[閑話]シュミット冒険者ギルド受付嬢のとある一日 その1
「ねぇ、リオちゃん、どぉしても駄目かなぁ?」
「駄目です。以前もお断りさせていただいております。もう二度と誘わないでください。」
「そんなぁ、一回だけご飯に行こうって言ってるだけじゃん。」
私はジト目で薄汚い冒険者を睨みつける。すると、ヒッと小さく悲鳴を上げてそそくさとその場から逃げていった。冒険者ギルドの受付嬢はよくこういうのに絡まれることが多い。大して強くもないのに女の前でかっこつけたがるダサいヤツに。
《グワァ?》
「大丈夫よ、メープル。」
ゾンビベアーのメープルが冒険者を追いかけてシメとくかきいてきたが断った。実は先ほど逃げた冒険者は私が使役しているこの2m超のメープルにビビったのだ。
「こんなにメープルくん可愛いのに悲鳴あげて逃げ出すなんて、酷い男よねぇ。」
《グワァヴゥゥゥ》
「え?可愛いは違うと思うって?そんな謙遜しないでよぉ、もぅ!」
この領地の7割の人間は、アンデット系統の魔物を使役できる死霊使いだ。ほぼ、この周辺でしかこの力を使用しているものはいない。他の領地では不気味な何かと扱われているからだ。個人的には死んだ者と会話し力を借りる死霊魔法や、そこらへんにいる魔獣を使役するテイマー魔法なんかとそんな変わらないと思うのだが、どうやらここと王族以外の考え方が古いのか、一般的に特殊魔法、遺伝魔法として認められてない。ただ、王族から認められているので、私達のような死霊使いはシュミット領という楽園で生活が出来ている。
「そういえば、こないだ来たカルーロイの馬鹿息子はどうなったのかしら?領主様の命令でレイン領へ普通に行かせちゃったけど。」
―――『死神』が守る辺境へは王族かシュミット領主の許可を得た強者しか行くことは出来ない。
それはこの領にいる者であれば当然知っていることで、普通の人間がレイン領へ行くのは自殺行為と見なされる。そもそも行こうと思ってもレイン領へと続く門には門番が常駐しており、固く守られている。
「あの人たち、そんな強くなさそうだったんだよなぁ。」
レイン領では、ある事件がおこるまで人間だったモノたちが生前と同じような『暮らし』をしている。彼らはかつてそこの領を治めていた一族の過ちにより呪われ、今も自分たちが死んだことに気付かず、そこにとらわれ続けている。そんな彼らを無理矢理浄化しようとした冒険者や聖職者がいたが、みな動かぬ骨となって帰ってきた。
たまにここに来る『死神辺境伯のお世話係』と自称するヨハネという男いわく、あの土地に根付いた呪われた魔力に対して強い耐性がない限り強いとされている実力者でもすぐ呪われてしまうそうで、『彼ら』の仲間入りか、残された自我とプライドによって自決を選ぶそうだ。
《グゥゥガゥ》
「まぁ、もしものときはリューイが何とかするよね!」
リューイはこのシュミット領の領主の息子で、私とは学友という関係性だ。変わり者と言われている彼だが、怒らせたり研究の邪魔さえしなければ、比較的温厚で人付き合いのいい、優しい青年である。そんな彼は呪いへの耐性があったため、今レイン領の領主代理をしている。
「あ、でも、社交シーズンが終わってるからそろそろこっちに戻ってくる時期か。」
《ガゥガウ》
その地を呪いで染めた張本人であるユーリ・レインは現在レイン領内にある死の森に引きこもって辺境伯として生きている。彼が処刑されず、また辺境伯という地位にいるのには色々と理由がある。
当時、彼は誘拐された他国の王族の血をひく赤ん坊だった。当時男児に恵まれず、その上、何度目かの流産をしてしまったレイブン辺境伯夫人は捨てられてしまうのではという焦りと不安で、自分と似た髪色の男の赤ん坊を誘拐するように下の者達に指示し、偶然近くの地で出産されたユーリが標的となり、誘拐されてしまった。その後、レイブン伯はすぐに瞳の色で自分の子ではないことに気付き、怒りでまだ首も座っていない赤ん坊だったユーリを殺そうとした。
しかし、彼は強すぎる魔力を暴走させ、彼ら共々その地をまるごと呪いで覆ったそうだ。
現シュミット領主と前王の『切り札』の手によってユーリの魔力の暴走を止めることを成功させ、某国の代表も交えて話し合いの結果あの地に閉じ込めることとなった。
ここまで詳細を知るのは王家の人間、レイン領と直に隣接しているシュミット領の人達、そして、某国のお偉いさんしか知らない話だ。ユーリという劇物と付き合っていく上で必要なことだと、領主から私たちのような領民にも共有してくれた。だからこそ、この領の人間はレイン領のことには下手に触れてはいけないと知っている。
「あれー?リオ、また受付嬢なんてしてるの?」
ハッと気付けば、目の前にリューイがいた。
「わっわっわっ!!え?ホンモノ?」
「あはは!相変わらず面白いこというな!あ、そうそう、こっち来る途中で襲撃にあっちゃったから報告しに来た。あ、時間は気にしなくていいよ。今年もこっちでゆっくりするつもりだから。」




