空っぽの私
襲われそうになった日から二日が経っていた。私は今姉の車に揺られながらある場所に行っている。車窓から見える街の風景を、目に写しながら私は その当時の事を振り返していた。
「……恭太郎さん。」
いつの間にかそんな言葉が私の口から出ていた。すると姉が後部座席にいる私に少し目線を向けてこんな事を聞いた。
「ねぇ?侑李?もしかして最近夜に出かけてた理由って…一昨日の件でなの?」
何時もより真剣な声でそんな質問を姉は聞いてきた。しかし…そう言ってきた事も気付かったためか…姉は何度も私に同じ質問を聞いてきた。
「ん……あー…うん…。」
何度目かの問い掛けでやっと私はその質問の答えを返した。そんな私の答えに対して姉は申し訳なさそうな顔をして言葉を絞り出す…その言葉は謝罪だった。
「…ごめんね…お姉ちゃん…早く気付いてあげればこんな事にはならなかったよね。」
そんな事を言ってきた姉に私は笑顔で言葉を返す。それでも姉は申し訳なさそうな顔をしたままだった。
「もーっ!何言ってんの?お姉ちゃんが悪い訳じゃないじゃん!全部私がまいた種なんだからさ…気にしなくても良いよ!」
そう言った後私達は目的地に着いていた。そうして姉と私は車を降りていた。私はその着いた目的地を見てこんな言葉を口に出していた。
「二日ぶりに来たな……。」
玄関の前に到着した後私は扉の近くにあるインターフォンを押した。ピンポーンと家の中から響いてくるその音の後…一人の中年女性が家の扉を開けた。そして姉を見た後私を見てこんな言葉をその場で零していた。
「はーい…ってあら?貴方は誰かしら…あら!恭君が連れてきた彼女…じゃないか!お友達じゃない!どうしたの?まぁ…とりあえず上がって!上がって!」
その言葉のまま私と姉はその家の中に入った。中は二日前と変わっておらず…私が、この家で泊まった時のまんまだった。リビングに着き…テーブル席に座ってくれと言われ椅子に深く座り込んだ。すると…恭太郎さんの叔母さんとは別に中年の男女二人が私達の前を座る。見た感じ夫婦のような二人と恭太郎さんの叔母さんに姉は一つまず感謝を述べていた。
「この度この家の子に妹を救って頂きました。ありがとうございます。」
それに続くように私も同じように言葉を口に出す。その後辺りは鳥のさえずりだけが聞こえてくるだけだった。
「あ…ありがとうございます。」
しばらくして恭太郎さんの叔母さんが私にこんな事を聞いてきた。
「まぁ…あらかた恭君から話は聞いてるけど…でもどうして繁華街に?」
私はその言葉に一呼吸を入れてその質問のような言葉に答えを返した。
「実は…その件で今回逮捕された方とは…前の職場の上司でして…ある方がご退職された辺りから私に色目を向けてきました。それが過激化した結果が…今回の事です。」
私は恭太郎さんの叔母さんに返答を返した。すると目の前に座っていた夫婦のような人達がこんな事を私に聞く。
「…それで。君はいつから恭と知り合いに?どこで?どのように?」
そう聞かれた後私は言うのを躊躇ってしまった。恭太郎さんと出会ったのもホントに偶然で…それが良い答えになるか分からなかった。だんまりを決め込んでしまった私にその夫婦は優しい声でこんな事を言ってきた。
「君は空っぽだな。何をして欲しいか…どう生きていきたいか分からない。でも…それは恭も同じだ。自分達の息子の事はよく知っているのが親だ。だから言える…何を考えているのか…何が理想なのか…それすら分からない…それぐらいあいつも空っぽだよ。でもね…君も恭も…どちらにもある共通点を教えてやろう。」
その言葉と同時に私は唾を飲んだ。今の言葉で分かったが…この目の前にいるご夫婦こそ恭太郎さんの親なのだと…恭太郎さんは深く話さなかったが…叔母さんの家に逃げ出す程厳しいのだろうか…でもそんな私の予想は、外れていた。その続きを綴った声は優しかった。
「君にも恭にもある共通点…それはね…優しさだよ。」
私はその言葉に耳を疑い素っ頓狂な声を出していた。
「え?」
そう私が声をあげてもご夫婦は話を続けた。まるで本を読み聞かせるように。
「恭も優しい子だ。誰かを思いやる事を一番にして自分を蔑ろにする。だから私達は恭に言った「その優しさに意味はあるのか?」とね…でもあの子は答えをくれなかった。だから空っぽなんだと決めつけていた。だから自分達の理想を教えていた。だが…それは違っていた…あの子にもやりたい事があったはずだ。何が空っぽだ…自分達が見てこなかっただけじゃ無いのかと…後悔したよ。私達はいつの間にかあの子に…自分達の理想を押し付けてしまっていたんだろうとね。君もそのぐらい優しいんだろうな。まぁ…恭とは違って流されやすい所はあると思うがね…」
ご夫婦はそう言って苦笑いを零した。私は恭太郎さんの言っていた意味が少しだけ分かった気がした。何故なら彼は一昨日家に入る前にこんな事を言っていたのだから…。
公園を離れたと同時に恭太郎さんは、こんな事を聞いてきたのを今でも覚えている。
「なぁ…小夏君?周りにこんな事聞かれないか?何を考えているのか分からない…って。」
そんな言葉に私は赤くなった瞼を擦りながら…こう言葉を返し…会話を挟んでいた。
「え?…いや特に何も言われてないです…。」
「そっか…あ!まぁ…気にしなくて良いよ。でも…近いうち…この僕の言葉の意味が少しだけ分かるかもしれない。そこは頭に入れておいてくれ。」
そんな会話をした後私達は恭太郎さんの家を目指していた。
一昨日の事を思い出していると…恭太郎さんの叔母さんは、私にこんな事を問いかけた。
「侑李ちゃんだったけ?恭君の素晴らしい所っていくつか言える?」
そんな質問に顔を上げて答えを言った。恭太郎さんと過ごした短い時間で見つけた彼の素晴らしさを…。
「いっぱいありますよ…優しいし…人思いだし…何か返事を返す時…オブラートに包んでくれるんです。だからストレートに言葉を表す人が嫌いな私にとっては…それが素敵でした。」
そんな恭太郎さんに対する思いを口で綴ると…姉がこんな事を口にした。
「すいません。父母共に…ストレートに言ってきた人達だったので…」
私達の家族事情を姉が口に出す。そうだ…私達の両親は、ストレートにモノを言うところがあった。しかし…
「…親御さんは?」
恭太郎さんの両親がそんな質問をした瞬間…姉の顔色が変わった。そして…下を向きながらこう言葉を口にした。
「…亡くなりました。父は…侑李が物心着く前に…母は…三年前に。」
その言葉を姉が口にした瞬間…リビングのドアが力強く開かれた。その人為的な力で開かれた扉の前には…恭太郎さんが立っていた。恭太郎は呆然と立ち尽くした後…薄暗い表情をしながら…こんな事を呟き走り去った。
「……あ…二人とも居たんだね。それに…小夏君も……ごめん…ちょっと出掛けてくる。」
そう言い恭太郎さんは家を出ていった。私は恭太郎さんを追い掛けると共に…恭太郎さんの両親にこんな事を口走る。
「…もし…恭太郎さんの事を悔やんでいるのなら…この瞬間の行動を考えてみたらどうなんです!?」
そう言って私も恭太郎さんを追うように家を出た。今までの恭太郎さんを見ていると…行く場所は想像できる。だから私は走る。…ただひたすらに…。




