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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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冬雨降る夜空に

恭太郎と小夏…裕二が帰り家には僕一人だけとなった。 今リビングは、一人で居るが故の静寂さに包まれていた。正直に言ってしまうと…僕はこの一人の空間がすごく嫌いだった。だって僕一人だけでは明るいれないから…今のこの状況は、まるで僕の心に出来た静寂さを語っている様な気がした。そんな中僕は、カチカチと秒針が動く音を鳴らす壁掛け時計に目を移す。

「もう午前零時か…そいえば腹が減ったな…。」

時刻は午前零時十五分…今思い返せば琴葉と一緒に来た琴葉の同級生が、家を出る前に放った一言がどうしても頭を駆け巡る。そればかりに気を取られて…夕食をとっていなかった。しかし冷蔵庫の中を覗いても…ほぼ何も無いのは予想外だった僕はこんな言葉を吐き捨てる。

「久しぶりに…コンビニで食うもん探すか…」

そう言って僕は厚めの服の上に…冬によく着ているミリタリージャケットを羽織り…その上にジャンパーをもう一枚羽織ってキーケースと財布を手に取り玄関のドアノブを捻った。「ガチャ…」と鉄が濡れた様な音を立て…扉が開かれる。

「…行ってきます」

と僕はか細く扉に向かって呟き一人コンビニまで歩いた。どうやら外は雨が降っているようで…何が当たった場所を拭うと手が濡れていた。

「傘も必要だな…良し…持っていくか。」

そう呟いた後僕は、傘立てから一本黒い傘を手に取り…足をコンビニまで進めることにした。目的地までは十五分とそこまでかからないが…僕は暗い中だが高校の時のことを懐かしんだ。理由は簡単だ。今向かっているコンビニがある道は…高校時代の通学路だったからだ。

「懐かしいなぁ…夏とかは祐介と二人で…琴葉をコンビニで待っていたもんだ。そっからコンビニに入って…アイスとか買って帰宅中に食う…うん。あの頃僕らは青春していたもんだ。」

最も…それが出来たのは高校一年の時だけ…そこからはバンド活動に勤しんでいた為三人で帰ることすら出来なかった。…いや練習が無い時はいつも通りの三人で帰っていたのだが…。

「…琴葉だけ別の高校だったから余計三人であのコンビニでたむろする事なんて無くなったもんな…ハハッ…。」

一人冬に降る雨の中僕は乾いた笑い声を零す。しかしそれは一瞬にして雨音によってかき消されてしまった。でも一人でそんな笑い声を出したんだ…そうなってある意味当然なのだろう。

「っと…着いたな…。」

そう言った僕の目の前には…何処をどう見ても普通のコンビニで…僕は今からそこで夕食…いや…夜食と言った方が正しいのかもしれない…とりあえず食べる物を探しに…店の中へ姿を消して行った。


コンビニの中へ入ると…まるで春のような温かさが僕の顔に当たる…暖房から出る風…成人向け雑誌の前で本を広げる中年…煙草を買おうとする暴走族か不良か…夜中のコンビニ程魑魅魍魎と言っていい場所等なんて他にあるのだろうか。僕はそれらを全部無視して…温かいお茶とクッキーみたいな管理栄養食品をカゴに入れ…にぎり飯のコーナーに即座に向かう。

「あっさりしたいから…うん塩だな。」

そう言って僕が商品をカゴの中へ入れようと…手が伸びる。しかし反対方向から、僕では無いもう一人の手が伸びていた。

「あっ…すいませんっ!」

と高い声が隣で聞こえたが…それ以外にもその声がいつも聞いてる声に瓜二つなのだ。僕は思わず視線を右隣に向けると…そこに居たのは琴葉だった。

「……琴葉?」

僕がそんな声を出すと驚いた様なのか…琴葉は僕の方へ視線を切り替えた。

「えっ…あっ…か…廻…居たんだ。」

僕はカゴに入れようとした塩にぎりから指を離し…アサリの時雨のにぎり飯をカゴに入れた。それだけでは無い…僕は琴葉のカゴの中身を全て自分のカゴに移し…男気を見せるかのようにこんな言葉を言った。

「…ここは僕が払っておく。君は入り口で待っててくれ。」

「…え?」

僕がそう言った直後琴葉から返ってきた言葉はそれだけで…拒否する事も肯定する事も無かった。恐らく困惑してしまったのだろう。仕方ないと思う…だってこれは…僕がしたくてしている事なのだから。


