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魔女には記憶がない  作者:
第3章
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銀雪の山への旅立ち 08

 


 果実を食べ終わり水分をとって、ラスが作ってくれたヘルコリンの飴をぽいっと口に含んだ。甘酸っぱくて美味しい。すぐに身体がぽかぽかしだし、ブレンダは少し体力が回復した気がした。待っている間タオルで汗を拭っていれば、遠くから何か騒がしい音が聞こえる。ブレンダは瞬時に音の方へと顔を向けた。音はラスが戻っていった方角からだ。彼に何かあったのだろうか。ブレンダは急に不安になり、自分の短刀を引っ掴むとラスが向かった方へ駆け出した。

 音はさっきの崖の方から聞こえた。岩場で転ばないように注意しながら下れば、遠くにラスが暴れる生き物を担いで戻ってきている姿が見える。どうやら怪我はしていなさそうだ。


「ラス!無事?」

「え?」

「離せ!降ろせ!」


 ラスの姿にホッと安心して声をかけると彼は驚いたように彼女を見た。ほうけて立ち止まるラスに急いで走りよれば担いでいるものが一層暴れ出す。ギョッとして暴れているのに目を向けると、それはラスのフードを掴み引っ張っているようだった。ラスは相変わらずぼーっとそばに来たブレンダを見つめている。しかし、後頭部を担いでいたものに殴られ、足元にそれを落とした。


「いって!こいつ……!」

「わ、え、ちょっとまって。……もしかして、ディエゴ?」


 散々暴れて地面に落とされた彼は受け身を取って逃げ出そうとしていたが、すぐにラスに捕まり連れ戻されていた。ブレンダの目の前に雪まみれのまま座らせられ、ぶすっとした表情で荷物を抱えている少年はやはりディエゴだ。ブレンダは驚いて身動きが取れていなかったが、ディエゴの寒そうな赤い頬を見て慌てて彼の元に座ると服や頭についた雪を払ってやる。


「なんでここに?とにかく寒いでしょ?暖かい飲み物とかを……あ、荷物置いてきちゃった」

「おい、急に大人しくなったな」

「うるさい」

「はぁ。とにかく一旦荷物のところに戻ろう。獣に荒らされても困る」

「ご、ごめん。何か音が聞こえて、つい……」


 むくれっ面のディエゴを立ち上がらせながら申し訳なさそうにラスを見上げる。彼は服についた雪を払いながら困ったようにため息をついていた。先に戻って行くラスからディエゴに目線を戻せば相変わらず不機嫌そうだった。この状況を飲み込めていないブレンダは、とりあえずディエゴを連れてラスの後に続いた。

 放ったらかしにしていた荷物はどうやら無事なようだ。ここにくるまでディエゴは黙って俯いていたが、ひとまず彼の荷物を受け取ると、先程までブレンダが座っていた場所に座らせる。ブレンダは彼の向かいにしゃがんで俯きがちの彼を下から覗き込んだ。


「ディエゴ、怪我とかはしてない?寒いでしょ。お腹は空いてない?」

「怪我してないし、寒くない」

「そう。でも頬が真っ赤よ?」


 手袋を外してディエゴの頬に触れればひんやりとしていた。やはり寒そうだ。ディエゴの頬を両手で包んで温めてやると、彼は嫌がりはしなかったが相変わらず眉間にシワを寄せている。どうやらここにいる事情は話してくれそうもない。離れたところの岩に寄りかかって様子を見ているラスに視線を向けてみたが、俺を見るなというように肩をすくませている。

 ひとまず何か食べさせてあげようとディエゴの頬から手を離す。お腹が満たされれば少しは話してくれるかもと、昨日教えてもらった発光石をランタンから取り出した。昨日の話によればこれで火がつくはずだ。


「とりあえず、ご飯食べようか!ラス、これで火を起こして。あと昨日のお肉残ってたわよね。あとパンも」


 ラスは片眉を上げて発光石を受けとると、仕方なさそうに火を起こす準備をし始めた。どうやら専用の器具があるらしく地面に胡座をかいて火を起こしている。ブレンダは荷物からチーズとお肉とパンを取り出すとそれぞれを人数分切り分けた。ラスの方へ向かえば、燃え上がっている発光石の上で組み立てた器具に薄い鉄板のようなもの乗っけている。


「そんなの持ってたの?」

「まあな。いつでも旨いもん食いたいだろ。チーズなんて持ってたのか?」

「実は持ってたの。これでトーストサンド作れるわね」


 鉄板はずでに熱々になっており、ラスがナイフで切ったバターを投げ入れ、カットしたパンを並べた。パンがバターで焼ける美味しそうな匂いが空腹を誘う。昨日の残りのお肉に簡単に味付けをして隣に並べて焼いていると、ラスが急に立ち上がりどこかに行ってしまった。少し困惑したがお肉とパンを焦がさないようにしなければいけないので、ひとまずブレンダはそのまま調理に専念することにした。頃合いを見てパンとお肉をひっくり返しトーストの上にスライスしたチーズを乗っけていれば、ラスが両手にきのこと赤紫の丸い野菜のようなものを持って登場した。


「これ、入れるともっと旨いぞ」

「今見つけてきたの?こんな雪山なのに」

「うちの土地の生命力を舐めてもらっちゃ困る。雪のおかげでバランス保たれてるんだからな」


 少しドヤ顔をしたラスは手際よくキノコと丸い野菜をカットするとバターと一緒にまとめて炒めはじめた。ちょうど焼けた肉汁たっぷりのお肉をチーズトーストの上に乗せてその上にまたチーズ、炒めたキノコたちをドサドサ乗っける。即席にしてはかなり美味しそうだ。ディエゴの方を向けば彼は相変わらずだんまりだったが、2人の様子をじっと見つめている。やはりお腹は空いているようだ。極め付けにこんがり焼いたトーストを上に乗っけて挟むと、キノコとお肉のチーズトーストが完成した。

 これは確実に美味しい。ブレンダはエメラルドの瞳をキラキラと輝かせ、ラスもそんな彼女を見て小さく微笑んでいた。発光石の火を止め、具がこぼれないようにパンを抑えながら斜めにカットする。ある程度は持ちやすいはずだ。チーズもいい感じにとろけている。


「ディエゴ、おいで。お腹空いてるでしょ」


 ニコニコと笑ってディエゴを呼べば、ちらりとラスとブレンダに視線を向けて静かに近づいてきた。ブレンダの横に座ったので、熱々のトーストサンドをディエゴに手渡す。少し熱そうにしていたが受け取ると黙ってトーストサンドを見ていた。先程よりは表情が柔らかくなってるようだ。ラスにも手渡すと早速かぶりついていており、ブレンダもパクリと口に頬張る。柔らかくてジューシーなお肉に、チーズとキノコ炒めが絶妙にマッチしててとても美味しい。疲れた体に栄養たっぷりのトーストサンドが染み渡るようだった。



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