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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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ずっと…ずっと…君を追いかけて

俺は今一人商店街を歩いていた。商店街は相変わらず賑やかだったが…俺の心の中は虚無…ただそれだが支配していた。しばらく商店街を、歩いてある店に着いた。それは本屋だった。そこは…中学の頃下校途中に千尋とよく寄っていた本屋でその店の前の雑誌コーナーに置いてある音楽系の雑誌を二人で読んでいたのを今でも覚えている。

「……ジャズの雑誌…」

俺はそう呟き手にした雑誌をレジに通していた。昔は見るだけだったが…無意識にその雑誌を買っていた。

「千九百円です」

そう店員に言われた後すぐに札二枚を出してその本屋を後にした。別に何処か目的地がある訳でも無ければ…何かしたい事があるわけでもない…ただ歩いて…歩いて…ひたすら歩くだけだった。そして本屋を出てから三十分は経った頃だろう見覚えのある山道を歩いていた。そうだ千尋と花火を見た場所にたまたま着いたのだ。

「…ああ……懐かしいな……」

そう言い休憩をする為に作られた石造りの椅子に重い腰をおろした。鳥の囀りがまるで合唱みたいにいろんな所から聞こえ…風の音がそれを中和させていた。

「まるでコンサートみたいだ…。」

俺の口から出た言葉がこれだった。昨日千尋の家に行った時千尋の母親からこんな事を言われたのだ。

「ちーはね…コンサートやった後のインタビューでこんな事を言っていたわ「早く一流のサックス奏者になって日本に帰りたい。一緒にジャズをやろうと約束した大切な人がいるから」って…それは多分貴方の事で合ってるのかしら?もしそうなら…遅くても良いからあの子を追いかけて欲しい。ずっと…ずっと…」

昨日言われた事が脳裏によぎる。だって千尋が言っていた「大切な人」とは俺の事なのだから…その千尋が言ったであろうインタビューの内容がどうやっても頭から離す事が出来なくて…いつしか俺は笑っていた。

「何が…何が…「大切な人」だよ…先に逝きやがって…俺一人で…おめぇの居るところまで行ける訳ねぇだろ…分かってくれよ…千尋…なぁ?」

意味も無く俺は空に向かってそんな言葉を吐いた。


ジャズをやり始めた頃だった。その時は、まだ曲のテンポに合わせるのが精一杯で千尋や恭太郎に合わせるのが大変だった。

「だぁーっ!クソが!また間違えたじゃねぇか!」

そう愚痴を零しながら俺はドラムの上にバッチを強く叩きつけた。当時の俺は…想像以上にガキだったんだと今になって思う。

「こんなん出来るわけねぇだろ!なんもねぇ俺がよ!」

そう言った後いつものように千尋からこんな言葉を言われていた。最初の頃はこの言葉を腐るほど聞いたような気がする。

「はーい!諦めない!裕二はやれば出来るって…誰かに見せようよ。」

そんな言葉に俺はブーブーと文句を言いながら…千尋の声を耳に入れていた。

「俺はやれば出来るって…そんなタイミングある訳ねぇだろ…」

そんな愚痴を小さな声で言ったが千尋には聞こえてたみたいだ。俺の顔を覗く様に近ずいた後こんな事を言っていた。

「いいや…ある。誰の上にも雨って降ってるけど…時々素知らぬ顔をして…チャンスってのは降って来るんだよ。」

その言葉が千尋の口癖だった。俺はその言葉を何度も聞いた。今にでもすぐ思い出しては空を見上げている。でもこの言葉がどこから出てきたのかを俺はすぐに知る事になった。ある日の昼休みいつも通り音楽準備室に入ったが…千尋の姿は見えなかった。

「何時もならここに居るだろ?」

そう言い音楽室を見てみると…そこには黒板の前で突っ立ている千尋を見つけた。なんだ黒板でもデッサンするのかと思っていると…ある歌を歌った声が聞こえた。

「空前絶後。前人未踏。そんな風な生き方は楽しいだろう。魚になって泳いでいこう。あの子も魚になったなら…楽しいな。」

その歌声は決して上手いとは言えないし…綺麗とも言えない。だが何処か聴いていると胸が締め付けられた。

「あっ…今の聞いてた?」

振り返りながらそう質問してくる千尋に俺は、目線を逸らしながら返答を返した。

「ん?あー…まぁな。」

上手くも無ければ下手でも無い… その歌声が好きという事を自分なりに隠しながら曖昧に答えを返す。その返答からすぐに千尋は俺にこんな事を言っていた。

「この曲は最近知った曲でね…THE BLUE HEARTSってバンドの曲なんだけど…こういう曲書ける人…憧れるよね。」

そう言った後千尋は太陽のような笑顔を俺に見せてきた。そんな千尋の笑顔に俺は何も返せなかった。何故か?「笑顔が素敵だ」なんて恥ずかしくて言えなかったからだ。それから数日後だった…俺は夏祭りの時に、千尋に告白をした。それからは…一緒にジャズ演奏をする仲として…恋人として俺達はその道を歩んで行った。気が強くて…諦め悪くて…でも…その笑顔と包容力が愛くるしい…千尋とずっと一緒に居たかった。


千尋との思い出を振り返りながら意味も無しに街を歩いて…俺はそのまま家に帰っていた。ライブハウスのステージに座り込みながら溜め息を吐き…薄暗い空間の中で俺は、愚痴なようなものを吐いていた。

「馬鹿野郎…ずっと…ずっと…お前を追いかけても…生きてなきゃ…意味がねぇだろが…」

そう言いながらドラムの横を見つめていた。そこには…あの時の思い出が飾られているから。もし…千尋が生きていたら…俺はどうなってたんだろう…と薄暗いライブハウスで言葉を零していた。

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