自分の未熟さと珈琲と…
一晩中バンドの練習に参加し…帰ってきた時。僕の家には両親がいた。それだけでは無い…その両親は小夏君と対話していたのだ。それを見る度思い出すのは、両親やクラスメイトや先生達のあの目線で…いつの間にか また頼られる そんな言葉が僕の頭を掻き乱していく。それは今も変わっておらず…僕は無我夢中に走っていった。おそらく十五分は経った頃だろう。僕は小夏君と出会った時から行くようになった喫茶店の目の前で足を止めていた。
「…珈琲を飲んで落ち着こう…。」
そう息切れを起こしながら呟き店の中へ姿を消した。
店に入ると綺麗な鈴の音が僕の事を出迎えてくれていた。それと同時に、少し渋めな声で いらっしゃい と何かをさとすような声色でマスターが言葉を口にする。僕は一人テーブル席に座り…オリジナルブレンドの珈琲を頼んだ。珈琲を頼むと僕は隣にある大きな窓に目を通す。その窓から見える景色は静寂で、まるで今の僕の心を表しているかのようだった。
「…未熟だよ。僕はさ…」
そう言葉を零し僕は被っていたシルクハットを頭から取った。その直後…頼んだ珈琲が僕の元に運ばれた。
「どうぞ。ごゆっくり。」
ホールスタッフの人がそう言い立ち去ると…僕は珈琲の入ったカップを掴み珈琲を口に含んだ。いつ頃だろうか…珈琲のブラックが飲めるようになったのは…そんな事を頭に浮かばせ…僕は深くため息を吐いた。そして…
「僕は未熟者だよ…ローストされてない珈琲のように単調な味しか出せないのだから…。」
そう言って一人でこの時間を楽しんだ。でも…何処か虚しさが滲み出ていた時間だった。
珈琲が飲み終わり…会計を済ませようとしたその時だった。喫茶店のマスターに呼び止められたのだ。
「待ってくださいお客さん。ピアノを弾いていただけませんか?貴方が奏でる演奏をここにいる全員が聞きたいのです。」
少し間を空けた後…僕は、その要求に耳を傾け…その言葉の返事を返していた。
「いいですよ…でも…そんなに期待をしないでください。」
僕がそう言いピアノの元へ向かうと同時にマスターは、振り向きながら僕に感謝の言葉を言っていた。どうして感謝してくるのか分からない。むしろ…こっちが感謝するべきだが…。
「ありがとうございます。お客さん。」
ピアノの元に辿り着くと僕は、置かれてある椅子に深く腰をかけた。僕がピアノの椅子に座るなり一瞬客席が静かになった。そして…僕が鍵盤に手を置くと聞こえてくるのは…カップをソーサーに置く音だけだった。そうして店内が静かになったところで僕はピアノの音を奏でた。弾いている曲は僕の得意曲…ドビュッシー作曲…月の光。指の一本一本が楽譜に沿って鍵盤の上を走るように動いているような気がした。弾きながら思い出すのは、ピアノを始めるきっかけだった。叔父さんが弾いてるのを見て 僕もやってみたい そう思うようになっていた。いつしか…僕は、一人こっそりと叔父さんのピアノを弾くようなった。しかしある日…僕がこっそりとピアノを弾いてるのを叔父さんに見られてしまった。でも叔父さんは言った。
「恭…俺より上手いじゃないか?趣味の一つとして…お前も弾いてみるか?」
そう言って静かに笑った叔父さんに僕はピアノの弾き方を教えてもらうようになった。その時だ…今弾いてる曲が好きになって…マスターするまで練習をしたのは…。僕の演奏が終わると湧き上がって来るのは拍手喝采だった。その瞬間僕の手の上に小さな手が重なった。ふと隣を見るとそこには…苦笑いを浮かべた小夏君が居たのだ。小夏君が居たのも驚きだが…レジ付近に目を向けると…そこには叔父さん…叔母さん…更には両親までいた。一連の事に僕の頭が理解する前に小夏君がこんな事を口に出していた。
「やっぱり…恭太郎さんの演奏は素敵です。これを両親にも見せれて良かったですね…。」
そう言い僕に抱きついてきた。その時若干だが…小夏君の顔に当たっている僕の服は暖かった。
