透き通った夜空に
交番を出て駅に向かい電車に乗った。小夏君は最初こそ放心状態だったが…電車に乗ってしばらくしたら寝息をたてていた。
「…寝てる…まぁ…無理もないか。」
終電だった為僕ら以外乗っている人が居なかった。まぁでもそれで良かったかもしれない…何故ならぐったり肩を寄せて寝てる小夏君を見てると…僕の理性が持ちそうになかったからだ。恐らく今と真逆の状況下だったら…僕の心臓が持たなかっただろう。
「おっと…そろそろ着くな。」
二人で夕方待ち合わせた駅に着く頃には日付は変わっていた。しかし…いくら小夏君の身体を揺さぶり…起こそうとしても小夏君が起きることは無かった。
「仕方ない…少々…不安だが…」
そう言って僕は小夏君を抱き抱え…電車を出た。駅を出て…駅前に着くともう周りは静かだった。でも…静かなだけでやっぱり人通りはあったりした為…少し急ぎ足で駅周辺を後にする。しばらく歩くと…僕の家の近くにある公園に着いていた。
「よし…ここなら一休み出来るな。」
そう言って僕はベンチに座り込んだ。そうして…小夏君の頭を自分の膝の上に乗せていた。
「もう大丈夫。」
そう僕の声が透き通った夜空に響いていった。
この場所に来てからどれだけ経っただろう…携帯をいじりながら一休み入れているその時だった。
「……あっ…あ…あれ…?」
小夏君が目を覚ました。むくり…と僕の膝の上に置いた頭を上げ辺りを見渡す。キョロキョロとした後僕の方を見て少し頬を赤らませて僕にある質問をしてきた。
「えっーと…え?私…交番から出た当たりから記憶が無いんですが…佐久間さん…あの後何があったんですか?」
そう質問されたので僕は小夏君に、教えることにした。正直あの後どうなったのか教えるのは…少々癪だが…
「…君…警官から「外傷が無いから大丈夫」だと判断されて…交番を出た後にもどしたんだよ。あの時僕も傍にいて良かった。」
その答えを言った後小夏君は、僕の膝に顔をうずめた。よほど恥ずかしかったのだろう…これ以上その事を言うのは申し訳ないので…僕は夜空を見上げながら一つ言葉を零した。
「まぁ…でも…無事で良かった。君から笑顔を消したら…廻だけじゃない…僕も…辛いからさ。」
そう言った直後だった。小夏君から出た声がふるえていたのは…
「……違う…違うんです…だって……私は…もう…汚れていて…でも…それを……浄化してくれる人なんて…人なんて……」
震えながらそう僕の膝で言葉を零す小夏君。それと同時に僕の膝の上には暖かい何かが滴り落ちた。それは涙だった。小夏君は何故か泣いていた。僕は泣いている小夏君の頭に手を置き…微笑みを浮かべながら一つの言葉を口にする。
「汚れてる?何言ってんだ。本当に汚れてる人なら…そんな明るく人に接する事なんて出来ないさ。それに…もし仮に君が汚れてるのなら…何故そんな綺麗なんだ?答えは簡単だ。…君はその汚れきった何かを自らの手で浄化できる人間だ。並の人間じゃ出来ないよ。でも今日は自己浄化が追いつかない程…辛かったんだろ?だからさ…もう我慢しなくて良いよ。」
そう言い終わった後僕の膝では小夏君が嗚咽を零していた。僕は小夏君から視線を逸らし…空を見上げた。もし…自分がこんな性格じゃなかったら…自分に言ってやれたかもしれない…そんな言葉を、赤の他人に言い放った事に…少し感心したのかもしれない。
そうして僕は、涙で目を赤くした小夏君と帰路についた。時刻はもう既に一時半…小夏君から聞いた話によると…どうやらここから家まで一時間はかかるとのこと。
「…仕方ない。小夏君…今日は泊まっていきな。その…前回僕が倒れた時のお礼も兼ねて…ね。どうだい?」
