そして日は繰り返す
TheApplehuman 遠江 廻 錦山 琴葉 轟 裕二 佐久間 恭太郎の四人で構成されたロックバンド。パフォーマンスと歌のチョイス…ボーカルである遠江 廻の歌声が評判を呼ぶ事となる。
遠江 廻 しがない成人男性。本作の主人公である。ごく普通の工場で働く傍らロックンロールを愛している人物。しかし全身に腫瘍が出来てしまい余命数ヶ月を言い渡されてしまう。「TheApplehuman」のギターとボーカルを兼用している。
錦山 琴葉 遠江 廻の隣の家に住む大学生。ポニーテールが特徴的で性格は明るいが暗くなる時との落差が激しい。遠江 廻とは幼なじみという関係である。石川 祐介とは恋人同士だったのと遠江 廻がロックバンド活動を再開させる事をきっかけに「TheApplehuman」のベーシストとして加入する。廻に思いを寄せているが…中々言い出せずにいる。
轟 裕二 遠江 廻とは高校時代ロックバンドを結成し活動していた元クラスメイト。パートはドラムでガサツで口が悪いが情熱的な人物。父と兄が経営するライブハウスで演奏するのが夢らしくそれを実現させる為 「TheApplehuman」 の活動再開を遠江 廻と実現させた。
佐久間 恭太郎 遠江 廻とは高校時代ロックバンドを結成し活動していた元クラスメイト。パートはキーボードでシルクハットを被っている。性格は冷静沈着でいつも落ち着いているが…偶に冷静さを欠かす時がある。自宅ではグランドピアノを弾く趣味を持つ得意な曲はドビュッシーの月の光。両親との誤解も解けており父から「また一緒に暮らそう」と提案されるが…今のバンド活動に重点をおきたいがために断っている。小夏 侑李を TheApplehuman に誘った人物でもある。
石川 祐介 遠江 廻とは高校時代ロックバンドを結成し活動していた元クラスメイトであり親友であり幼なじみ。パートはベースでいつも明るくがモットーだった。錦山 琴葉とは恋人だった人物。物語開始前から既に故人である為物語上登場場面は最も少ないが「TheApplehuman」が前へ進むきっかけを作った人物。
小夏 侑李 遠江 廻の職場の後輩。常に明るく元気な為遠江 廻からは「元気で一方通行なヤツ」と称している。遠江 廻と再開した時には仕事を休職している。職場の上司に言い寄られて居たところを佐久間 恭太郎に助けられており…本人曰く命の恩人。佐久間 恭太郎にバンド加入を推薦され…憧れの先輩である遠江 廻の所属するバンド TheApplehuman に加盟する。パートはアコースティック・ギター。
轟 翔 轟 裕二の兄。父と一緒にライブハウスを経営しており若手の経営者であり遠江 廻と同じくギタリストとして活動している。
夕月 千尋 轟 裕二と佐久間 恭太郎とジャズバンドをしていた人物。裕二の元恋人であり裕二自身…夕月 千尋の背中を追っていたが同窓会の際既に他界していることが判明している。中学生の時に裕二や恭太郎とジャズを演奏していた時のパートはサックス。サックス奏者になるという夢を叶えるためアメリカに留学するが事故に遇い逝去した。しかし死後もなお裕二の記憶に残っており…自分の死を知った裕二の背中を押す。
宮崎 遠江 廻が働いていた職場の上司。部下の面倒見が良く廻や侑李からは好かれていた。遠江 廻が後僅かな命しか無いと知った時に、当初入れていたお見舞いの直後廻の入院していた病室を訪れている。
次の日の朝僕は琴葉の声を聞き目を覚ました。でも昨日の事もあったのだろう…今日の僕は凄く寝起きが悪かった。
「廻ー!起きて!もう朝だよ。」
僕の左横で琴葉の声が聞こえる。それに対して僕はうなだれるだけだったが…うなだれながらも言葉を返していた。
