君と二人で
次の日の昼。僕は一人でいつも行く喫茶店で、珈琲を嗜んでいた。ここの珈琲はマスターのオリジナルブレンドで…いつ飲んでも飽きない位苦味や酸味の比率が変わる。
「今日は…割とビターなんだな。」
僕はそう言葉を零し窓から見える景色を眺めていた。昼にここに居るのには勿論…珈琲が好きだからなのも有るが…ある人物と待ち合わせをしているっていうのもあったりする。
「あいつ…今日午前だけしか講義無いとか言ってたからな…多分そろそろ来るんじゃないか?旅行の誘い…琴葉はのっててくれるだろうか。…楽しみだ。」
遡ること数時間前。僕は外に出ていた時に大学に向かって歩いている琴葉に話しかけていた。
「あっおはよう。今急いでたりするか?」
そんな変哲のない僕の挨拶と質問に琴葉は、微笑んで答えを返す。
「おはよう!ううん!急いで…ないかなぁ?今日余裕あるし!どうしたの?」
そう言った琴葉に僕はこんな言葉をかける。まるで自分を突き動かすように…。その時僕の声以外に鳥のさえずりと、遠くの国道で車が走る音しか聞こえていなかった。
「今日の昼…いつも行っていたあの喫茶店に寄って欲しい。話したい事がある。」
そう言うと琴葉は首を傾げ…何時ものようにそんな僕の誘いにのってくれた。
「うーんと…お昼?あっそうか…私今日は午前講義だけだもんね!うん!分かった!んじゃ…お昼にあの喫茶店ねっ!」
そう言い琴葉は大学へと向かった。それが今日の朝方の事である。
そうして今現在に至る。僕は珈琲をすすりながら琴葉が来るのをこうして待っている途中なのだ。
「…もうそろそろ来るはずだが…」
そう言った次の瞬間…店のドアが勢い良く開かれ…恐らく自分と同年代であろう女性数名が入ってくる。その中に…琴葉が居た。
「あっ!廻!ごめん!遅くなっちゃったっ!」
そんな言葉を、第一声に発した琴葉に僕は微笑みなが…ら優しい声色で何時ものように返事をした。
「ん…あぁ…全然待ってないから大丈夫だよ。」
そうして僕の横の椅子に座ろうした琴葉だったが…同級生に茶化されて少し慌てていた。
「琴ちゃん…なーんかそわそわしてるなぁ…って思ったら!気になる遠江さんが待ってたのねっ!」
「なっ!?ちょっ!ここでは言わないでよぉ〜!もう!」
そんなやりとりを僕は微笑ましく見守っていると…後ろから僕に対して一つ声がかけられる。
「あのっ!…一昨日は…すみませんでした。」
その声の方に顔を向けると…一昨日琴葉の財布を届けに来た時に居た気の強そうな人だった。
「ん?あー…別にいいよ。僕も説明無しであんなことしたんだ。そういう風に言われるのも当然さ。それに…そんな気にしてないし。」
僕はその一言を言い…視線を前に戻すと琴葉と琴葉の友人のやり取りがまだ続いていた。
「…それと!違うからねっ!廻とは「幼なじみ」ってだけだからねっ!分かった!?」
そう言う琴葉を微笑みながら見ていると….状況を察したのかその友人は話を切り上げ僕達とは遠いテーブルへ向かっていった。
「はいはいっ!…って事で!後は二人でごゆっくり〜。」
「あうぅ…なんで「私達も付いてくっ!」って言ったんだろ…これじゃ恥ずかしい思いすんの私だけじゃん…。」
そう言い頬を赤くし…困った表情を見せる琴葉。それを僕は可愛いと思えた。そりゃそうだ。だってもう「ただの幼なじみ」と思っていないのだから。
「おほん…本題に入っていいか?」
僕は少し咳払いをした後そう琴葉に問いかける。その言葉を聞き琴葉は僕の方へ視線を意識した。
「ん?ああー!ごめんねっ!今日話したい事があったから私を誘ったんだもんね!うん!んで…話したい事って?」
まずここの話題まで来るのにグダグダしてしまった事を謝り…僕にそんな質問をした。正直…今思うとこれを言うのも少し恥ずかしい。だが…決めたからには前を向いて進まないといけない。だから僕はその言葉を口にした。
「あのさ…もしクリスマス…いやクリスマスイブの日予定無かったら一緒に旅行に行かないか?」
そう言うと琴葉は少し戸惑いを見せながらこんな質問をしてきた。
「あの…それってバンドのメンバーで?それとも…私と二人きりで?」
そんな琴葉の質問に対する答えは…もう決まっていた。僕はすぐにその答えを…自分の思いを琴葉に言った。
「二人きりで…お前と二人っきりで…旅行に行きたいんだ。」
僕がそう言うと琴葉は視線を落とす。急過ぎただろうか…そう思っているとか細い様な声で琴葉はこんな事を言った。
「ホントに…私とだけで良いの?」
僕は嬉しそうな…それでも悲しそうな声を絞り出した琴葉を見て再度同じ事を口にした。
「ああ…いや…お前とだけじゃ無いと嫌なんだ。」
あの話し合いから一時間が経ち僕は自室のベッド上でくつろいでいた。結論から言うと…僕と琴葉はクリスマスイブに二人で旅行に行くことになった。僕はその事が楽しみで仕方ない。
「琴葉…僕は君に伝えたい事をしっかり伝えられるだろうか…いいや…伝えてみせるよ。」
一人しかいない自室でポツリと…僕はそう言葉を零すのだった。




