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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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火照る身体と貴方の体温

廻と一緒にコンビニの前で夜食を食べ…帰路に着いた時から一夜空けた時…私は母の声で目が覚めた。その声は遠くで鳴る鶏の声よりも大きく高く大きく…けたたましかった。

「琴葉っ!起きなさい!ほら!大学遅れちゃうでしょうがっ!」

そんな言葉が私のいる自室に響き渡ると…何故か重い身体を何とか起き上がらせて腑抜けた声を出していた。

「うぅ…うーん…もう朝?」

気だるげな私とは違い…母の声は「どこからそんな元気が出ているのか?」と問いただしたいほど明るい。全く…どうしたら朝からそんな声が出せるのやら。

「ほら!早く起きて!顔洗って!ご飯食べて!大学行く!寝ぼけてても駄目よ!」

そう発破をかける母に私は弱音のような事を吐き出した。最初こそ「やる気の問題では?」と言われたが私の顔色を見たのか…母は声色を変えて一言言葉を残し一階へと戻って行った。

「やる気の問題じゃないの…ってちょっと待って?琴葉…そこで待ってなさい?降りてきちゃダメよ?」

そう言われても…重い身体に鞭を打つような事をしたくは無いから動かないのだが…と思っていたら母はすぐに私の自室に帰ってきた。しかし…部屋に入ってきたや否や私に体温計を渡してきた。

「これ脇に挟んでて!」

その母の言葉に従い…私は、体温計を脇に挟んだ。しばらくして体温計から「ぴぴぴっ!ぴぴぴっ!」と機械音が鳴り響いた。その直後体温計を取り出し…数値を見て私は言葉を絞り出す。

「……三十七度九分…高くない?」

そう言った後母は呆れた様な口調で一つ正論を吐き出した。それに私は何も言い返せなかった…だって事実なのだから。

「全く!昨日肌着のままで寝たからよっ!少し反省しなさい!おたんちん!…んで今日は休みなさい!良いね?」

そう言い終えた後母は仕事に行く支度をし始めた。どうやら今日は外せない商談があるんだとか…私はこの広い家で一人過ごすのかと思うとため息しか出てこなかった。


風邪をひいたと分かってから三十分ぐらい経過した時だった。階段の下から母が私に問いかける声が聞こえる。

「琴葉ー?お母さんそろそろ行くからね?」

そんな声が聞こえて…ドアが閉じる音が聞こえたたらこの家の中は無音が支配するはずだった。実を言うと…昨日から父は出張で居ない。そしてつい先程母が出たばかりだ。なのに…一階から足音が聞こえてくる。ただ足音が聞こえる…だけならまだ良い。その足音はあろう事か階段を上がり始めていた。

「え?なんで足音がするの?てか…階段を登ってない?」

と…ここまで推測するのにそう時間は、掛からなかった。泥棒だと…そう思い身構えた次の瞬間…「ガチャ」と私の部屋のドアノブが回った音が聞こえ…「キィィ…」と音を立てた。そして…

「ふーん…亜希子さんの言う通り…ホントに風邪引いたんだ。」

と廻の声が聞こえた。私は驚きを隠せず…ベッドから起き上がり…どういう状況か確認する。

「え?廻?なんで?ええと…え?」

どうしてここに廻が居るのか分からない私に…その当の本人が説明する。それを聞いて何故かすぐに私は納得がいった。

「さっき亜希子さんに言われたんだ「琴葉が風邪ひいたらしくて心配だから僕に見といて欲しい」って…んで…どーせ昨晩僕とコンビニから帰る時に雨に濡れて帰ってきてから何もしなかったんだろ?」

納得のいく理由と共に廻の口から出たものは…私が風邪をひいた大まかな理由で…聞いていて恥ずかしい。家族ならまだ恥じる事なんて無いと思うが…よりによって好きな人にそれを言われると数倍違う。

「うぅ…廻にだけは言われたくなかったなぁ…だって…風邪ひいた理由が馬鹿なんだもん。」

私がそう弱音を吐くと廻はベッドに座り込み…私の頭を軽く撫でた。私は廻のその行動に、火照る身体を丸くする。廻は首筋を触りながら私に言う。優しい声色で…優しい言葉を…。

「いや…あれは僕がすぐに行動に移せなかった事に非がある。お前は自分を責めなくても良いよ。それにしても…熱いな。朝飯まだだったよな?あんま胃に負担かけちゃいけないだろ?何が良い?」

そう聞いた廻に私は…照れて紅く染まった顔を隠しながら小さな声で頼み込んだ。

「……うどん…うどん…お願い。」

そう言った直後廻は、部屋に入った時に持っていたビニール袋を手に持ち…一階へ降りて行った。

「……廻の不器用。」

私は火照る身体を更に丸めながら…そんな言葉を吐き捨てた。誰も居ない…自室で。だって…廻の手は…私の好きな人の手は…暖かく冷たかったから。


廻がキッチンでうどんを作りに行ってから十五分程経過した。私の部屋の扉が弱々しく開き…トレーの上に鍋を乗せ廻が入ってきた。

「ほら出来たぞ。すまないが味は保証出来ない。」

そう言いそれをベッドの横にある机の上に置く。私は起き上がりベッドの上に座り込むと…廻は鍋の蓋を開けていた。

「あっ…美味しそ…ありがと。」

見るからに普通の醤油ベースのうどんだ。でも廻の事だ…何か隠し味を入れていると予想し…そのうどんに手をつけることにする。一口入れてみた感想は…すぐに出てきた。

「…あれ?廻?これ生姜入れてる?なんか…ちょっとだけ生姜の味が…」

そう言いかけた直後廻が少しだけ笑い…私にこんな事を言ってきた。まぁ…病人を看ている廻にとってはその言葉が出てくるのも当たり前かと少しばかし思った。

「ん?ああ…お前風邪ひいてるだろ?だから生姜入れた。ま!とりあえずそれ食って身体温めて寝てくれ。」

廻のその言葉は少しさばさばしていて寒かった。でもそれとは反対的に彼がしている行動は…つい先程火照っていた私と同じぐらい温かいものだった。

「…ほんと不器用なんだから…。」

「なんか言ったか?」

「いや…何も。」

そんな不器用で温かい廻に私は…そう言うしか出来なかった。

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