表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女には記憶がない  作者:
第2章
13/36

雪の町で調べごと 06

 


「……うーん、だめだ。今日も収穫ゼロ……」


 ブレンダは手元にある“世界の毒薬辞典”に頭を乗せ深いため息を吐をつく。顔を横に向けその日購入した新聞をペラペラとめくってみた。一面の見出しには若くして国王の座に着いた殿下の功績についてのニュースが大きく取り上げられていたが、ブレンダらしき特徴の行方不者のニュースはどこにもない。

 ルアーナと出かけた日からすでに5日たっていた。療養しながら、傷について調べるために本屋や図書館を巡って調査を試みているが、一向に手がかりが見つかっていない。病院でわからなければ図書館でと思ったか的外れだったようだ。体調は万全なものの腕の傷は以前とさほど変わりは無く、相変わらず気色悪い青緑色の肌だった。ずっとこのままなのだろうかと不安になる。


「本当にそんな魔獣いるのかな」

「……病院の先生も知らなかったんだもの。そう簡単にみつからないわ」


 今日はサボらずに正規の方法で休みを手に入れたディエゴと早朝から町に出かけており、引き続き町の図書館に入り浸っていた。図書館にはあまり行った事が無いと話すディエゴだったが、狩人の出入りが多い町だからか生物の本が多く、本を読む彼は楽しそうだ。気落ちしているブレンダには目もくれず、”魔獣の生態について”という図鑑をじっくり読みふけっている。

 ブレンダはそんな彼をじっと眺めていたが内心少し焦っていた。ここ数日全く進展がないからだ。新聞を見ても本を見ても記憶に関する情報はなく、寝ても覚めても思い出す兆しがない。

 何も思い出せないのは厄介でしかない。周りの人にお世話になるしかなく、身動きが一切取れないため焦りばかりが募っていた。せめて魔獣の正体だけでも知りたいと調べてはいるが、小さな町の図書館では調べるのにも限界があるとブレンダは思い始めていた。


「……お腹が空いたわ。今何時かしら」


 ブレンダの独り言が図書館内にこだまする。ここは昔からある図書館らしいがあまり大きい施設ではないようだ。本棚には所狭しと本が並べられ、収まりきらなかった本たちが入り口の扉の周りに積み重なっている。ディエゴが本のページを捲るたびに座っている梯子がギシギシと小さく音を立て、図書館内の備品の古さを物語っていた。

 ブレンダはのっそりと立ち上がると、本の山の隙間から辛うじて見える窓に近づき外の様子を見た。太陽は沈みかけており、大粒の雪がしんしんと降り積もっていた。また小さくため息を吐くと、彼女は机に置いてあった毒関連の本たちを元の場所に戻すために手に取る。その際本を持った右腕がズキンと痛み、小さく顔を歪めると腕を庇うように左手に持ち替える。


「腕、大丈夫?」

「ごめん、つい利き手で持っちゃった。でも大丈夫よ。もう日も暮れてきたしそろそろ帰らなきゃ」

「うん。これ返してくる」


 ディエゴは座っていた梯子を軽快に下りると、読んでいた本を元の場所に戻し帰る準備をし始めた。ブレンダも傷のある右腕を少し摩ると本を片付けて荷物をまとめる。今日も収穫なしか、とぼんやり思いながらフードを被るとディエゴと共に大通りへ向かった。曇りの空から大粒の雪が降っており風も冷たい。暗くなったせいか大通りには街灯の炎が灯り、行き交う人達はランタンを手に急ぎ足で帰宅し始めている。よく見ると昼とは違い体格のいい男達が格段に増えている事に気づいたブレンダはさりげなく街中の人達を見回した。


「ガタイの良い人が増えたわね」

「狩人だよ。夜は獲物を捌きに来たり、飲みに来る人が増えるんだ」

「なるほど。確かに狩人っぽい見た目だわ」


 何かの毛皮なのか暖かそうな外套を着た大柄な男や、黒ずくめで大きなリュックを背負った人など様々だ。見たこともない大きな蛙のような生き物を引きずって歩いてる女性の狩人も見かけたブレンダはいろんな生き物がいるのだなと関心しながら、ふとあることを思いついた。


「ディエゴ。この町で一番狩人が出入りする場所ってどこ?」

「え?んー、タルボットの酒場かな。宿もあってご飯も美味しいし」

「今からそこに案内してくれない?」


 ディエゴは不思議そうな顔をしながらブレンダを見上げた。しばらく訝しげに顔を見ていたが、何も言わずに帰路とは別方向に歩き出したので後を追う。これは案内してくれるようだ。

 しばらく歩くと宿屋が多い通りに出ていた。先ほどよりも狩人らしき人たちも増え、夜なのに通りは活気に溢れている。初めて来た通りだったためブレンダは辺りを興味津々に見ていると、ディエゴが一際大きい宿屋の前に立ち止まった。

 レンガと木造の大きな宿屋には雪が降っているというのにベランダで立ち話をしている人達もいて、確かに人の出入りが多いようだった。ディエゴが指差す方を見れば宿屋の横に地下におりる螺旋階段があり、所々に酒瓶を手に話し込む男の人達がいた。そこが酒場の入り口のようだ。


「あそこがタルボットの酒場。本当にいくの?」

「うん。狩人なら魔獣に詳しいかなって。少し物騒な感じあるけど迷ってられないわ。片っ端からヒューニックの魔獣について聞いてみる……ディエゴは未成年だし出来れば外で待っててくれたら嬉しいけど」

「僕もいく」


 子供を酒場に連れて行っていいのか迷ったが、ディエゴが大人しく外で待っているとはとても思えない。ブレンダは困った顔でディエゴを見下ろすが、彼は素知らぬふりで酒場の入り口をみている。


「案内させといてなんだけど、未成年を引き連れて夜の酒場は少し気が引けるわ」

「ブレンダだって未成年かもしれないじゃん」

「え。……うーん、この見た目で?」


 ブレンダは肩をすくませながら苦笑いをした。記憶が無いため年齢はわからないが、つり目がちの瞳が顔を大人っぽくみせていたし、背も高めなためどう見ても成人済みだった。言い返せず黙り込んだディエゴだったが、店主と知り合いで顔も広いからと強気に主張し引き下がる様子はない。

 知り合って数日だがディエゴの性格がかなり頑固だというのはもう知っている。外に独りで子供を待たせるのも心配かと思い直し、ブレンダは早々に説得を諦め、絶対そばを離れないようにと念押しする。素直に頷くディエゴを連れて酒場の入り口へと向かうことにした。

 鉄の螺旋階段をゆっくり降りていけば、大きな木の扉の前にたどり着く。服についた雪を払い扉の窓から中を覗けば、木の丸テーブルを囲み賑やかに酒を飲んで談笑する狩人達が見えた。宿の地下全体が酒場らしくかなり広い店で、暖色の暖かい光が居心地いい空間を作り上げていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