憧れから来るもの
小夏の自己紹介が終わり…それぞれ始める準備をしている最中僕は恭太郎をバルコニーに呼び出した。理由はどうやって小夏と出会い…このバンドに誘ったのか…それを聞くために。
「なぁ?恭太郎。どうやって小夏と出会ったんだ?そして…どうしてアイツをこのバンドに誘った?」
僕がこう聞くのも理由がある。まず僕からすれば…この二人は初めましてなはずだ。そんな奴を恭太郎が誘うとは思えない。二つ目は…小夏はエレキギターはおろかギターを弾いているなんてことを僕は聞いていない。
「いつぞやか…君が二週間家を空けてた期間でね…どうやら…ひっそりと一人でアコースティック・ギターを弾き始めたらしい。廻…君に憧れてね。」
そんな恭太郎の答えに僕は、目覚めの悪いような顔をしてこんな言葉を口にしていた。
「僕に憧れて?いやいや…小夏がそんな事をするはずが無いって。あくまで…前の職場の先輩後輩の関係なんだ…それは無いだろ。」
僕のその言葉に恭太郎は鼻で笑うようにこんな言葉を僕に言った。それでも…皆が言う僕に対する人徳には理解できないが…。
「いや…もしそれが憧れじゃなかったら…じゃなんだい?もし君に憧れる事も無くて…面倒見が良くなかったら…恐らく侑李は君を慕わないと思うね。」
恭太郎がそう言った後続けてこうも言ってきた。
「ま!君はそれに気付かないほど鈍感って事だよ。廻。」
恭太郎がそう言い終わった直後…バルコニーの扉が開かれた。そしてバルコニーの扉を開いた人物を見て恭太郎は、こんな事を呟いていた。
「あらあら…噂をすればなんとやら…まぁ…後は当人同士で話し合ってくれ。」
そう言って…バルコニーから離れようとする恭太郎の方を振り向き僕は声をあげる。
「あっ!おい!恭太郎!…ったく…んで…恭太郎が言った事は…事実なのかよ?小夏?」
僕は恭太郎がバルコニーから出ると同時に入ってきた小夏に、そんな言葉を素っ気なくかけていた。そう僕が質問した直後小夏は苦笑いを、浮かべながら首を小さく縦に振っていた。
「恭君から全部聞きましたよ…学生時代の事も全部…どうして貴方がそうも奥手なのか…自分に自信が無いのか…そして…ううん…ここからはそのうち言いたいです。」
小夏がそう言い終わると僕はバルコニーから出ながらその小夏の言葉にこんな事を返していた。まるで…小夏が恭太郎から聞いた事を全て否定するかのように…。
「生憎と…小夏…君が僕に憧れていても答えは変わらない。さっき恭太郎からは「面倒見が良い」とか言われたが…僕はそう思っていない。まだ僕があの工場にいた時君の仕事を手伝ったのは…手こずってる奴を見るとむしゃくしゃする…ただそれだけの事だ。」
その直後小夏は、僕に向かってこんな事を言ってきた。恐らく…前から抱いていたものなのだろうと予測したが…その言葉は意外なものだった。
「…好きだったんです…貴方の事が…遠江先輩。」
あれから僕らはいつも通りの練習時間を過ごしていた。しかしどうも小夏の言った言葉に引っかかりを覚えていた。なぜ僕なのか?そんな言葉が脳裏によぎりながら練習をした。幸いにも…この日の僕は調子が良かったらしく入院する前に起こしていたミスをする事は無かった。
「うし!んじゃ…そろそろ昼休憩にしようぜ!」
そう裕二の言葉が響き渡ると僕らは一斉に楽器を置きながらこんな事を言った。
「賛成ー!」
正直そんな元気に言う気力などどこにも無かったが…頭がパンクしそうな状況だったため今はありがたかった。僕は部屋の隅に行き窓から見える景色を眺めたかった。眺める前に小夏が僕の元へ尋ねてきたのだ。
「遠江先輩ー!こんな部屋の隅で何してるんですかー?」
僕はその声に反応し嫌な顔をしながらその質問に答えていた。
「…何やっようが僕の自由だろ?休憩中だけはゆっくりさせてくれ。」
そう言った後小夏が懐かしい様な事を口に出していた。
「えー…でも遠江先輩は相変わらずですね!だって会社でもそんな感じじゃなかったですか?」
僕は首を傾げながらそう聞いてきた小夏に手で指示しながらこんな言葉を口から出していた。ちょっと言い方がキツかったが…。
