五、天空の獣達
四つ腕の獣を討伐した翌日。
庭の中を飛び回る小さな鷲獅子ことグリフィー。
親の火葬が終わった後、ミアが連れて帰ることを決め、そして名を与えたのだった。
勿論、無理矢理などではなく、最後はグリフィー自身がミアに従う事を決めたのだ。
子供とはいえ、誇り高い空の王者をいとも簡単に従わせるあたり、ミアの器量が伺える。
此処へ来た当初、やはり庭の中に足を踏み入れようとしなかったグリフィーであったが、例の如くミアが狩って来たかなり大型の青白く発光する羽を持つ鳥の力をカナタが植え付けることで、この問題を解決。
一時的とはいえ、失った片翼の代わりに翼が授けられたことに喜び、グリフィーは早朝よりカナタに何度も羽を付けるようせがみ、空を飛び回っているのだ。
元からある片翼と青白い翼では、バランスが悪く飛び難いようで、カナタの能力を使って飛ぶときには、両方の翼を青白い羽に変えて飛ぶ方法に落ち着いたようである。
「けど、やっぱあの鳥の翼じゃ、元のグリフィーの飛行能力は到底出せないなぁ。
羽は大きいし綺麗なんだけど、スピードはイマイチだ。
少し飛んだら翼も消えちまうし、やっぱりあの鳥くらいじゃ駄目だな。
という理由で、これからは飛行能力の高い生物を見つけたら可能な限り捕獲して食おう!
一応、片方の翼がなくても、グリフィーだけなら空中を蹴って飛ぶ事は出来るみたいだけど、ミアを乗せて飛ぶつもりなら、ちゃんとした翼が必要だ。
もちろん時間制限なしのな!」
時間制限なし、つまりグリフィーと融合し、進化に至れるだけの力を秘めた生物の翼が必要なのだ。
勿論、それにはグリフィー自身も進化に至るだけの力を身に付ける必要があるだろうが、果たして空の王者と交わるに足る生物がそう簡単に見つけられるだろうか?
見つけられたとして、それを食べることは叶うのだろうか?
カナタは明るく振舞いながらも一抹の不安を覚えるのであった。
「ぐりふぃー」
「キュピィィィイイ!!」
食事を終えたミアに呼ばれ、嬉しそうに駆け寄るグリフィー。
ミアの元に到着するなり低くなって、ミアがいつでも背中に乗れるような体勢を取る。
カナタが背中に乗ろうとしても絶対に乗せないことから見ても決して人懐っこい生物ではないのだろうが、ミアだけは特別なようだ。
エログリフィーなどと揶揄うカナタの頭を、グリフィーが鋭い嘴で突くというほのぼのしたやり取りの最中、ミアが口を開く。
「かなた」
一刻も早くグリフィーに新しい羽を与えたいのか、単に早く出掛け、色々な生物と戦いたいのか。
ミアはグリフィーの背中に乗ると、カナタを急かすように見る。
「よっし、そろそろ行くか?