「……うーん…後十分寝かせて……くれ…今日は…日曜…」
目を綴じたままそんな事を言う僕に琴葉は、僕が被っていた布団を無理やりはがしていた。そうして出できた言葉はまるで…母親同然の言葉だった。
「…あーっ!もう!…ねぇ廻?いくら土日だからって…何時までも寝てちゃダメなんだよ?ほら!早く起きる!」
その言葉を嫌々耳に入れながら…僕はベッドの柵を持った…つもりだった。
「キャッ!」
「ん?今…ベッドの柵のカバーを触ったんだが…こんな柔らかくて暖かかったけ?」
ベッドの柵のカバーにしてはあまりにも柔らかく…そして妙に暖かい…後琴葉が悲鳴にも近いような声を上げていたもきっかけで僕の目は自然と開いていた。そんな僕の目に映った光景に自分自身言葉が出なかった。
「……え?」
僕の視界の先には頬を赤く染めながらこっちを睨みつけてくる琴葉がいて…理由も無しに視線を落とすと…僕はしばらく放心状態になっていた。だって…僕が掴んだものは柵のカバーじゃ無くて…琴葉の胸だったのだから。
「ちょっと…廻?何時までそうしてるつもり!?」
その言葉の後我に帰った僕はすぐさまその手をどかしながら謝った。
「…あー…すまない。ちょっと放心状態になってた。」
僕がそう言った後琴葉はすぐに僕の部屋のドアを開け僕に振り向かず…こんな事を言ってきた。
「朝ご飯の準備してくるから…!早くリビングに来るんだよ!」
そう言った後琴葉はドアを閉めて…ダイニングで朝食を作るため降りていった。一人ぽつんと残された僕は琴葉の胸を掴んでいた左手を見つめながら…。
「柔らかかったな…うん…。」
そんな事を小さな声で呟いていた…。
ダイニング兼リビングに着くと…テーブルの上にはオムレツとサラダが置かれていた。そのテーブル席に腰をかけると…僕の目の前にあるキッチンにはトースターが食パンを焼き終わるのを待っていた。
「…おはよう…。とりあえず…そのテーブルの上の物と今焼いてるのが朝食だから…。」
そう言った琴葉の声は笑っていなかった。無理もない…年頃の子に不可抗力とはいえあんな事をしたんだ。そう落ち込んでいる僕に、琴葉はその声のトーンのまま…こうも言った。
「…別に気にしてないから。」
そう言った後トースターが食パンを焼き終わる合図の様な音が聞こえ…焼かれた食パンを琴葉は持ってきた。そうして…僕らはそれらを食べ始める。
「頂きます。」
二人同時に言ったその言葉の余韻だけが部屋を支配していった。しかし…
「………。」
「………。」
気まずい。今この部屋がすごく気まずい。理由は何となく分かる。昨日僕は琴葉に変な頼み事をしたのも覚えている故…先程の事件のようなものだ。楽しく会話しようにも…出来なかった。
「…ねぇ?…さっきから左手ずっと動いてるけど…?」
琴葉がいきなりそんな事を言ってきた。僕は動揺しながらも答えようとしたが…先にその答えを当てられてしまう。
「えっ?あー…なんでだろうな?し…痺れたのかもな。」
「…さっきの事だよね?廻?」
オブラートに包んではいるが…朝に話す内容なのか分からないような事を琴葉が言った後僕はしらばっくれることにした。だって…簡単に はいそうです なんて言ったら多分色々言われるからだ。
「な…なんの事かなぁ~?僕は知らないなぁ~?琴葉…大丈…」
シラを切ろうとすると琴葉は頬を赤らませながら僕に怒号を浴びせていた。まぁ…声が少々幼いためそんな心には響かなかったのだが…。
「あー!そうやってシラを切ろうとしてるんだ!?私も恥ずかしい思いを上手く隠してんのにさ!ほんと!下手くそ!廻は嘘つくのすごく下手!」
そんな言葉に僕はつい感情的になっていたのか…いつの間にか僕らは言い争いに近いような事を朝っぱらかやっていた。
