ずっとこうしてられりゃいいのに
俺達は一晩中の練習を終わらせた。思えばよくやったと思っている。数分前には恭太郎が帰っていき…今控え室では琴葉ちゃんが寝てる状況だった。俺は兄貴がいるステージに足を運んだ。その時窓から見えたのは朝焼けで、その日の始まりを教えてくれていた。
「綺麗なもんだ…。」
そう立ち止まっては、言葉を零し止めた足をまた動かした。ステージの前に着き扉に手をかけると…キィィィ…と耳に来るような音をたてながらステージの重苦しい扉が開いた。するとギターを片手にエナジードリンクを飲んでいる兄貴に俺は声をかけた。
「…よっ!どうだ?廻のギターはよ…兄貴?」
俺はそう兄貴に声をかけ兄貴の横に座り込んだ。兄貴はエナジードリンクの入った缶をステージの端に置き…煙草を吹かしながら神妙な顔つきで、俺の質問に答えを返した。
「あー…弦に癖があるな…流石廻君…といったところかな…俺じゃ扱えない。いや…扱いづらい…と言った方が良いかもな。それにしても…」
答えと同時に兄貴は真顔で俺に疑問符をぶつけて来た。しかしそんな疑問を兄貴が抱くのも当然だったと俺は思ってしまう。
「廻君はギターほったからして…家を長い事留守にしてるのか?なぜ?」
俺はその質問にどう答えを返せば良いのか分からずにいた。その場しのぎでたぶらかすか?いや…兄貴の事だ…すぐに分かるに決まっている。
「さ…さぁ?家族の用事なんじゃ…」
「その様子じゃ廻君の身に何かあったんだろ?」
流石兄貴…察しが良い。俺はもう兄貴にこう質問するしかなかった。廻からは…他言無用でと言われているが…まぁ…琴葉ちゃんにバレちまった以上…他言もクソも無い。
「な…なんで…そう思うんだ? 」
言葉をつまらせながら俺が質問すると兄貴はすぐにそう思った理由を教えてくれた。正直ああ言われてしまうと…納得するしか無い。
「まず…この一晩中練習する前に廻君の家に行っただろ?その時から違和感しか感じなかった。だって…旅行とかならまだ少しばかり生活感が残っててもいいはずだ。だが…物が綺麗に整頓されてた何処も彼処も…だ。後…このギターに書かれた文字…「Theapplehuman is immortal!」…コレは何かあったんだろ?それに…カレンダーに「治療」とか書いてあったんだ余計にそう思っただけだ。」
俺はそんな兄貴の完璧すぎる考察にもう隠す事は出来なかった。重苦しい空気の中で俺は、仕方なく口を動かした。兄貴に廻が今どうなっているのか…説明した。
「…実はさ…廻…癌なんだよ…俺も最近知ってさ…なんで言わなかったんだろ…って。」
俺は渋りながらもその言葉を絞り出した。兄貴は煙草を口から離しながら俺に質問した。
「…で…廻君の様態は…?どうなんだ?裕二?」
「…もう…長くないってよ…持って四ヶ月か三ヶ月なんだってさ…笑えねぇよな?廻も最近知ってさ…もう…どうしようもねぇよな…。」
そんな会話を終えると兄貴は、灰皿に煙草を押し付けエナジードリンクを口に含んだ後俺に言った。
「そうか…コレで二人目だな…馴染みの奴が居なくなるのは…祐介君が逝って…もう三年かそんな年に…次は廻君なんだな…何だろうな…良いバンドマンは早く死ぬもんなんだな……哀しいもんだな。」
そう言葉を零し兄貴は天井を見上げた。そんな兄貴に俺は言葉もかけられなかった。
「あー…裕二…今日お前同窓会なんだろ?あんま湿気た顔すんなよ。」
ステージを出る直前に聞いた兄貴の声は何処か明るく…何処か哀しかった。
いつの間にか練習を終えてからかなりの時間が経った。俺は同窓会へ向かう準備を着々と進めていた。すると…目が覚めたのだろう琴葉ちゃんが控え室から出てきたのだ。俺は、眠たそうに目を擦りながら大学に向かう準備をしている琴葉ちゃんに声をかけていた。
「よっ!おはよう!大学か?行ってら!」
その言葉に琴葉ちゃんは笑顔で返してくれた。その笑顔はまるで太陽の様に眩しかった。
「あ!おはようございます!そうですね…寝不足で辛いですけど…行ってきます!」
そう言いバンドハウスの中は俺一人だけになった。俺は一人になった途端…無意識にこんな弱音を呟いていた。
「ずっとこうしてられりゃいいのにな…。」