色々やりたい事もあるし、早めに動いたほうがいいだろうな。
だけどその前に、ちょっと渡したい物があるんだ。来てくれミア」
ミアとグリフィーは顔を見合わせると、不思議そうにカナタの元に近寄る。
すると、カナタは朝食を食べるために座っていた丸太の後ろを探り、ある物を取り出した。
「渡したい物ってのはこれだ」
カナタが取り出したのは、細く長い棒の先に無骨な刃物の付いた、ミアの背丈よりも随分と長い、所謂、“槍”と呼ばれる武器。
それは、昨日グリフィーの親である鷲獅子を火葬した時のことだった。
唯一燃えずに残っていた、金属にも似た白金色の太く強靭な爪。
獣を、竜を、人を、剣を、盾を、木を、岩をーーーー。
有りとあらゆるものを斬り裂き、打ち破って来た鷲獅子の最強の矛。
それを使い、カナタが自らの能力で作り上げた強固な槍であった。
空を飛ぶ性質を持つ鷲獅子の爪は、強靭な上に軽く、燃えずに残っていたことから見ても熱に強い。
素早い動きと雷を使うミアにピッタリな材質なのではないかーーー。
それが昨晩、カナタなりに考えた結論であった。
だが、ミアは取り出された武器を前に首を傾げている。
目の前のそれが何なのか?槍という武器を目にしたことが無いかのようなミアの反応に、カナタが説明する。
「これは槍って武器だ。
少し長くて、慣れるまでは邪魔かもしれないけど、昨日のデカゴリラとの戦いを見て思ったんだ。
最初の攻撃の時、もしミアがこれを持ってたら多分、勝負は一撃で終わってた。
普段は隠してるが、ミアには立派な爪があるから邪魔にならないような小さな武器なら、そもそも持つ意味がない。だから槍だ。
もし雷の効かない敵と出会ったとき、この槍は必ずミアを助けてくれると思うんだよ。
槍なら投げることも出来るから、遠い場所や空を飛ぶやつ、それに直接触れられないような相手でも有効だし、長いからグリフィーに跨ったままでも闘える。
手に馴染まなけりゃ違う形の武器に変えるから、取り敢えず使ってみてほしいってのとーーーー。
グリフィー。
これは、唯一残ったグリフィーの親の爪で造った、グリフォンの槍だ。
これをミアに渡してもいいか?」
「キュピイ!」
当然だーーーー。
カナタにはそう聞こえた。
そしてそれを聞いていたミアも、槍へ手を伸ばし掴み取る。
刃先を天に向けるようにして槍を見上げるミアは、感触を確かめるように数回振り回すと、唐突に辺りを見渡し始め、庭の外に聳える大きな木を見つけると、それに向かい槍を投げたーーー。
何気なく、軽い動作にて放たれたその槍は、凄まじい速度にて風を纏い飛翔すると、目標である木に突き刺さり貫通して木を斬り倒す。
だがそれでも槍は止まることなく進み続け、更に奥の大きな岩に突き刺さり、なんと粉々に破壊してしまったではないか。
槍が凄いのかミアが凄いのかーーー。
カナタとグリフィーは想像を絶する槍の威力に戸惑い、地面に半分ほど突き刺さる槍を見て言葉を失ったーーー。
「ん、いい武器」
******
蒼井奏多
特級魔法
創造主
加護
???
ーーーーーーー
ミア
種族
雷牙猫
↓
妖精猫族・白雷牙猫
特級魔法
白雷絶唱
武器
天帝獅子の槍
付随効果
追い風・斬撃上昇強・刺突上昇強
加護
???
メモ
カナタの相棒
白い雷と槍使い
尻尾が二本
ーーーーーーー
グリフィー
天帝獅子の幼獣
メモ
ミアの騎獣
片翼
ミアを乗せなければ空を蹴って飛べる
**********
カナタ達の庭より更に上流域。
太陽の位置から察するに方角は大凡、北であろう。
山からの脱出を目論むカナタにとって、川の上流域、つまり今いる場所よりも更に山奥へなど進む気が起きず、これまで探索しなかった場所。
そこにカナタ達はやって来ていた。
ミアやグリフィーからの情報により、強い生物や味の良い生物が生息していることが判明したからだった。
何を隠そう、ミアはグリフィーと会話可能なのである。
カナタも早々に背中に乗れるような獣を探さなくてはならないし、グリフィーの片翼を担えるような生物を探すのにも、強い生物がいるこの場所はうってつけ。
そして、庭の中での実験に使えるような味の良い生息を探す為にも、カナタはより山奥への探索を開始することを決めたのだった。
