練習中の君の顔
練習が再開され僕は歌を、歌いながらギターを弾いた。でも今日はよくミスをする。何故なら練習中に君が見せる顔があまりにも美しいから…そんなくだらない理由を心の中に留めていると…。
「ギャイィィン!」
とアンプから激しい音が聞こえた。方向からして…また僕のギターが繋いであるアンプからだった。
「すまない…また間違えた。」
周りからは…心配された。無理もない何故なら…普段練習中ミスをする事が無いような僕が珍しく何回もミスをしているからだった。
「廻?大丈夫?あまり無理しない方が良いよ?」
周り…とはいっても裕二だけだが…僕がどうしてこんな事になっているのかを知っている。琴葉は休憩時間の僕らの会話を、聞いていないだけあって 心配 するだけだった。
「お?どーした?廻?寝不足かー?」
裕二が僕にそう問いかけるが…コイツはもう答えを知っている。そんな人間が白々しくしているのを見て僕はイラつきを覚えていた。
「あの…!裕二さん…恭太郎さん…早めのお昼にしません?廻もこんなだし…ちょうどいい時間帯だし…。」
琴葉はそう言いベースをスタンドに、戻し僕にキッチンを使って良いか尋ねてきた。
「あのさ!廻…その…えっと…台所借りるね。」
僕はその琴葉の言葉に少し遅れて答えを返していた。普段なら…答えを返すのに送れないのだかな。
「ん?ああ!…良いぞ…使ってくれ。」
そう僕が言った後琴葉は一階の、キッチンへ足を運んだ。
少し早い昼食をとる前に、僕はバルコニーで珈琲を飲みながら空を眺め考え事をしていた。琴葉の事ももちろんだが…今後このバンドはどんな行先になるのか…僕が居なくなったら…とかそんな遠くない未来を、考えていた。
「このバンド…今後どうなるんだろうな…後…琴葉と同じ空間にいる時に湧き上がるこの感情はなんなんだ?…。」
そう言葉を零した直後…後ろからいきなり声が聞こえた。いつも聞いている人の声だが…その人の事を考えると…どうも頭から離れなかった。全く裕二が余計な事を吹き込むからだな。
「えっとね…廻…お昼ご飯持ってきたよ!今日は…ジェノベーゼ!どう…かな?」
そう言い僕に昼食を差し出した琴葉に僕は、心だけでも琴葉の方へ向き感謝を言ってみせた。
「ん?おー…ありがとうな。頂くよ。」
しかしあくまでも 心だけ だ。だから実際は琴葉の顔を見てはいない。それ故かお互いしばし無言を貫いた。
「………。」
「………。」
鳥のさえずりと遠くで車が走る音だけが聞こえるばかりで、お互い気まずい状況下の中…僕は作られたパスタに手を付けようとしたその刹那琴葉が口を開いた。
「ねぇ?廻?」
そう声が聞こえた途端…フォークを持った僕の手が止まる。それと同時に嫌な汗が額から滲み出て頬まで垂れてきた。僕は恐る恐る琴葉の声に言葉を返した。
「な…なんだ…?。」
僕がそう返した後琴葉は、今日の僕がどうしておかしいのかを聞いてきた。
「えっとね…私…廻になんかした?今日ずっと私の事見てたよね?」
どうやら気付かれていたようだ。僕はコチラを見ながら話しかけてくる琴葉から目を背け答えを口にした。
「どうもしてねぇよ…お前がそう思ったなら…そうだろうし…そうじゃなかったら…そうじゃないんだろうな。」
そう僕が言った後琴葉は、一間置き…言い逃れできないように僕に対して言葉を吐いた。
「じゃあさ…なんで私と目が合った時にすぐ逸らすの?私に対して…なんか不満でもあった?」
そう聞き目を合わせようとする琴葉。僕は必死に目を背け琴葉を見ないようにした。いや…本当は目を見て自分が、琴葉の事をどう思っているのか語りたい。しかしそれが出来ない。いざ実践しようとなると…心臓の鼓動が加速していってしまう。
