表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バットエンドを目指して  作者: みみ
1/3

プロローグ 『約束の炎』



燃え盛る炎は、まるで生き物の舌のように手当たり次第、全てを燃やし尽くしている。

辺り一面、焼け落ちるまでそう時間はかからないであろう。

その獄炎の中に、二つ程の人影が今にも消えてしまいそうな不安定さを残し、揺れていた。


一つの大きな影は身動き一つせず横たわっている。そしてもう一つのそれよりも少し細い影は、恭しく血だらけのもう一つの影を守るように座していた。




───魔王様が倒された。


腕の中で冷たくなっていく魔王様を、私は何も出来ずにただ眺めていた。

出血は留まることを知らず、腕をすり抜け床にシミを滲ませる。

貴方の最後の大勝負の為に、床掃除を欠かさなかったというのに。今の貴方には愚痴の一つも言えないではないか。


貴方の為に整えた銀白の御髪は、こんなにも乱れ、汚れている。

貴方の為に新調した服は、もう跡形もなくボロボロで修復は不可能だ。

貴方の為に用意した食事は、もう炎に焼かれケシカス同然になってしまった。


「……早く、早く起きてください。今ならまだ怒りませんよ、魔王様───いえ、ルノワール」


もうお互いの立場上何百年も呼んでいない、呼んではいけない名を、小さく密かに男は呼んだ。しかし祈りにも、哀願にも満たない小さな希望が叶うことはなかった。


口の中には鉄を思わせる独特の血の味が混ざり、少しむせ返る。

この名を呼んだのは一体、いつ振りだろうか。未だ主従関係では無く、無礼にも友として接していた時であったか。

しかしこの声は、もう本人に聞こえることはないのだろう。


炎は二人を囲むべく盛炎と姿を変え、二人を包み込んだ。打ち払おうにも魔力は枯渇状態、着ていた装備も全て朽ち果ててしまった。

さらに腹中には、風穴が大きく空いてしまっている。助かる筈もない。


「ルノワール、大丈夫ですよ。第98代魔王補佐役の名にかけて、最後までお供致します」


物の輪郭がボヤけてきた視界は、もう自分の死期が近いことを悟っていた。

役に立たなくなった瞳を閉じ、情報と感情が交差混濁する脳内へ意識を向ける。


怒り、悲しみ、虚無、悟り。全てが津波のように、たった一つしか思考できない脳へ襲いかかってくる。


なぜこんな目に、貴方が合わなければいけない。

なぜ勇者(馬鹿)共に、貴方が負けなければならない。

なぜ、貴方が幸せになる世界(バットエンド)が来ない。

なぜ、勇者共しか幸せになれない世界(ハッピーエンド)しか来ないのだ。


─────冗談じゃない!



理不尽、不条理、不公平などでは表せない程の、言い表し難い、暗く醜い感情。

それは、特定の誰かに向けての感情ではない。言うなれば世界に、運命に、存在するかも解らない神なる存在に向けての殺意であった。



男は最後の力を振り絞り、魔王の手を握る。

もう温もりなど感じられなくなり、ダラリと力の抜けた冷たい手。大好きだった、愛していた掌だ。


血の気の失った手の甲に唇を押し当て、男はニコリと微笑んだ。


「ルノワール、どうか見ていてください。私は世界を……いいえ貴方を、必ず───





貴方が幸せになる世界(バットエンド)へ連れて行きます」



そこで意識はプツリと切れた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