「しっかしーーーー、進む方向で、こうも生物群が変わんのかよ」
生い茂る植物、現れる生物、そのどれもが庭より下流域に存在する全く異なっている。
正確に言えば、下流域に住んでいる生物は上流域にも現れるのだが、下では捕食者だった彼等が、上では捕食される側に変わっているのだ。
ミアが討伐したばかりの四つ腕獣などは、下流域では肉食だったが此処では主に植物や果物を食料としているようで、身体が一回り小さくなっているせいか、大手を振って歩くようなことは決してせず、五〜十体ほどの群れを作って生活しているほどで、それを見るだけでもこの場所に踏み込むことがどれ程危険なことかが伺える。
そして現在、カナタ達は八体もの四つ腕獣ーーー、鬼狒々に囲まれている最中だ。
一体一体なら問題なく倒せる相手でも、カナタを連れた状態で八体もの獣に囲まれれば流石のミアもお手上げだろう。
そう考えたカナタはある作戦を思いついた。
「ヤバくねぇか、これーーー。
それならっ!」
カナタは昨日、ミアが倒した巨大な鬼狒々を食べ、身につけた力を発動し、自らに新たな二本の腕を発現させる。
しかし、相性が悪いのか、単なる実力不足か、狼の力のようにカナタの能力が上昇することはなく、ただ腕が増えるだけ。
にも関わらずカナタがこの姿になったのは勿論、闘うためではなくーーー。
「俺は仲間だから見逃してくれ作戦だ」
だが、腕が四本になっただけの人間を仲間だと勘違いするほど、野生の獣の嗅覚は甘くない。
腕を見せびらかすように広げアピールするカナタに、木々の影に隠れていた鬼狒々が一斉に襲い掛かった。
「ひぃいいいい!!やっぱ無理あったああああ!!!!」
八方から囲まれ、作戦の失敗を悟ったカナタはすぐさま二本角の狼、ヘラクレスウルフの力を手脚に発現させると、しゃがみ込んで鬼狒々達の隙はないかと探る。
だが、何処へ逃げようと捕まる未来しか見えない。
それならば、最も弱そうな鬼狒々に戦いを挑み、その一点を突破して逃げるしかないかーーー。
カナタが、そんな一か八かの大勝負に出るべきかと逡巡する中、ミアはいつもの調子で掌を頭上へ翳すと、淡々と唱えた。
「白雷雨」
直後、白い雷の雨が森に降り注ぐーーーー。
「うっーーーおおおおおおおおお!?!???」
「キュピィイイイイ!!?!????」
突然の出来事に、カナタだけでなくグリフィーまでもが目を見開き声をあげる。
どうこの場面を乗り切ろうかと考えていた所へ降り注いだ数百の白い雷雨。
半径二十メートルには及んでいるであろう、特大の範囲攻撃をこの至近距離で発動され逃げ切れるわけがない。
白雷は容易に全ての鬼狒々を捉え、そして絶命させたーーーーー。
「キュ・・・ピィィ・・」
「あ、あぁ・・・、何つぅ威力だよ。
ミアのやつ、いくら進化したからって強すぎんだろ」
「ん、強くなった」
焼け焦げた森の中に佇むカナタとグリフィーに、先ほどの雷とは一切関係のない力瘤を見せつけるミア。
突っ込みたくなる気持ちを抑えつつ、カナタは一安心していた。
これなら、この上流域でも生きていけるだろうと。
*********
更に上流域。
生態系に変化が見られ始めた。
巨大な獣が食物連鎖の頂点に立っていたであろう、庭の周辺に比べ、此処で幅を利かせているのは、主に巨大な虫だ。
密林の中に大きな巣を構えたタランチュラのような蜘蛛や、巨大な蜂や蟻、それに刀のような腕を持つカマキリ、口から酸のような液体を噴射する亀のような虫ーーー。
そのどれもが、狼や熊などを容易に食料にする力を持っている。
虫があまり好きではないカナタは、何度か蜘蛛の巣に絡め取られ襲われるも、ミアに助けてもらいつつ足早に虫達の支配する密林を抜ける。
すると植物の生い茂る森を抜けた先に、途轍もなく広い大草原が現れたのだーーーー。
勾配が緩やかになり、やっと頂上か?
などと油断するカナタの目に、信じ難いものが飛び込んできた。
大草原の先に、雲を突き抜ける一際大きな山が存在したからだ。
山というより、巨大な岩にも見えるそれは、地面に突き刺さったラグビーボールを斜めに傾けたような形をしており、その先は雲に隠れて見ることが出来ない。
「なんか知らんけど、ヤバそうな山だな」
「ん、どらごんいる」
「ドラ・・ゴン?