「な…なんでもねぇよ…」
僕はこの時恐らく照れて頬が赤く染まっている事だろう。若干上昇する体温の感覚で分かっているが…僕はそれを認めたくなかった。だって認めてしまったら…琴葉を見るだけで理性を失ってしまいそうだからだ。
「…あのさ廻?廻ってさ…隠し事下手だよね?昔もさ…喧嘩して帰ってきたの分かるのに…「転んだ」とか言っちゃってさ……でもさ…今の事は…隠さないで欲しいし…嘘もつかないで欲しい…だから……言って?」
琴葉はそう言いながら頬を赤くし…涙を流しそうだった。僕はため息混じりに琴葉に言った。
「はぁー……練習中の…君の顔を見ていいると…なんか必死そうでさその顔が…その…可愛いく思ってしまってね…祐介のエレキベース…君に託して良かったよ。って思っただけさ。」
僕は、そう答えを返し琴葉から顔を背けながら空を見上げ…先の質問の答えに唖然としている琴葉に言葉を吐いた。
「そいえば…君は趣味で始めた事に良く没頭してたもんな…ま!今君が休憩時間に持ってくる「アップルパイ」が実にそうじゃないかな?今で言うとエレキベースみたいにさ…。」
そう言葉を付け足した後琴葉は、遅れながらに反応し動揺しつつも僕の答えと言葉に照れ隠しをした。
「な…ななななっ!…何言ってんの!?そんなわかないじゃん!それと…その答えは反則だよっ!」
そう言い僕をチラッチラッと見る琴葉の顔は更に赤く染まっていた。
「さ!これで気にする事は無くなったろ?僕を気にするんじゃ無くて…自分だけの休憩時間を過ごしてくれ。」
僕はそう琴葉に言い肩に軽く手を添えた後少しばかり距離を置いて…ジェノベーゼを口に含めようとすると…隣で、僕と同じメニューと緑茶が置かれた。その後に琴葉が少し照れながら僕の隣に来てそれ等を口に含んだ。
「自分だけの休憩時間を過ごせだって?じゃ私はこう過ごす!異論は認めないからね!」
おっと…そいえば琴葉は確か ツンデレ とか言うヤツだったな…祐介が前に言っていた気がする。ま…恐らく僕の事なんか眼中にもなさそうだが。
昼食を食べ終わった後僕は、空を見上げた。すると琴葉が意味深な質問をしてきた。
「ね…ねぇ…廻?廻ってさ…今…好きな人とか気になる人って…居るの?」
僕はその質問にこんな曖昧答えを返しておいた。無理も無いと思う…だって好きでは無いが…気になる人は目の前に居るのだから。
「居ない…って言ったら嘘になる。気になる人は居るには居るが…訳あってその人に思いを告げれない。」
そんな曖昧な僕の答えに琴葉は、笑って答えてくれた。不覚にもその時の笑顔が可愛く思えてしまった。
「………そっか…。」
琴葉は、そう言って照れながら景色の方へ視線を向けた。僕はそんな琴葉を見て 後悔を作りたくない その言葉が頭によぎった。いっそもう言った方が清々しいのでは?…そう言葉を心の中にしまい込み琴葉にある言葉を言おうとした。
「なぁ…その…ぶっちゃけ…その人はな…」
さぁあと少しだ…その後の言葉を紡ごうとした時バルコニーの入口側から口笛が響く。その方角を見てみると…裕二と恭太郎が腕を組みながら僕と琴葉を見つめていた。
「お!やってる!やってる!青春してんねぇ〜」
僕らはそう言われた後お互いに顔を逸らし…琴葉は空を…僕は裕二に説教をするかのように…裕二を追いかけた。
「な!?裕二おいコラ!まて!」
僕は裕二と恭太郎を追いかけるためにバルコニーを後にした。結局琴葉には言えなかったが…まぁそのうち言わなければならないと心に言葉を留めて今日という日を終えた。




