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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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濡れた君と淡い月明かり

シャワーを浴び…夕食を食べ…眠り着くまで僕らは終始無言だった。あのおしゃべりな琴葉が喋ってこないなんて珍しい事もあもんだ…そんな言葉を僕は頭に浮かばせていた。

「ねぇ…廻?」

豆電球で少しだけ明るい僕の部屋にそんな琴葉の声が響く。僕はその言葉の続きを聞きたかった。だからその一言に反応した。

「…どうした?」

僕がそう言った後琴葉は僕に質問をする。琴葉のその質問は…懐かしさが蘇る。昔は祐介含め三人でよく泊まっていた事を。

「…一緒のベッドに寝ても…大丈夫?」

そんな質問に どうしようか と悩んで悩んで僕は、答えを出した。

「良いぞ…ただし…抱き着くなよ。もしもの事があったら嫌だからな。」

お互い背をむけ僕らはベッドに入った。ベッドに入った途端琴葉はこんな事を質問する。僕はそれに答えようか迷ったが…琴葉のためだろうと答えを考えた。

「ねぇ?廻?もしだよ…告白しようとした幼なじみに「気になっている人が居る」って言われた…どうする?」

これは…恐く僕のことを言っている…そう確信が持てた。この言葉に僕はなんて言葉をかけよう…そう考え…一つの自己結論が僕の頭に入ってきた。

「んなもん決まってるだろ。深く聞く…って思うか?その逆だ あえて聞かない これに限る…僕はそう思うね。」

しかしその僕の答えに琴葉は納得していなかったみたいで…僕の出した答えに反論する。

「…なんで?なんで!?それじゃタイミング逃したらどうするの?人生って…一度しか無いんだよ?」

そんな琴葉の反論に僕は、落ち着かせるように琴葉を諭す。

「もし…その「気になる人」がその幼なじみだったら?…そう考えて行動を起こした方が得策だ。琴葉…お前の言いたいことも分からんでもない…だがもう少し状況を判断する事も学んだ方が良い。」

僕は琴葉の方へは振り向かずその言葉を口にした。すると背中に、小面積だが暖かさが僅かな力で押し付けられた。

「…分かんないよ…分かん…ないよ…」

それと同時に聞こえてきた琴葉の声は、ぐしゃぐしゃの声だった。そんな琴葉の声と軽く背中に押し付けられた暖かさで今の状況を察する。琴葉の瞳は…今濡れていると…。


琴葉とそんな論争をして何時間経ったことだろう。僕はいつの間にか寝てしまっていた。僕が目覚めたのは夜風が部屋の中に入ってきたそんな時だった。

「…ファーッ…窓開けてた…っけ?…」

そう言葉を吐露し僕は起き上がる。そこには窓を開け…そこから風景を眺めていた琴葉がいた。こちらに気付いた琴葉は、僕に目線を向け…一つ言葉を零していた。その時の琴葉の表情は明るいながらも暗かった。

「あっ…起こしちやった?ごめん。月が綺麗でさ。」

そう言いなんとも言えない表情で琴葉は僕に少し気だるけな顔つきで質問した。

「小学校三年生の時覚えてる?よく色んなところほっつき歩いたよね。」

その質問に僕はため息をつきながら答えを返した。何故なら…僕がシャワーを浴びる直前に琴葉がしてきた事は…初めてした事では無かったからだ。

「お前が田んぼに滑り転けた時の話か?あの時は僕も祐介もその農家さんに大目玉貰ったもんだよ。」

そう僕は嫌味の様に琴葉に言った時琴葉は、笑っていた。どうでもいい昔話を話しながら…。

「あの時さ…あの農家のおじさんに「鬼に連れてかれるぞ!」って半ばキレて言われた時…ちょっとだけ怖かった。その日と同じ事してたね…私って。」

琴葉が言っている その日と同じ事してた それは恐く今日の事なのだろう。今日の夕方…僕がシャワーを浴びる直前のこと言っていると…すぐに確信ができた。

「いつもそうだもんな。琴葉はさ…怖いって思う時ほど…僕や祐介を背中から抱きついてきてさ。」

そう言い僕は空を見上げ思い出す。その当時のことを…。


小学生の頃の琴葉はワンパク…その一言が当てはまると言って良いほど明るかった。それに何時も振り回されるのが…僕や祐介で、その日は琴葉が田んぼ道で滑り転けては田んぼの隅の稲を折り倒した日だった。すぐ近くに農家さんがいて僕ら三人まとめて説教を食らったもんだ。説教も終わり…家に着いてる頃には少しだけ夕日が辺りを照らしていた。