ドラゴンってあのドラゴンか?
羽の生えたトカゲみたいな形で牙とか棘とかあって、めちゃくちゃ強い!」
「そう。
森のどらごんより強い」
「森のドラゴン・・・?
ちょい待て!!森の中にドラゴンいるの!?
聞いてないし見てもないけど!?」
「見えない」
「見えないドラゴン?透明なのか?」
「ううん、森とおなじ色」
「同じ色ーーー。つまり、擬態してんのか。・・・カメレオンみたいなやつだな。
なら、そんなに強くはなさそうだし、美味くもなさそうだな。
何となくだけど。
なら、本物のドラゴンをみたけりゃ、あの山に行けばいいわけかーーーーー」
「行く?」
「うむぅ、興味はあるが、さすがに俺の足じゃ遠過ぎる。
やっぱり、まずは背中に乗れる奴を見つけるのが優先だ。
こんだけ広い草原なら走りに特化した獣もいるだろうし、探してみるか。
グリフィー、羽をつけてやるから空から探してくれないか?」
「キュピ!」
グリフィーは頷くと背中をカナタに向け、早くしろと言わんばかりにカナタを睨み付ける。
大地を駆ける速度も中々のものだが、やはりそこは空の王者。
翼を使い、空を舞うことが何より好きなようだ。
「ははは、そう焦んなよ!
良さそうな獣を見つけたら、教えてくれ。
なんならグリフィーが捕まえたっていいからな!」
背中に触れて大きな青白く発光する翼を与えてやると、時間制限内に少しでも多く飛ぼうとしているのか、すぐさま羽ばたいて空へ舞うグリフィー。
周囲を見渡すように、カナタ達の頭上をクルクルと回った直後、グリフィーは何かを見つけたように宙返りして進路を変えると、滑空し始めた。
異変を感じ取ったカナタとミアも、グリフィーが向かう先を目指して走る。
そして、カナタの狼の脚が時間制限により解除された直後、グリフィーがある獣の側で座り込んでいるのが目に入った。
それはカナタも良く知る生物だった。
長い脚に白い毛並み。
フサフサの尻尾と長い鬣、黒い蹄。
そして、ーーーー背中には大きな翼。
「天馬・・・・?」
通常の馬よりもかなり大きい、立派なペガサス。
その死体だった。
死後、小型の肉食獣に食い荒らされたのか、腹部の肉や内臓は無く、剥き出しになった助骨に残る肉は乾いて干からびている。
どうしてこんな場所に天馬の死体がーーーー。
何か情報はないかと周囲を見渡すカナタの周囲には、目を疑うような光景が広がっていた。
かなり離れてはいるが、周囲には翼を広げ舞う、天馬の姿がいくつも確認出来たのだ。
こんな森の奥深くに広がる平原に、天馬が偶然迷い込んだわけでは無い。
カナタ達が踏み込んだのだ。
通称、“ペガサス平原”。
此処は、多くのペガサスが生息する天空の大草原だーーー。
*********
広大なペガサス平原の中、地を駆け、空を飛ぶ天馬を捕獲するのは至難の技だ。
何せ此処には障害物などは無く、天馬達は好きな場所へ逃げられるのだから。
鬼狒々のように相手から向かってくるなら話は別だが、ペガサス達は警戒心が強いのか、カナタやミアが近づけばその分遠ざかり距離を取る。
いくらミアが速くても、こうも距離がある状態からでは空へ逃げられそれでお手上げだ。
翼を与えれば、成体が相手でも僅かにグリフィーの速度が上回るようだが、仮初めの翼では追い付くまでには至らず、時間制限が先に来てしまう。
続く天馬の捕獲失敗により、ミアは遂に苦渋の決断をくだすこととなった。
「カナタ・・・。殺していい?」
「こっ、殺す!?
