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魔女には記憶がない  作者:
第2章
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雪の町で調べごと 03

 


 踏み固まった雪道を慣れた足取りで進むルアーナのあとを歩いていると、こぢんまりとしたレンガ調のお店の前で立ち止まった。屋根に雪といくつかつららをつくり、分厚い窓ガラスごしには店の商品がいくつか並んでいる。


「ここが知り合いの質屋よ。多分まだ寝てるけど、叩き起こせるわ」

「え、開店まで待ったほうがいいんじゃない?」

「開店までまってたら夕方になっちゃう。それより何を質に入れるか決まってる?私、店主を起こしてくるからゆっくり考えて」


 そう言うと、ルアーナは店の裏口を確認するとブレンダを店前に残して、壁沿いに進み裏側へと回って行った。


 (さすがディエゴのお姉さん。やることが大胆だわ……)


 その後ろ姿を見送りながらブレンダは耳のピアスを両方外した。また言いようのない寂しさに襲われたが、落ち着かないのを我慢して手に持ったピアスをよく見た。手入れはされているが年季が入っているのか、少し細工が古くなっているようだ。


「候補はやっぱりこのピアスよね。でもあまり手放したくない。他には短刀と指輪くらいか」


 指輪とピアスと短刀をブレンダは眉を潜めながら観察する。短刀はかなり使い込んで汚れて古いし、これから町を出るとしたら護身用に持っておいた方がいいかもしれない。一番売れそうなのはピアスだが、大切なものなのか手放すのがとても嫌だった。指輪は状態も綺麗だしライラック色の宝石がすごく高価そうだが、名前が刻印されているのできっと誰かからの贈り物のはず。自分を知る手がかりになりそうなものを手放すのは惜しい。

 ブレンダが唸りながら悩んでいるとベルの音とともに店の扉が開いた。扉からは寝癖を爆発させた丸メガネの小太りな男性が不機嫌そうに顔をのぞかせた。ブレンダはいきなり現れた男性にギョッとした表情になったが、その後ろからルアーナがヒョコッと顔を出し、笑顔で手招きをする姿に小さく息をつく。


「あんたか、ルアーナを俺の部屋に忍び込ませたのは。お陰でクソ最悪な目覚めだ」

「健康的な時間に起きれてよかったじゃない。どうせ昼夜逆転してるんでしょ」


 ぶつくさ文句を言う男性はブレンダを店に押し込むと眠そうにあくびをしながら扉をしめ、かったるそうに店の奥へと進んで行く。男性の不機嫌そうな態度に緊張したブレンダだったが、ルアーナはまったく気にしていないようだ。

 こっそり部屋を見回すと変な置物や何かの獣のバッグ、古そうな時計などが所狭しと並んでおり、見たことがないものもたくさんあった。ルアーナに腕を取られ奥へ進めば、小さなカウンターに狭そうに小太りの男性が座り、訝しげにブレンダを見つめていた。


「で、こんな時間から俺を叩き起こして売りたいものはなんだ」

「ミゲル、そんな怖い顔しないでよ。私とあなたの仲でしょ」

「うるせぇ、ただの腐れ縁だろ!営業時間は夕方からだぞまったく!」


 ミゲルは早くよこせと言わんばかりにズンクリとした手をブレンダの前に差し出してきた。寝起きなのか目をシパシパと瞬きさせる彼を見て可笑しそうにルアーナが笑っている。どうやら長い付き合いなのか2人はとても仲が良さそうだ。まだ笑っているルアーなを横目に慌てて手にもっていた物を手渡した。


「これは、ピアスだな。この石は珍しそうだ。これは家宝かなんかか?」

「えぇ。そんなところよ」

「ブレンダ……そのピアスにするの?」

「うん、一番価値がありそうだしね」

「査定するから少し時間をくれ」


 やはり使えそうな短刀や、手がかりになりそうな指輪を手放すよりはいい。モヤモヤする心をぐっと我慢し、査定し始めるミゲルの手元をじっと見つめた。ブレンダは査定が終わるまでその場で見ていようと思っていたが、ルアーナが気を利かせて店の中を見て回ろうと声をかけてくれたので、それに続いて店の中を物色することにした。

 ミゲルのお店は広くはないが割と清潔感はあり、ごちゃついてそうで意外と整理されているという、微妙なバランスを保っていた。ブレンダは綺麗な石が並べてあるケースの前で立ち止まり、その中に少しだけある美しい原石たちを眺める。


「これって、私のピアスと同じ石かしら」

「たぶん?色は違うけどそうなのかも。私、石は詳しくないのよね」

「すごく綺麗。原石でも素敵ね」


 石は加工されてない状態だったが、表示されている値段は思ったよりも高価だ。ミゲルはピアスの石を珍しいモノと言っていたが、そんなに珍しい石だったんだろうか。表面が小さく煌いている石達をぼんやりと眺めていると、いつの間にかルアーナがミゲルと話し込んでいた。どうやら査定は終わったようだ。


「そのピアスはどう?」


 近づいてブレンダがミゲルにたずねると彼はルアーナをチラリと見上げた。ルアーナは難しそうな顔をしてピアスを見ていたが、2人の視線に気づくとパッと顔を上げブレンダに視線を向けた。


「ちょうど査定が終わったみたいなの」


 何でもないように微笑むルアーナをミゲルが呆れたように見ていたが、ブレンダの視線を感じ、彼が歯切れがわるそうに口を開く。


「あぁ、まぁ何と言うか。状態がいいピアスとは言い難いが、すごく価値のある魔法石を使ってる。だがピアスはかなり古いぞ。少し汚れてるし。だから値段はそんなに ── 痛っ!わかったよ!」


 言いよどみながら答えるミゲルの足をルアーナが思いっきり蹴っているのが見えた。ルアーナの鋭い目線に大きなミゲルの体は気まずそうに縮こまり表情はかなり不満気げだ。


「このピアスは確かに古いが、魔法石は相当のものだ。本当にすごい」

「魔法石……そんなにいいものなの」

「そうだな、うまく売りさばけば首都で別荘を気軽に買えるってところかな。大富豪だ」


 ミゲルがやってられんと言わんばかりの表情で答え、ブレンダは驚いて目を見張る。そんな高価なピアスを耳につけて平然と歩いていたのかと唖然としてしまったが、それよりも予想をはるかに超えた大金に少し戸惑ってしまった。ルアーナはそんなブレンダの様子を何も言わずに見つめている。


「そう……思ってたよりすごい品物なのね。でも、別荘が買えるほどの大金はいらない。持ち歩けないし、ある程度でいいの。あそこに飾られてる原石と同じ取引額で取引出来ないかしら」

「正気か?こんなに価値があるのに。もったいない。まぁ、俺的にそんな大金用意できないから助かるがな。そうだな……利子はかさむが3ヶ月以内に金額を揃えて貰えば戻ってくるぞ。あんたがそれでいいならな」

「それでいいわ。ありがとうミゲル。それにルアーナも」


 ミゲルはお得な取引ができたことに上機嫌なようでお金の入った袋をいそいそと準備していたが、ルアーナは複雑そうな表情だ。受け取った袋の中をみると十分すぎる紙幣と金貨が入っておりブレンダはホッとした。しかし、ピアスを手放す不安が大きく名残惜しげにピアスを見てしまう。

 すると急にルアーナがブレンダの手を取り、立ち上がろうとするミゲルの腕も掴んだ。



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