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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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初めて出来たファン

僕が玄関を開けるとそこには友達とあの喫茶店で珈琲を飲みながら課題やらレポートやらをしているはずの琴葉が何故か立っている。それだけでは無い…何故か喫茶店に入ったメンバー全員集合で来ており…僕は困惑を隠せない。

「え?どうしたんだ?今日は練習なんて予定に入れてないぞ?」

僕がそう言い首を傾げる…すると裕二がこんな質問をしながら玄関に顔を出す。その声はまるで縁側で寛ぐお父さんみたいな声だった。

「んだよ廻…見知らぬ宅配便でも来たのか…って琴葉ちゃんじゃねぇか…どうした今日練習ねぇぞ?」

裕二が豆鉄砲を食らった鳩の様な顔をしながら質問すると…琴葉の友達グループの内の一人が驚きながら声をあげる。

「あーーーーっ!琴葉のお兄さんっ!」

そんな言葉を聞くなり僕は困惑する。いつこの二人が兄妹になった?そう思わざるを得ない。裕二はその言葉を否定する訳もなく話を続ける。

「ん?おー!いつも妹がお世話に…」

そう言おうとする裕二の言葉を僕は自分の疑問符で遮ろうと必死になった。だって…琴葉は一人っ子なのだから。

「ん?え?いやいや…裕二お前何言ってんだ?琴葉は一…」

そう言いかけると…裕二は僕の口に手を強引に置き僕の言葉を遮った。余程聞かれたくないのだろう…僕の顔面とぶつかるんじゃ無いかと疑う位まで顔を近付け…小さな声で僕に念を押す。

「静かにしとけっ!口答えすんなよ…この子達にはそういうていで話通してんだ。」

そんな僕の知らない所で何があったのだろう…それが気になるが故琴葉にも聞いてみる事にする。しかし…琴葉も答えを簡単に言ってくれない。むしろ…ねじ伏せられた様な気がした。

「なぁ…琴葉…お前いつから裕二と兄妹になったんだ?」

僕がそう聞くと琴葉は、濁りの無い笑顔を僕に見せ…こんな約束事を提案した。

「廻…ギターの調子悪かったよね?後で一緒に見てあげるから。お手製のアップル・パイも出すから。」

僕はその言葉に半ば強引に疑問符を壊しこう言葉を返す。いや…こう返すしか無かったのかもしれない。

「…承った。」

そう言った直後琴葉と一緒に来た一人がこんな事を言い出した。恐らく琴葉本人から聞いたのだろう…。全くまだ人に見せれるほど魅力的では無い演奏なのにな。

「そいえば琴ちゃんから聞いたんですが…琴ちゃんのお兄さんと廻さん?でしたっけ?バンドやられてるそうですね!そのバンドのベース担当が琴ちゃんなのは本当ですか?もしそうなら…一曲お願いしてもよろしいでしょうか?」

