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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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誰にも止められない

一日の終わりが近付いて来る夜。僕らはバンド練習を始めていた。星空と月がはっきり見えているその日は、伝説の爆撃機が飛来してきも可笑しくない様な日だった。

「うし!じゃぁ…始めっか!」

裕二のその言葉に、皆答えるように声を上げた。やっぱり今後のまとめ役は裕二に任せようとそう心に決めた。それぞれの配置に着くといつもの様に僕がこう皆を諭す様に言葉を放つ。

「ライブやってる感覚でいこう。僕らはもうバンドマンだ。」

そう言った後僕は裕二の方を見て合図を送る。お互い頷いた後ドラムスティック同士がぶつかる音が二秒程続いた。そしてその刹那ベースとギターの音も響き渡り始めた。そして…

「ここから一歩も通さない。理屈も法律も通さない。誰の声も届かない。友達や恋人も入れない。」

そんな大きな音を轟かせる楽器の声に負けない位の声で僕は歌い始めた。その曲はまさに今の夜空を表してるかのような曲だった。そうして次の出だしに入ろうとした時だった。琴葉がいきなり続きを歌い出した。僕はそれに困惑しながらも、ギターで奏でる手を正確に動かした。

「あれは伝説の爆撃機。この街もそろそろ危ないぜ。どんな風に逃げようか。全ては幻と笑おうか。」

しかし余りにも完璧な入り方をする琴葉を見て…いつの間にか裕二のドラムに間に合わなくなってしまった。そんな合わなくなったリズムを止めるように裕二がこんな事を言う。

「はーい!ストップ…琴葉ちゃんよ…まさか歌うとは思いもしなかったぜ!」

陽気に裕二が感想を言うと琴葉は少しにやけながらこんな言葉を口にしていた。その笑みは少しだけ悪戯をした子供の様だった。

「えーっと…ちょっと歌ってみたくなったので!」

そんな答えに皆笑いを堪えるのに必死だった。確かによく考えてみればその理由は可愛いものなのだろう。それでもまだ少し困惑している僕を見て裕二はこんな質問を僕に投げかけてきた。

「どうしたんだ廻?琴葉ちゃんが歌った位で驚くなんて…らしくないぜ?」

そんな事を言ってきた裕二に僕は、少しばかりため息を着きながらこう返した。素直に驚いたとだけ言えば良いのにそれが言えない僕は駄目人間なのかもしれない。

「…は?何言ってんだ?驚いてるわけないだろ?歌えるんだなって思っただけで…だぁー…もう…。」

途中なんて言えばいいのか分からず…言葉に表すのをやめていた。


練習開始から二時間が経過した頃に僕らは休憩時間をとった。僕はまたいつもの様にバルコニーで空を眺めていた。一つ違う所があるとするならば…眺めているものが夜空だということだけだろう。すると後ろからいきなり温かい何かが僕の視界を奪っていた。そして後ろから聞き覚えのある…というかいつも聞いている声でこんな事を聞かれていた。

「だーれだ!」

そんな可愛げのある声に僕は、ため息をつきながら答えを返す。後ろでクスクスと聞こえて来る笑い声で僕は誰か分かった。いや…もう声が聞こえた時点で誰か分かっていた。

「…全く…そんな子供みたいな悪戯で驚くと思ってんのか…琴葉。」

僕がそう言い後ろに振り向くと…そこには満面な笑を浮かべた琴葉がいた。そうして僕の隣に琴葉が立つと…僕らは夜空を見上げ無言を貫いた。そして…最初にこの二人だけの無言の空間にピリオドを打ったのは琴葉だった。

「ねぇ廻?もし私が廻と付き合ってたなら…私達の未来は違ってたのかな?ちょっと気になってさ。」

口角を上げながら夜空を見上げ琴葉はそう言った。僕はその言葉になんて返せば良いか分からなくて…戸惑って…その言葉に対する返答をゆっくりと返していた。

「もし…そんな未来があったとしたら…僕は君をベーシストにしてなかっただろう。祐介と向き合ってただろう…多分…三人で笑いあって過ごしてたんだろう…だから!…多分…違ってたんだろうな…琴葉の想像通りにさ。」

そんな詰まりまっくた僕の言葉に琴葉は笑った。その微笑みが何時もより可愛く見れたのは気のせいなのかもしれない。

「アハハッ…もう…廻ったら慌てんぼうだなぁ…」

そう言い琴葉はそっと僕に寄り添い…耳元でこんな事を言ってきた。それを聞いた僕は放心状態になっていた。

「大丈夫だよ…もしもの…たらればの話をしただけだから。」

そう言った刹那…琴葉は昨日の昼と同じ位の勢いで僕の唇を奪った。その時に鳴った僕と琴葉の唇が混じり合う音は…昨日よりいっそ綺麗に聞こえた気がした。

「先戻ってるからね!あっ…今のキスに意味は無いからね!ただ私がしたくなったからしただけだからね!」

そう言い琴葉が練習部屋へ戻って行くのを僕は、ただ黙って見送った。琴葉が見えなくなった後また夜空を見上げこんな言葉を吐露していた。

「…どうやって愛ってのを言えばいいんだよ…こんちくしょう。」

一人で居るであろうバルコニーという空間で嘆いた独り言に一つの言葉が帰ってくる。

「素直に言っちまえば良いんだよ。」

その言葉が聞こて来る方に目線をやると…そこには裕二がいた。僕はため息をつきながら視線を落としてから裕二にある質問をした。

「いつからそこに居た?どこまで見ていた?」

少しばかり気が重くなった様な口調の僕の質問に裕二はゆっくりと口を開く。最初に出た言葉に僕は余計に頭を抱えた。

「ずっと居たぜ…ずっーと…な。」

そんな言葉に頭を抱える事しか出来ない僕に裕二は続けてこう助言を僕に残した。その言葉はまるで僕が琴葉の事を知るためのトリガーみたいな事を言っていた。

「誰にも止めらんねぇぜ。おめぇが琴葉ちゃんを止めてみろよ。好きなんだろ?だったらおめぇの役目だぜ?しっかり事を言うのはよ。」

そう言い裕二も練習部屋へ戻って行った。そんな助言もにも僕は頭を抱えてしまう。

「どうしろって言うんだよ…くそが。」

そう言って空を見上げる。そうして僕は決意を決めて休憩時間から戻る事にした。まるで覚悟を決めたかのように…

「やるだけやってみるか…例え失敗したとしても…。」

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