会計を済ませ…僕は入り口に戻り琴葉と合流した後店前で、買った物が入っている袋を二人で物色していた。僕が琴葉が買う予定だった物を渡し…琴葉は僕が自分で選んだ物を渡してきた。

「あ…ありがと。」

そう言って僕が渡した物を受け取る琴葉。その表情は無に等しかったが…頬は赤く夕焼けの様に染まっていた。

「こっちもありがとな。」

僕がそう言った後二人でにぎり飯と温かいお茶を、喉に通しながら…コンビニの前を走る国道を眺めていると琴葉が寂しげな声でこんな言葉を口に出していた。

「雨…止まないね。」

そんな言葉に僕は、琴葉の顔を見て言葉を返す。しかし…琴葉が今どんな服装なのか…それが分かった時点で雨の事など…どうでも良くなった。

「ああ…確かに止まないな…っておい琴葉…お前そのジャンパーの下何着てる?」

首を少し横に傾けた琴葉が僕に言った言葉に…僕には不安が頭の中を駆け巡った。

「え?パジャマと下着だけ…だけど?」

誰か知り合いが居れば ほらやっぱり と言いたくなるような回答に僕は頭を抱える。今は秋か?いいや今は十二月…冬真っ只中だ。しかも雨が降ってる中でパジャマと下着だけという…脳筋にも程がある。

「はぁ〜…お前それじゃ寒いだろ。」

そう言って僕が琴葉に被せたのは…自分が着ていたジャンパーだった。ふさっと被せられた物に琴葉は驚きのあまり声を上げ…その直後冷静さを取り戻したかの様に僕に質問をする。

「ふぁっ!?え?コレ…廻…え?寒くないの?」

そう聞いてくる琴葉に僕は、顔を逸らしながら答えを口にする。…どうしてか知らないが前より琴葉の顔を見て話すことが出来なくなってきたような気がする。気の所為だと思いたいものだ。

「…寒くねぇし…僕の事なんて良いからとりあえずそれで暖を取れ。」

「え…う…うん…あの…ありがとう。」

僕がした何気ない言葉と行動に返ってきた言葉がそれだった。嬉しいが…恥ずかしさに近い様なものを感じた僕はまだ顔を逸らしながら琴葉が言ったその言葉に返事を返していた。

「…別に気にすんな。」


三十分程コンビニでたむろした後…僕らは同じ傘に入りながら帰路につく。所謂…相合傘というヤツだ。互いに傘を持ってきているのに…琴葉が一つ提案をしたのだ。「二人で一つの傘を使おう?」と僕はその提案に否定はしなかったが…何故だろう互いに無言の時間が続く。このままそれぞれの家に着くまで会話一つもしないのかと思っていた時だった。

「懐かしいなぁ…ね?廻もそう思わない?」

そう言った琴葉に僕は疑問符を浮かべる。僕らが相合傘…なんてした事あっただろうかと…

「……何が?」

僕がそう聞き返すと琴葉は、僕の前へ傘も指さず歩いて振り返った。そして…

「お祭りに三人行った時さ…いきなり雨降ってきて「一緒の傘入ろ」ってなってでも入れなくて…皆びしょ濡れで帰ってきて…次の日皆風邪ひいて学校休んだ事…あれ思い出しちゃった。」

雨に打たれながらそう言い笑みを浮かべる琴葉に、僕は息を飲み込み…こう言っていた。

「小六の時の事か?」

僕がそう呟くと琴葉は微笑みを浮かべながら僕にこう言った。その時の笑顔が、雨粒によってより綺麗に見えたのは言うまでもない。

「うふふっ!廻ってばすぐに答えるんだから…もう記憶力良すぎ。」

そんな会話をして歩いていると…僕らの家はもう目と鼻の先まで迫っていた。ここで僕らは互いの家へ帰ることにする。

「んじゃ…また明日ね。」

そう言い琴葉は目の前に建っている家の中へと消えていった。それを見送る事しか出来ない僕は、その冬雨が降る夜空を眺めながら一つ言葉が漏れてきていた。

「何時までこのモヤモヤした…冬雨降る夜空みたいな感情は消えるんだろうな…。」

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