僕はその提案に悩み口を濁す。何故なら全く人にみせるような演奏なんかしちゃいないからだ。

「うーん…そう言われてもなぁ…」

僕がそう言い顎に手を添える。すると裕二が肩に手を置き僕にこんな提案をしてきた。僕はその提案に驚きを隠せず困惑した。

「良いじゃねえか?いつか俺らもライブとかするんだからよぉ…今のうちに慣れとかなきゃ損だぜ?」

裕二がそう言った後琴葉と共に来た四人も頷き裕二の提案に同調する。

「そうですよ。いつか琴ちゃんの所属してるバンドのライブ…本番で見てみたいなぁ〜。」

そう言われてしまったら…流石に僕も考えを変えたくなる。僕はため息を一つついた後裕二にこんな頼みをした。僕は別のやる事ができてしまったのだから。

「はぁ〜…裕二。恭太郎と小夏に連絡しておいてくれ「今から僕の家に集合」って。」

僕がそう言った直後琴葉と一緒にここに来た四人の内一人が質問した。まぁ…説明もしてないからされるのは当たり前か。

「あのっ…その…出来ませんか?」

そう聞いてきた一人に僕はいつもの様に無機質な言葉でこんな事を言う。その言葉を聞いた直後喜ぶ者が大半だった。

「…メンバー全員揃ったらやるから…とりあえずあがりな…紅茶か珈琲しか無いがすまないね。」

そう言った後玄関が嫌に賑やかになった。よほど楽しみにしているのだろう。その声はリビングに入るまで続いていた。ずっと…ずっと。


琴葉が客人を連れてきて三十分は経過しただろう。恭太郎と小夏が僕の家に楽器を持ってやってきた。二人とも何事かと思うような顔をして僕と裕二に質問をする。

「いきなり「楽器持って廻の家集合」って裕二どうしたんだ?何か悪い物でも食べて馬鹿になったか…あ…馬鹿は元からか。」

続けて小夏も同じ様な顔をして僕の家の中へ入ってきた。まぁ…いきなりの招集だ無理も無い。部屋に入るなり小夏も恭太郎と似たような事を僕らに言ってきた。

「えっと…今日って練習じゃ無かったですよね?とち狂いましたか?」

そんな二人に裕二は準備する様に促す。それはまるでこのバンドに、琴葉や小夏が来るずっと前…まだ祐介が居た時に見た光景とどこか似ていた。

「あの頃が懐かしい。まだ祐介が居なかった時僕らのバンドにはファンなんてもん一人も居なかった…。今日初めてファンが出来たのかもしれないな。」

いつの間にか僕はそんな言葉を小さく呟く。そうして皆の準備が終わった時僕の掛け声で演奏が始まる準備を全員で整えていた。僕と裕二は全員に伝わるような声で問いかけをする。

「準備はもう出来たか?」

そんな問い掛けの後皆首を縦に振っていた。そして…僕のギターと琴葉のエレキベースが音を立てた後…コーラスも担当している琴葉が歌い出す。

「トゥー・トゥー・トゥー…」

琴葉のコーラスと共に流れるエレキベースとエレキギターとドラムの三重奏がしばらく続き僕は歌い始めた。まるで今心に隠してる言葉を歌う様に…。

「どこまで行くの 僕達今夜 このままずっと ここに居るのか。はちきれそうだ とび出しそうだ 生きているのが すばらしすぎる。」

僕らは何時もより気合いの入れ方を変えて演奏した。だって人前で演奏するなんて…このメンバーでした事なんか無いからだ。僕はそれが一番嬉しくて…まるでこの歌を歌ったバンドのボーカル本人が歌った様になっていた。


演奏が終わり静かで少し湿ったような拍手が僕らが居る防音室に響き渡る。その直後演奏を聞いていた人物一人が挙手をしてこんな質問をしてきた。

「凄かったです!どこのバンドか知らないけど…琴ちゃん含め全員洗礼されたかのような演奏でした!また聞きたいです。…ところで…この曲どこのバンドのか…教えていただいても…」

そう聞いてきた一人に静かで冷たい声が飛んできた。そいえばさっき琴葉の友人に なにかよからぬ事を考えていたのでは? と思われていたな…そう思い出しそのこえの方へ視線を向けた。

「THE BLUE HEARTS…完全に私達世代なのに知らないの?」

やっぱり…先程僕に偏見を飛ばして来たヤツが口を開いていたか…そう思っていると…さっき質問してきた女の子から、こんな言葉が聞こえてきた。

「THE BLUE HEARTS…?知らないけど…でも!ザ・ハイロウズなら知ってる!」

僕はギターをケースに入れようとする手を止め…説明しようとするが…

「その前身!THE BLUE HEARTSはザ・ハイロウズの前身なの!分かった?」

と聞こえてきた。どうやら僕が説明する必要も無かったようだ。まるで納得したかのような声で はーい と聞こえたのだから…。


さて…小さな演奏会も終えた事だお客さんを帰すとしよう。周りの雰囲気がそう漂わせ…僕らは玄関で全員集合をしていた。重苦しいその扉が開かれた時…THE BLUE HEARTSをさっき知った女の子が僕にこんな事を言ってきた。

「遠江さんでしたっけ?あの…琴ちゃんが遠江さんの事好きらしいんで…振り向いてあげてくださいね!」

僕はその言葉に驚き何も返す事が出来なかったが…琴葉は違った様でその子の言葉に動揺を隠し切れていない状態で弁解する。

「はぁ!?ちょっと!何言ってんの!?もし仮にそうだとしても本人に向かって言わないでよ!」

琴葉がそう言うがその子は先に帰っている子達の後ろを急いで追いかける。

「後は琴ちゃん次第!じゃね〜!」

もちろん琴葉はそれをほかっておく事をせず追い掛けながら…言い訳みたいな言葉を僕らが聞こえ無くなる程離れても言っていた。

「ちょっと!もうこれ以上言わないで!バレちゃう!バレちゃうから…」

だんだんと静かになった家の前で、僕は裕二に驚きのまま固まった顔でこんな事を言っていた。

「なぁ裕二…僕…悩み事一つ減ったわ…でもまた一つ増えたわ…。」

僕のその言葉に裕二はため息をつきこう返した…いやこう返すしか無かったに等しいのだろう。

「…ああ…だな…。」

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