いっ、一応確認するんだけど、天馬をだよね?」
「ん」
「だ、だよね。
それならいいんだ。こうも逃げられてちゃキリがないし、よく考えりゃ此処で捕まえても庭まで連れて帰るのが面倒過ぎる、ってより不可能だ。
魔獣達に襲われてミアが闘う間、天馬を抑えとく自信が一ミリもねぇからな。
だったら、俺が天馬を食うしか方法はねぇ。
ミア、やってくれ。
今日の昼飯は馬肉だ」
「わかった。ぐりふぃーはそのまま」
ミアはグリフィーについて来ぬよう言うと、槍を持って姿勢を低くし、遠くで草を食べる天馬の中から一際大きな個体を選び出す。
そして、低い姿勢から体の全てのバネを使って踏切り、走り始めたのだ。
一瞬で加速し、弾丸の如く大地を疾走するミア。
天馬がそれに気づくまでの間に、かなりの距離を詰めることに成功するが、このまま捕まえられるのならば、殺して良いかなどとミアも聞きはしない。
驚異的な速度で迫る生物の気配を感じ取った天馬達は色めき立ち、そして一斉に飛び立った。
ミアは標的にした大きな天馬を見失わぬよう、視線を外す事なく走り続ける。
天馬は、外敵が近付いて来た時、一定以上の距離を保とうとする。
つまり、迫るミアに背を向けて走り、その勢いを利用して空へ飛び立つのだ。
安全が確保されたと認識すれば、空を自由に飛び回るため的が絞りにくいが、ある一定の距離を保てるまで天馬は、本能的に敵と逆方向に走りつつ斜め上へ飛び立つ。
つまり、至極単純に狙いを定めることが出来るのだ。
ミアは狙った獲物が飛び立つのを確認すると、超速度の助走のエネルギーを全て伝えるように踏み込み、獣化させた腕にて、白雷と共に槍を放ったーーーー。
白雷を纏い槍が放たれるのと同時、凄まじいエネルギーにより円形の衝撃波が発生する。
そして槍の先端がそれを突き破った瞬間、レールガンでも放たれたかの如き様相を呈して白く発光する槍が爆発的な加速を巻き起こしたーーーー。
放たれた槍は放電現象を伴い、真っ直ぐに背中を向けた天馬目掛けて襲い掛かる。
果たして、それを見ていれば避けられたのだろうかーーーー。
放たれる事を知っていれば逃れることが出来たのだろうか。
標的まで一瞬にして追いついたその槍は、一際大きな天馬の体を貫き撃ち落とすと、背後に聳える巨大な山を目掛けるように突き進み、そして消えたーーーーー。
「ーーーーーおいおい、マジかよ。
なんつぅ威力だ」
「らくしょう」
「いや、つうか!グリフォンの槍がどっかに飛んでったぞ!?」
「キュピィィ・・・・」
「ん・・・・・、ごめんなさい。思ったより飛んだ」
「まっーーーー、しょうがねぇな。
結果的に天馬は仕留められたんだし、よしとしようぜ!肉を食ったら探しに行けばいいさ」
「キュピィイ、キュピィイ!」
「な?グリフィーもこう言ってることだししょげんなよ!」
適当なことを言うカナタに、グリフィーは嘴でツッコミ、ミアは少し微笑み小さく頷く。
そして落ちた天馬を回収し異世界で初めてとなる馬肉を頬張るカナタはまだ知らない。
天馬を貫通し突き進んだ槍が、その先でどんな怪物に命中していたのかをーーーー。
ペガサス平原。
そこには焼け焦げた大地が広がり、数多くの死体が転がっていた。
それは背後に聳える巨大な山、アトス山に生息する、竜の翼を持つ巨大な狼、リベリオンと呼ばれる凶悪な獣の群れの物だった。
リベリオンはアトス山の生態系のほぼ頂点に君臨する特に危険な生物であり、獲物となる対象は天馬やアトス山に生息する巨大な狼、ドラゴンにまで及ぶ、まさに最強のハンター集団である。
そのリベリオンの巨大な集団が、何者かにより壊滅していたのだ。
そしてリベリオン達の死体が転がる場所に、ミアの放った白金色の槍が転がっている。
その槍の先には赤く燃え上がるような色の大きな鱗が突き刺さっており、それはミアの槍を貫通させることなく、中程で受け止めていたーーーーー。