「だぁー…分かったから!ちょっと一人にさせろ。」
そう言いバルコニーへ向かうと琴葉が僕に質問する。それは小夏との関係性だった。
「あの子…小夏ちゃんとはどんな関係なの?ちょっと気になるなぁ?」
上目遣いで聞いてきた琴葉に僕は、周りに悟られないように…少し戸惑いながらこんな事を言った。
「バルコニーに行ったら教えてやるよ…一応言うが恋人とかじゃ無いからな。」
そう言い部屋を後にしバルコニーに着いた。どうやら琴葉は、ついてまわっていたようで…僕が後ろを振り向くと既にもうバルコニーに居る状態だった。
「そんな気になるか?」
僕がそう聞くと琴葉は首を縦に振っていた。琴葉が知る必要性がないを今から僕はする事になる。どうしたものか…そう思い浮かべ先程から琴葉が気になっているであろう事に回答を出していた。
「…職場の後輩でね…アイツは。元気だけが取り柄で…このバンドに入った理由は恭太郎から誘われたかららしいが…僕に憧れてギターを始めたらしい。」
そんな僕の言葉に琴葉は静かに笑いながら頷いていた。もうすぐ冬が来るような時期の風を浴びながら僕らは珈琲片手にそんな話をしていた。
「…廻が前に言ってた気になる人って…もしかして小夏ちゃんの事かな?」
そう聞いた琴葉に僕は断言するように一言言葉を返していた。その時久々に心の底から笑えた気がした。
「んな訳…だいたい僕とアイツとじゃ住んでる町も高校も違うし…出身地も違う。だからアイツの…小夏の全てを僕は知っていないから気になれない。」
そう言った後琴葉は安心したような顔でこんな事を呟いていた。
「そっか…良かった。」
そう言い僕に抱きよってきた琴葉は、僕の唇を奪っていた。その時間は短いようで長く…琴葉が離れてから僕は困惑していた。それをよそに琴葉は小悪魔のように微笑みながら僕に言った。
「昨日の仕返しだからね。コレ…。」
小夏が来た今日僕は…戸惑いを隠せない昼休みを過ごす事になっていた。
昼休憩を終え…僕らはまた練習に励んでいた。その時間は一人増えた事を除けば いつも通り と言っても過言ではない。
「これでラストにしよう。」
僕がそんな事を提案すると皆は言葉を揃えながら…こんな言葉を僕に返す。
「了解ー。」
そんな声が一斉に聞こえてきた。そうして…皆が帰り僕だけになった時…玄関のドアがノックされる音が響く。僕はその音を聞き付けて玄関に向かいドアを開けた…するとそこには…ついさっきまで練習に精を出していた琴葉が居た。どうして今琴葉がいるか?それは簡単だ…僕が呼び出したのだ。ある場所に行くために…。
「お待たせ!…行こっか。」
そう言い僕らはある場所へ足を運ばせた。琴葉に手を握られながら…。
そうして歩く事三十分。僕らはある喫茶店に着いた。僕はその喫茶店を見るなり一つ言葉を零していた。
「ここは…就職した後もちょくちょく来てたが…お前と行くのは久しぶりだな。琴葉。」
僕のその言葉に琴葉は、ニコッと微笑みながら僕に言う。そして僕らの姿は店内へ消えていった。
「でしょ!ほら早く入ろうよぉ!ね?」
店のドアを開けると同時に鈴の音が鳴り…僕らが入店した事を店中に知らせていた。鈴が鳴り終わるとこの喫茶店のマスターが僕ら二人を出迎えた。
「廻君…琴葉君…君達二人が来るのは懐かしいな。…廻君は週に一回は来てくれているが…」
僕が琴葉を呼び出した理由…それはこの喫茶店で珈琲を飲みたかったからだ。実はここの喫茶店は、マスターに言えば置いてあるピアノを弾くこともできる。僕と琴葉や祐介のオススメの場所でもある。
「いつものオリジナルブレンドで…琴葉はどうする?」
そんな僕の言葉に、琴葉は微笑みながら返答を返していた。
「えー?同じので!」
そう返事をして僕らは席に座る。すると琴葉がいきなりこんな事を言い始めた。まるで全てを分かっているような表情で。
「多分なんだけどさ…小夏ちゃんだったけ?廻に憧れてこのバンドに入ったんじゃない?だって…廻のギターの腕は凄いもん!私が保証するよ。」
その言葉に僕は一間置き…その言葉に返答を返した。静かな微笑みを浮かべながら…。
「…ふっ……かもな。」