僕はまた先程座っていたテーブル席に腰を下ろしていた。でも一人でいる訳じゃない。僕の目の前には両親がいた。何か話す事をする訳もなく…ただ向かい合って座るだけの時間ただそれだけの時間が過ぎようとしていた。
「何か頼まないの?あ…僕のオススメはオリジナルブレンドの珈琲だよ。」
何も頼まない二人を見て僕はそんな事を言っていた。そんな僕の言葉に二人は微笑みで返していた。
「良かった…良かった…。」
と母が言った後に続き父がこう小さない声ながらもこう言っていた。
「ごめんな…恭…ごめんな。」
そう言っていた両親に僕は一つため息をついて笑顔を浮かべある言葉を口に出した。
「何言ってんの?人は誰でも未熟者だよ。それは僕も同じだし…父さんや母さんも…そう自分を責め立てる事をしないでくれよ。それに…そんな気にしてないし…。」
そう言って僕は珈琲を口に含んでいた。その僕の言葉と動作に両親は嬉し涙を流した。そして…僕らはまた笑い合った。八年ぶりに僕は両親と笑い…珈琲を飲み交わし…色んな話をした。家を出た後の生活…高校時代の自分…今やっている事…色んな事を話をした。そして…
「今からでも遅くない…また一緒に過ごせるよな?なぁ?恭?今もし過ごせるのならまた一緒に過ごさないか?」
そんな父の言葉に僕は空を見上げ…瞳を閉じて…空を見上げる様に首を上げた。そして…また視線を目の前に居る両親に戻し…答えを返した。
「ごめん。まだ一緒に過ごせない…今仲間とやりたい事をやってるんだ。」
三十分経過した頃だろう。僕はテーブル席に座ったままだった。しかし目の前には小夏君が座っていた。僕はシルクハットを被りながら小夏君にこう問いかける。
「全く…多分この場に両親を呼んだのは君だろ?小夏君。」
小夏君は頬を赤らめながら僕の質問の答えを返してきた。
「えーっと…まぁ…はい。でも!理由があるんですよ!?…このままじゃいけない気がしたので…その…。」
そう口ごもった小夏君の頭に僕は手を置き…その手を左右に動かしながらこう言った。
「ありがとう…君のおかげで…変われる気がするよ。」
その僕がした一連の動作に小夏君は、かなり困惑していたのか…気の抜けた声を出していた。
「ふぁい!?何してんですか!?何言ってんですか!?…その…撫でながら…そんな事を言われると…恥ずかしい…です。」
言われてしまったので僕は小夏君の頭から手をどかした。すると途端に小夏君はこんな事を口にした。
「…あのっ!…「小夏君」って呼び方…やりやすいですか?出来ればなんですが…下の名前で…「侑李」って呼んで欲しいんです。」
そんな小夏君の意外なお願いに僕は、首を縦に振りこんな事を口に出していた。
「分かったよ…よろしく。侑李。…んじゃ僕も…「佐久間さん」とか「恭太郎さん」とかじゃなくてさ…恭って言っても大丈夫だよ。」
僕がそう言った後侑李は驚きながらも…照れた顔で僕に言った。
「え!?……よ…よろしく…恭君…。」
まさか叔母さんが言っていたニックネームをそのまま使ってくるとは…そう思うと心の底から笑えてくる。実際…僕はこの時の心情が、顔に出ていたようで…侑李は頬を膨らましながら僕にある質問を投げかけた。
「何かおかしいんですか!?なんか言ってください。ニヤついちゃって!もうっ!」
笑いを堪えながらも僕は答えを返した。それと同時にある事に僕は侑李を誘っていた。
「いやいや…ごめん。その呼び方…可愛いなってさ。…さーて!なぁ…侑李。僕が所属するバンドに入ってくれないか?」
僕のその言葉を聞いた瞬間…侑李はキョトンとした顔でこう返答を返してきた。
「え?まぁ…良いですけど…どうしてです?」
僕はニコッと微笑みながら侑李にある言葉を口にしていた。
「バンドっていう複数の音でなる音楽の中で…君のギターを感じていたいんだ。」




