酒と友と
練習が終わり夜になった今…俺は一人バーで酒を嗜んでいた。オーダーを取り…酒の入ったグラスの上を持ちクルクルとカウンターテーブルの上で踊らせる。
「全く…此処でこう自分には合わねぇウィスキーを嗜むって事やるのも…あと何回出来るか…アイツとよ。」
俺はそう一人で呟き注がれたウイスキーを口に含む。実は俺は一人人を、待っていた。まぁ…誘われた身だが早くついてしまったが為に暇をこのバーで持て余していたのだ。とっ…早速俺をこのバーに呼び出した人物が店内に入ってきた。その人物は俺を見つけると…俺の方へゆっくりと距離を詰めていく。俺は隣のカウンターチェアを引きずり出し…その人物が近くに来たと同時に陽気に…かつ俺らが、生まれてくる少し前にやっていた都会の始末屋にフォーカスを置いたアニメのキャラの様にこんな言葉を口にした。
「よう…遅かったじゃねぇか。待ってたぜ。」
そう言った直後俺の隣に座った人物がこんな事を言ってオーダーを取る。
「おう…ってなんだ?その一昔前のハードボイルドアニメありそうなセリフは?…っとカシスソーダで。」
そう言いながら静かに笑みを見せる廻。コイツと…俺らのバンドの中心人物であり…友であるコイツとは後どれ程の時間一緒に居れるのだろうか。ふと無意識にそんな想像を俺はしてしまう。
「ん…あっそういえば…裕二。お前あの旅行券いつ貰ってきた?さっきチラッと目を通したら…応募期限昨日までだったぞ?」
その言葉に俺は我に返り驚いた声をあげる。何故ならその事を今知ったからだ。
「え?うっそだぁ!んな事あるわけねぇだろ?な?…ホントか?」
俺がそう聞き返すと…廻は呆れたように旅行券を見せてきた。そして旅行券の下を見ると小さい字で「応募期限二千五年 十二月二日まで」と書いてある。
「本当に書いてあるわ…すまねぇな!っと…んで…どうするよ?コレが無きゃ旅行は自腹だぜ?」
俺がそう言うと廻は笑みでここんな事を言ってくる。その言葉に俺は、ただ黙っておく事しか出来なかった。
「モチのロン…行くに決まってんだろ?偶には僕だって遠出したいさ。」
そう言い終わり頼んだカシスソーダを口に含もうとする廻に、俺は一つこんな事を聞いた。
「琴葉ちゃん…とか?」
その言葉にカシスソーダを口に含もうとする廻の手が止まった。グラスから口を遠ざけた廻は俺にこんな言葉を静かな声で言ってきた。
「…なぁ裕二?どうしてそんなに琴葉と僕の事が気になるんだ?君には君の時間があるんだからそんなに僕や琴葉の事を気にかけなくてもいいんじゃないか?」
そんな廻の言葉に俺はため息をつき…自分の思う事を口にした。
「何言ってんだよ…あるさ!気にすることなんざ…いくらでもな。まず…お前さん前に言ってたよな?「琴葉ちゃんにどう自分の想いを伝えようか分からない」ってよ。あの言葉は覚えてんのか?覚えるんだったらホントにそろそろ動いた方が良いぜ?って思うんだよお前さんはもう自覚してるだろうが…その…。」
俺がそう言葉を詰まらせる。理由なんてもう簡単だ。コイツは病気で…もう先が長くない。勿論俺や恭太郎が言わなくとも…そんな事は当の本人である廻が一番分かっているはずだ。
「ああ…分かってる。動かないといけない事も。裕二…お前が言いたい事も。僕はさ…逃げていたんだと思う。「どう伝えれば良いか分からない」って言って…でももうそれじゃダメなんだ。そう言って逃げて…やれた事をやれずに終わるのは嫌だから…僕は決めたよ。「逃げない」って最後くらい…最後くらいは実行に移して後悔したいからさ。」
そう言い廻はカシスソーダの入ったグラスに口を付け…中に入っているカクテルを口に含む。その光景を見て俺は廻が前に、進んで行っている事を悟った。何故だろう…それが分かると嬉しい様な…寂しい様なそんな感覚に襲われた。
あれから二時間後。廻がこのバーを後にして俺はしばらく何も喋らなかった。ちょっと前のアイツだったら考えられない様な言葉を聞けた事に俺は、戸惑いを隠せていない。すると…目の前から酒の入ったグラスを置いたマスターがこんな事を話す。
「先程の方とは…お知り合いですかね?あの方はよくカシスソーダを頼んで来る人なので印象に残ってますよ。」
そんな言葉に俺は放心状態から我に返り…マスターの質問に返答を返していた。
「え?あー……アイツ高校からの友人でしてね。昔一緒にバンドやってたんですよ。想い人に自分の事伝えないから「ああっ!もう!じれったい!」って思ってたんですけどね〜…いやなんつーか…人って変わっていくんだなぁ…って。」
そんな俺の話にマスターは首を縦に振り…俺のそんな言葉に一つこんな事を言ってきた。
「そうですね…人というのはいつか変わります。でもそれはいきなりでは無く…時を経て少しづつ変わって行くものなんです。ずっと…ずっと…ね。」
そう言いグラスを拭く作業に入るマスター。そんなマスターの背み見て俺は廻がどれだけ考えて…さっきの結果に繋がったのか…俺はそれを理解し尽くした…そんな感じがした。そしてマスターにあるカクテルを注文した。
「あのマスター…注文良いか?」
そう言うとマスターは柔らかい口調でこんな言葉を返す。それは何処か人生を振り返った人の様な…そんな気がした。
「なんなりと。」
俺はその言葉の後…アイツが…廻がよく注文するカクテルの名を口にしていたのだった。
「じゃ…カシスソーダで!」