「…うるせぇーっ!仕方ねぇだろうが!こちとら目閉じてた手探り状態でさっきの事だ!不可抗力だろうが!どう考えても!ベッドの柵のカバーにしては妙に柔らかいなぁとか思った自分を今この場で殴りたいね!ってか…なんでお前僕を起こす時わざわざ隣のスペースで寝っ転がって起こすんだよ!?それがまず理解出来ねぇ!」
そんなまるで子供のような言い訳に琴葉も反論する。その言葉は僕の心に刺さるだけだった。
「まずさぁ?廻?いっつもそうだけど…なんか悩み事とかあると…どんだけ揺すっても起きないよね?それで中学の時遅刻しかけたよね?んでもって頑固だから誰にも悩み事言わないよね?中学と高校で一回登校拒否した時も私とか祐にも相談無しに…私はね!廻が心配なの!なにかあった日の廻は…寝たら寝たきりだし!何も頭に入ってないし!相談もしないし…。」
段々とその琴葉の声が小さくなっていた。そんな時琴葉は段々と視線も床に落ちてゆく…そんな琴葉に僕が今してやれることはこれだけだった。
「大丈夫だから…ホントに…な?そんな心配すんなって…ただ…誰かに言うのが恥ずかしいだけなんだ。そんな気にするな…」
そう言って僕は琴葉を抱いていた。その少し華奢な身体が僕の身体にまとわりつく…しばらく時間が経過した辺りで僕は琴葉を自分の身体からはがそうとした。
「もう…大丈夫か?ほら!今日からバンドの練習するんだから…な?」
そう言って僕は琴葉の肩に手を置き…琴葉の顔が見えるようにする。その場に居たのは…少しばかし照れいた琴葉がそこには居た。
「…うん。」
僕は洗い物をするためにキッチンへ足を向けた。その時…口から漏れていたのだろう無意識にもこんな言葉が僕の口から溢れ出ていた。
「……柔らかったな…。」
そう呟いて僕がキッチンへ向かうと同時に小さな声だが…琴葉が、頬を赤らませたままこんな事を呟いていた。
「…だって……してないもん…。」
それから僕らは別々の部屋で着替えを終わらせていた。最初に来たのは…裕二だった。
「よっ!久しぶりの練習だな!またパーっとやっちまおうぜ!パーっとよ!」
そう言った裕二に僕は少しだけ笑いながら僕ら二人の肩を軽く叩いていた。そうやって日は繰り返す…いつもいつも…その一日一日を僕らはただ過ごしていくのだろう。三人で練習部屋に着くと裕二は、こんな事を言ってきた。その言葉は僕らのバンド活動に関わる事だった。
「ん?あー…そいえばよ…恭太郎が紹介したい奴が居るらしいぜ?何でもこのバンドに誘ったんだとか。」
恭太郎がスカウトしてくるなんて…珍しい事もあるものだなと考えていると…噂をすればなんとやら恭太郎からメールが届いた。内容は僕の家に着いた…という知らせだった。僕はすぐにそのメールに返信を返す。
「そのまま入ってきてくれ…っと。」
その直後遠くでドアが開いた音が聞こえる。そして足音が二階へと近ずいてくるのが分かる。練習部屋の前で足音が止まると…そのドアは優しく開かれた。ドアが開いたと同時に恭太郎の声が聞こえていた。
「おはよう!」
皆がそう言ったその時…僕は恭太郎の後に見知った人を見つけた。最初は気のせいだと思ったが…恭太郎の紹介が入ったと同時に僕のその気のせいは確信に変わった。
「おはよう…あー…えっと…一人新しくメンバーに勧誘してさ…紹介するよ。小夏 侑李 さんだ。」
その恭太郎の言葉の後…小夏はにこやかな笑顔を浮かべながら…挨拶をした。
「小夏 侑李です!パートは…アコースティック・ギターやってます!」
裕二や琴葉が歓迎する中僕は小さな声で呟いていた。まるで…その場に居ることに疑問を抱くように…
「どうゆう事だ?…どうしてお前がここに来た?…小夏。」