「ほら…早く入れよ。祐介は救急箱持ってきて。」

そう言って僕は琴葉と祐介を家に招いた事も鮮明に記憶に残っている。今となっては遠い記憶だが…あの時は琴葉の無茶によく付き合ったもんだ。

「とりあえず…そのスボンと服どうにかするぞ。洗面所に行くから…その…ほら!」

そう言いながら僕は琴葉を連れていた。まぁ…当の本人は怒られた気は無かったようだがな…。

「廻も泥んこだね!…なんかごめん。」

少しだけ無邪気にそんな事を言ってきた子供の時の琴葉と今の琴葉じゃ全然違う人物に思うだろう…多分今の性格なったのは恐く中学の頃からじゃないかと…僕は思う。

「…………誰のお陰でこうなったことか。」

僕はぼそっとだがそんな言葉を吐露し服を脱いでいた。そんな時だった…琴葉が後ろから抱き着いてきたのは…。

「…なにしてんの?」

僕がそんな事を言うと琴葉は顔を服も…肌着も着ていない僕の背中に押し当ててこんな事を言った。

「…怖かった…ちょっとこうさせて。」

その時の洗面所は夕日に晒され空間は紅に満ちていた。


空を見上げる僕の横で一人の声が聞こえる。それに僕は気付かなかったようで次第にその声は大きくなった。

「廻?廻!廻ってば!」

そんな琴葉の声で僕は我に返る。ふと琴葉の方を振り向くと…琴葉が寂しそうな笑顔を浮かべながら僕にこんな事を頼んできた。

「ねぇ?…手を握って欲しい…廻の右手で…私の左手を…お願い。」

そう言われた時僕の身体は無意識に行動していた。僕が琴葉の左手を握ると…琴葉も僕の行動に答えるように握り返していきた。

「……まるで…恋人みたいたいだね。」

笑いながら琴葉はその言葉を言っていたが…目からは涙の雫が頬を濡らしていた。

「なぁ…家を留守にする前…気になっている人が居るって言ったろ?その人の名前は言えないけどさ…いつも明るくて…でも自分の心が暗くなった時の落差が激しくて…昔から家族ぐるみの付き合いの人なんだ。」

僕は琴葉にヒントを出した。しかし琴葉から返ってきたのは…僕が求めている答えでは無く…僕と同じようなものだった。

「私も気になる人が居るんだけどね…廻と同じで名前までは言えないけど…冷静に物事考えてて…冷たく接するけど情に熱くて…ロックンロールをこよなく愛する人で…廻と同じで昔から家族ぐるみで付き合いがある人なんだ。」

琴葉のその言葉はまるでヒントを言っているようなものだった。その言葉に隠れた人物は僕では無いと思ったから僕は…琴葉にエールを送っていた。

「そうかい…頑張れよ。」

その直後琴葉の冷えきったような声が僕の部屋をこだました。その声は冷えていて寂しいような声だった。

「……うん…頑張る…よ。」

そうして僕の部屋は再び無音になった。でも僕の目の前にいる琴葉はずっと寂しそうな顔を、しながら涙を流し頬濡らしていた。そんな琴葉を見て僕はこんな言葉を零していた。

「あー…ほら…来いよ。なんかそんな暗い顔されると調子狂うからさ…。」

そう言った後琴葉は僕の方へ近ずいていく…そして腕を伸ばしたら琴葉の頬が触れる位の距離になった時…僕は琴葉を抱いていた。

「ふぁ!?ちょっ!?何してんの!?」

琴葉の驚く声が聞こえすぐに僕は、素っ頓狂な顔をしながらこう言った。

「え?なにって…ハグだけど?なんか…お前辛そうだったし…だめだった?」

腕の中にいる琴葉にそう言葉を返したが…嫌がっているような反応とは裏腹に琴葉はこんな事を頼んできた。まぁ…初めはその声に気付けなかったが…。

「……もっとやって…」

「…え?今なんて?」

「もっとやってって言ったの!聞こえなかった!?」

その声が聞こえず本人になんて言ったか確認すると…少しだけ怒られてしまった。まぁ…唐突だったから仕方ないのだろう。ドクンドクンと…琴葉の心音が速くなって行くのを腕で感じた僕はこんな言葉が口から零れていた。

「琴葉…僕の頼み事を聞いてくれないか?」

そんな言葉を聞いた琴葉は部屋着で包まれた僕の胸の中に顔を押さえながら言葉を発した。

「…何?」

顔をうずくめる琴葉を無理やり引き剥がした後…僕は琴葉の顎に指を当てる。動揺している琴葉をよそに僕は…自分の唇を琴葉の唇に近ずけた。そして…

「ふぁ!?ちょっと!何…むぅ!?」

そう言いかけた琴葉の唇を…僕は奪った。そんな僕の行動に琴葉は慌てていた。

「はわわわわっ!何してんの!?」

言葉にならない声を出した後そんな質問が琴葉の口から零れ出た。そんな琴葉に僕は空を見上げながら…その頼み事を口にした。

「…僕の後悔を拭ってくれないか?どんな形でも良いから…頼む。」

その言葉の後琴葉は震えた声で僕に言葉をかける。その時濡れた君の頬と淡い月明かりが部屋を照らし出していた。

「…馬鹿…廻が…廻が…またバンドやるってなった時に…もう決めてたんだよ?祐介を失った苦しみを…慰め合おうって…独りよがりなんて…できない…よ。ずっと待ってたんだから…。」

その日の夜は…淡い月明かりが街頭も少ない僕らが住むこの街を明るく照らしていた。

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