっそう青白く見えて、とても神秘的だった。圧倒的な景色に魅了され、ブレンダは少し恐怖心が薄らいだ気がした。お腹に回っているラスの手が、背中にいる彼の体が暖かい。目の前のディエゴの笑い声に安心する。ブレンダはゆっくり息を吸い静かに吐き出すと、また少し落ち着くことができた。風が冷たく凍えそうだ。ゆっくりと降下するラオネンがまた、重いと言いたげな声で鳴く。ブレンダは恐る恐る下を見れば、先ほど小さく見えていた建物が真下に見えた。

 ライネンはゆっくりと旋回して降下しているようで、徐々に近くなる砦のような建物に、オリーブの髪をした人影が発光石のランプを片手に、口を開けて見上げているのに気付いた。


「ラス。あそこに人がいるみたい」

「テクラードの管理人だ」


 ラスが何か手で合図をすると、管理人と思われる人も同じように合図を出していた。建物の上に指を刺して手招きする様子に、屋上に降りろと合図してるように見える。ラスも悟ったらしく手綱を引いていたが、ここで気分屋ラオネンが急に方向転換をした。


「まずい」


 ラスが焦った表情をしたかと思えば片手でディエゴごと強く抱えて、もう片方の手でラオネンの首の手綱を握る。ラオネンは鬱陶しそうに体を震わしたかと思えば建物の入り口へと急降下した。咄嗟にディエゴを抱えて振り落とされない様に体にしがみつけば、降下した浮遊感とバタバタと羽をはためかせる音、ドスンと地面に着陸したような衝撃が身体に響く。

 咄嗟に閉じていた目を開けるとパウダースノーが身体中に当たり視界は真っ白だ。ラオネンはふかふかの乾雪を楽しむように飛び跳ねており、振り落とされないように必死にしがみつくしかない。


「落ち着け、ラオネン!」


 ラスが大声を出し、大勢を整えて手綱を強く引いた。ラオネンは嫌がるように何度も首を振って飛び跳ねていたが、徐々に大人しくなり、建物前の深雪をウロウロと歩行するくらいは落ち着いた。ようやく暴れなくなったラオネンに、ブレンダは張り詰めていた息を吐いた。いくら気まぐれな性格だとしてもここまで急に気分が変わるとは思っておらず、ブレンダは速く脈打つ旨にそっと手を添えた。


「おーい!無事ですか!」


 砦の方からオリーブの髪をした男性が走ってきた。幸い砦から遠くに着陸したわけではないらしい。男性は慣れた素振りでラオネンに近づくと手綱を掴んで落ち着かせ、ゆっくりと膝をつかせた。動きを止めたラオネンに3人とも安堵の息を吐く。


「ティバルト、助かった。下ろすの手伝ってくれ」

「わ、わかりました」


 ラスがブレンダの腕を掴みすぐに地面に下ろす。結構な高さがあり、ヒヤッとしたブレンダだったが、着地した雪が思ったよりも深く、ティバルトと呼ばれた男性が軽く受け止めてくれたおかげで難なく降りれた。同じようにディエゴもラスも降りる。ラオネンはまた羽をばたつかせて飛び立ちたそうにしていたが、ラスがなんとか諌めて砦の方へと案内していた。


「まさかラオネンに乗って降りてくるなんて。挑戦者ですね」


 ティバルトは嫌がるラオネンを引きずるラスを見ながら、苦笑いをしてブレンダに声をかけてきた。ラスやラオネンを知っているようなので知人なのだろう。長身で細身のティバルトはブレンダの頭ひとつ分は大きい。ヘーゼルの優しい目を細めてヘラりと笑っている。


「正直死ぬかと。なんとか降り立ててよかったです」

「あはは。ラオネンは本当に扱いにくいですから。服が雪だらけですね。中に入りましょう」


 ブレンダもディエゴもラオネンが暴れたおかげで、身体中が雪で真っ白になっていた。ディエゴは服に雪が入ったのか、冷たそうな表情をして雪を払っている。当たりはすっかり日が落ちて真っ暗だ。ラスも砦に向かっていたので、お言葉に甘えてブレンダ達は砦に向かうことにした。



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