[閑話]愚かな一族 その2
「あいつらはレイン領に侵入しようとして呪われたらしい。シュミットの人間が呪いを解こうと手を尽くしたらしいが、ダメだったそうだ。」
あたしのデイビットに限ってそんなこと、絶対ありえない。あたしと違って、あの優秀な息子が呪われるなんて絶対にない。
そう自分に言い聞かせながらも、あたしの手は震えていた。いつも冷めた表情であたしを見るアイツも余裕の無い感じで、それが嘘ではないのだと察してしまった。
あたしはレイブン侯爵家、十五人姉弟の末娘として生まれた。頭もよくない、武術も出来ない、顔もそこそこ、それどころか父が苦手としていた祖母に似ているという理由で他の姉妹達より扱いが悪かった。そして、父親はあたしを早々にレイブン家から追い出した。正確には金の力を使って、カルーロイという貧乏貴族の幼子に嫁がされた形だ。あの男が金をかけてまで祖母にそっくりなあたしの顔を見たくなかったと知った瞬間、レイブン家にどうにか嫌がらせが出来ないかと模索した。まずはカルーロイの領主夫婦にレイブン家から金をたかれるだけたかれと言った。向こうが怪訝そうな顔をしたら娘を返すと言えばいいと教えた。最初の頃は上手くいき、カルーロイの赤字もなくなるまでに至った。しかし、回数を重ねるごとに向こうも何かを察したのか、気付けば彼らは事故という体で殺されてしまった。その上、これ以上余計なことはさせまいという警告か、幼い当主に代わり、レイブン家からカルーロイ領の統治を対応するという代官の名目で監視が派遣されてきてしまった。こうして、あたしの悠々自適なカルーロイでの生活は一度幕を閉じた。
しかし、転機は突然訪れた。あたしが一人目の子を妊娠した時期に、父が倒れ、当主が兄へと代替わりしたレイブン家は当時男児が全く生まれなかったことに焦ったのか、異国の蛮族の子を誘拐し、その子をレイブン家の子として育てようと企てたらしい。だが、その子供により領地は黒い魔力に覆われ、一族は呪われ死んだ。青天の霹靂だった。あたしを無視して、いい思いばかりをしていた他の家に嫁いでいっていた姉妹達も突然ミイラ化して死んだらしい。あたしだけが生き残った。あたしをのけ者にしていたレイブン家は勝手に滅んでいった。あたしの時代がやっと来たと思った。
だけど、夫は化物の子の呪いにビビッたのか勝手に王に交渉し、元レイブン領に一切関わらないことを約束してしまった。この男は安泰を求めるが故に、欲が無さ過ぎる。そのおかげなのか、あたしがどんなに贅を尽くしていても文句を言ってこないのは大変助かっているのだけれども。
そして、あっという間に一人目の出産日、思ったより体調もよく、苦労しないで済むと思っていた。けれども、生まれた子を見て絶望した。初めての子は真っ黒なミイラの姿だった。幸か不幸か息をしておらず、死産という形で処理された。あたしは化物の子の呪いをかからなかったわけではない。おなかにいた子供があたしの代わりに呪われてしまったのだ。力を持たないあたしはもうカルーロイの人間として生きていこう。そう思うことにした。
二回目の転機は、何の問題も無く生まれ育った愛息子の突然の一言だった。
「母様、俺は天才なんだ。俺なら母様のレイブン領の、あの禍々しい黒い魔力を吹き飛ばせるかもしれない!」