そんな僕の提案に小夏君は携帯をいじる手を止め…返答を僕に返していた。
「…まぁ…そうですね…では…お言葉に甘えさせて頂きます。」
その答えと共に僕らは歩を進めた。とはいっても…僕の家までは…十分もかからないが…。そうして少し歩き僕の家に辿り着いた。僕は鞄から鍵を取り出し…それをドアに指した。カチャ…そんな音と同時に鍵穴は回る。そして玄関のドアノブをひねり…家の中へ入っていった。
「ただいま…。」
僕がそう言いながら下駄箱に靴を置くと…叔母さんが出迎えてくれた。実は今日の帰りが遅くなることを言っていた事や…帰る前にメールを送っていた為…そんなに心配されなかった。
「あら〜おかえり!恭君!」
そう言いながらダイニングルームの扉を開け…こちらに駆け寄った。すると…叔母さんは僕の隣に居る小夏君を見ながらこんな質問を僕にしてきた。
「あら?恭君?彼女でも出来たの?」
その質問が叔母さんの口から出るやいなや…小夏君は、顔を赤く染めながら戸惑いを見せていた。僕はそんな勘違いをした叔母さんに一言言った。
「アハハ…違うなぁ…ところで…姉ちゃんの服とか借りて大丈夫?」
そんな返答と質問をした後…僕は小夏君を家に入れた。リビングに荷物を置いた直後に振り向きながら小夏君にこんな事を言っていた。
「お風呂…湧いてると思うから先入ってきな。僕はシャワーでも充分だ。」
帰宅してから三十分は経過したと思う。小夏君が風呂から上がり…僕もシャワーを済ませ…後は寝るだけだった。僕は自分のベッドに小夏君を休ませ…僕自身は自室にあるソファーで寝るつもりだ。
「なんか…すいません。ベッド借りちゃって…」
そう言った小夏君に僕は、微笑みながら言葉を返す。
「そんな気にしなくて良いよ。それに…」
そう言葉を詰まらせた直後小夏君は僕の方を向き疑問符を浮かべた。
「それに?」
その疑問符に僕は目を逸らしながら…言葉を返す。
「風邪ひいちゃ…行けないだろ?」
それから少しばかり沈黙が部屋中を支配したが…すぐに笑い声が聞こえた。その笑い声は…小夏君が出していたものだった。
「アッハハ!…ハァー…佐久間さんって…優しいですね。さっきの方…お母さんもきっと良い人でしょ?」
僕はその言葉に一瞬曇らせながらも笑顔で答えを返した。
「…あー…あの人母さんじゃないんだ。叔母さんなんだ…なんていうんだろ?家出ってヤツだ。」
そう答えを返した後小夏君は、少しこちらを心配するようにみつめていた。
「どうして…家出なんて?」
みつめてくると同時にそんな質問が小夏君から聞こえてきた。僕はその小夏君の質問に少しばかり考えながら返答を返した。
「……頼られるのが嫌いでさ…僕の周りはいつもそんな視線を僕に向けてきた。それが…嫌で嫌でたまらなくて…テストの点数といい…色んなことが上手くいかなかった時…親を含め…周りの声に答えるのが嫌になった…だから……出ていった…ただそれだけだよ。」
そう僕が答えを返した直後小夏君はこんな事を言い始めた。その言葉で僕は小夏君の家庭事情を知る事になる。
「なんか…ちょっと羨ましいです。私…親居ないんで…って…すいません!個人事情なのに…」
そう言った小夏君の頭に僕は手を置き…こう呟いた。
「やっぱり君は…凄いよ。そんな家庭事情なのに…明るく振る舞えるんだから。」
僕はそう言って電気を消し…ソファーで横になった。それと同時に小夏君の声が聞こえた。
「私そんな凄くないですからねっ!それだけは否定させて貰いますよ!」
僕はその小夏君の訴えに薄目になりながら…言葉を返した。でもその後の事は覚えていない。
「アハハ…分かったよ…おやすみ……」




