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バットエンドを目指して  作者: みみ
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「何をちんたらやっているんだい、ベン!さっさと庭掃除、洗濯してきな!」


突然、蹴破られるかのように扉が開き人間の女が入ってきた。自分よりも背丈は三倍ほどあり、横にも縦にもデカイ。

頭には特徴的な黄土色のバンダナを巻いており、その真下にある人相の悪さを僅かばかり軽減している。


何を食ったら、こんなにも肥えたタンスのようになるのだ。いや、もしかしたらこの屋敷の非常食なのかもしれない。

昨今の非常食は働かされるのか?なんとも難儀な事だ。


少しばかり同情をしていると、タンス女は何かにしびれを切らしてたらしく、こちらに野太い手を伸ばす。

だが、その腕がこちらに触れる直前、軽く身を翻し横の隙間から脱出を図った。


「うぇ……!?」


しかし抜け出たのは自身の情けない呻き声のみであった。首の喉仏あたりが服に圧迫され、身体に巡るはずの空気が口から出ていく。自分が首根っこを掴まれている事を理解するのには数秒、時間がかかった。


「逃げ出そうとしてんじゃないよ、ベンの分際で。さっさと仕事しないと、今日の飯は抜きにするよ!」

「ベン……?俺はベンでは────」

「口答えするなっていつも言ってるだろ!いいから早く行くんだよ!」


首を掴まれた猫のような情けない姿勢のまま、激怒する女の話を聞き流す。

この女はどうやらベンとか言う人間と自分を間違えているようだ。捕虜と間違えるなんて神経を疑ってしまうが、見たところ嘘を言っている気配は感じられない。悪魔の様に顔を歪ませながら怒る女からは、悪意と嘲笑の感情しか読み取れなかった。


圧倒的に情報が足りない今、優先すべき事を脳内で順序づけようと瞼を抑える。

確かに見知らぬ土地や今の状況もあり、自分も少なからず混乱をしているのだろう。だがこの時こそ、最善最速最高の行動を取らなくては。


瞼を手で抑えたまま、思考に全神経を捧ぐ。

あたりの雑音はいつのまにか聞こえなくなった。だが自らの呼吸音と鼓動が反比例するように、大きくなったような錯覚を覚える。周りの景色もスローモーションのように緩やかに動いており、自分が熟考出来ているのだと再認識した。


よし、ひとまず集中は出来た。今は自分にできることを片っ端からやるほかない。

まず最優先は魔王様の安否、そしてお側にお仕えする事だ。これは魔王家執事として当たり前のこと。

それと同時進行で今の状況を整理、さらには脱出経路の確認。あぁ、魔王様の傷の回復もしなくてはならない。

なので、今自分がするべき最善の行動は……。


「返事はどうしたんだい!ちゃんと聞いているのかい、ベン!?」

「……はい、申し訳ございません。今すぐ掃除洗濯諸々を片付けてきます」

「だったら早く洗濯倉庫へ移動しな!全く……これだから落ちこぼれは困るんだよ」



この部屋から、女から逃れる事だ。



女は苛立った様に、サビだらけの鍵をこちらに投げつけると乱暴に足音を立てながら部屋を出て行った。投げつけられた鍵が壁にあたり、心寂しく床に落ちる。

自分しかいない部屋に、金属の音が大きく響いた。不安を煽る様な、無機質の音に驚いたのか窓の外に居た小鳥達は一斉に羽ばたいていく。

投げ捨てられた鍵を拾うと、男は女が歩いて行った方向とは逆方向に歩を進めた。




廊下は先ほどいた部屋と同様今にも朽ち果ててしまいそうな程、ガタが来ていた。廊下どころかこの建物自体に人の往来どころか、生き物の気配をまるで感じられない。しかも窓の建てつけも異常に悪く、少し叩けば外れてしまいそうな程、ボロボロであるのだ。


ここが牢獄、または奴隷部屋か何かだと思っていたが、その予想は大きく外れた。

だが、都合は良い。この程度の建物なら直ぐに脱出し、魔王様を探しに行けるのだから。

男はほんの少し口角をあげると、蜘蛛の巣だらけの窓を蹴破った。窓は最小限の音と共に割れ、そこには人一人通れるほどの穴が出来ていた。

男は本来窓であった穴に体を滑り込め、空中に身を投げ打つ。そして身体の空気抵抗とその落ちる勢いを活かし、建物の壁を蹴り近くの木に飛び移った。



とりあえず第一関門であった脱出は成功。次は魔王様の安否の確認だ。

男は顔を月の方角へ向け、目を閉じる。目を閉じていても微かに月光がこちらを照らしてくれているのがわかった。

口遊む程の小さな声で、男は魔術の詠唱を唱える。


『いと尊き我が(あるじ)よ、偉大なるその力、暫し借受ける……"月光の導き(ムーン・インフレ)"』


男が唱えると、男の周りの月光の光が屈折し影がグニャリと曲がり始めた。水面に石が投げ入れられたかの様に、曲がり続ける男の影は歪み続ける。

影はいつしか、男の本来の人影より何倍も巨大化し辺りの草木を取り込み成長していった。


しかし、それはとある人の声によって終わりを迎える。


「おい。そこに、誰かいるのか」





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