本邸の代理人
出発して3日目の夜、ようやく森を抜けた。
「もうすぐ第一目的地である本邸に到着いたします。」
「もう夜だよ?こんな遅くに訪ねてさ、リューイ君に迷惑かかっちゃうんじゃない?」
ドライとユーリはヨハネのその言葉に呆れ、大きなため息を吐いた。なんたって、彼の芋騒動が原因で予定が狂ったのだ。どの口が言っているんだと思いながらも、もう怒りを通り越して、もはや何も言えなかった。
「あ、でも、これ以上遅れたら、リューイ君心配しちゃうか。」
リューイというのは、レイン領の領主であるユーリに代わり、本邸で仕事をしてくれている青年だ。彼はレイン領の隣に位置するシュミット領を治める領主の三男坊であるのだが、小遣い稼ぎで領主代理を任されてしまっている。
何故、別の領の子がバイトにきているかといえば、色々理由はある。まず、レイン領は領民らしい領民がいない。隣国と接した『死の森』に面しており、また、その影響か高ランクの魔物が彷徨い、そして、会えば呪い殺されると噂される死神辺境伯の土地である。常に危険と隣り合わせでしかない。人が寄り付かないのである。しかし、全く人が来ないわけではない。亡命を企む犯罪者や興味本位でなんの準備もしないでくる頭の残念のやつなどが時折訪れる。招かれざるお客様は、最悪、森に入ってくるようであれば、それは全てユーリ達が対応するのだが、たまに、ちゃんとした目的で訪れる正式なお客様もいるわけで、そんな人々の対応を誰かがしなくてはならなかった。本来いなくてはならないユーリは本邸にいることを拒み森に籠るし、ヨハネはユーリの保護者だからと一緒に森に行ってしまったのだが、だからと言って、誰か別の領主を新しく指名することを国王はしなかった。そこで、そこそこ魔力が扱え、ユーリに対して怖じけることなく接するリューイが抜擢された。幸い、リューイ自身、この土地で過ごすのは都合が良かった。
「また、大きな穴ぼこが増えてますね。」
「リューイがまた道具の試運転したんだろ。」
彼は趣味で日用魔道具の開発をしていた。しかし、これがうまくいっている試しがない。大体爆破させている。というか、もはや爆弾を開発しているのではないかとユーリは思っていた。
「あ、屋敷が見えてきたぞ。」
本邸も森の別邸と同じ、真っ黒な屋敷であった。夜の闇にすら溶け込みきれないくらいの深く深く真っ黒な屋敷。そんな屋敷の門の前に二人の人影があった。
「レイン辺境伯様がお見えになられたようですので、私はお暇させていただきます。」
門の前で大きな荷物を背負っている老婆はそう言うと黒い骨馬を召喚した。
「シシリーさん、夜遅いから気をつけてくださいね。」
「私みたいな婆さん、誰も襲ってや来ないと思いますがね。リューイ坊っちゃまも久々の再会、楽しんでくださいませ。」
そして、老婆は骨馬に跨ると、颯爽と大きな街道へと向かって走っていった。ドライは老婆の姿が見えなくなるのを確認すると、屋敷の前に車を停めた。
「相変わらず、挨拶はしてくれないだよねぇ、あのおばあさん。」
「別に俺につかえてるわけじゃないし、俺がここにくるタイミングで里帰りする約束だしな。あんな優れた死霊使いはシュミット家の伝手使わないと呼べないし。」
ゾンビやゴーストなど死霊系の魔物が多く出るため、死霊使いの使用人はこの呪われた土地にはぴったりの人材だった。ただ、ユーリとは相性が合わないようだが。
「シシリーさん、悪い人ではないんだけどね、どうしてもユーリと顔合わせたがらないからね。あ!そうそう、おかえりなさいませ!ユーリ、ヨハネさん、ドライさん。」
眼鏡をかけた線の細いその青年は笑顔で車のドアを開け、ユーリ達を迎えた。
「ただいま、リューイ。」