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落ちる幽幻姫

 ルナは、ユーリから溢れ出る黒い魔力が恐ろしくないわけではなかった。ただ、自分には光魔法があり、自分以上の闇魔法の使い手がいたとしてもなんとか対処できると思っていた。


「ユーリちゃん、俺の許可以上の魔力解放はダメだって約束してたじゃーん。ってか、そんな濃い魔力出しちゃ『幽幻姫』が廃人になっちゃうよぉ。」


 急に第三者の声が聞こえたかと思うとルナとユーリの間に、先程マリーを何処かへ連れて行ったはずの胡散臭い男、ヨハネがいた。


「生きてりゃ問題ねぇだろ。」

「いやいやいやいや、ユーリどうした?何言われたの?めっちゃ不機嫌じゃん。」

 

 ユーリは舌打ちしながらも、外した手袋をしなおした。


「『幽幻姫』ちゃんも自分の力を過信してるのかもしれないけど、そんなんじゃ簡単に死んじゃうよ?」

「僕は今まで自分を偽り続けて、ここまで生き延びてきた!」

 

 さらっと『死』を口にするヨハネにルナはすぐ反論した。そうだ、母親であるアルクス・シュテルンが殺され、すぐに自殺を偽装し、乗っ取られたシュテルンの屋敷で使用人として10年近く生き延びてきた実績があった。念のためと『幽幻姫』の自殺の再調査予定書なんて見つけなければ、もう少しあそこにいて復讐をするつもりだったのに…。


「だから、それが過信してるって言ってるんだよぉ。今どんな状況か理解してる?すでに本物の『幽幻姫』ちゃんが君だという事を俺たちは知ってしまっているんだよ。王家と繋がりのある2人が知っちゃってるんだよ?君の計画上、やばいんじゃない?言っておくけど、俺は君を帝都へ連れていく気満々なんだよね。」


 そうヨハネが言い切った瞬間、ルナは突然睡魔に襲われた。今、眠ってはならない。頭では理解しているのに身体に力が入らない。抗う意志はむなしく、彼女は眠りに落ちてしまった。






「と、眠らせるのが一番でしょ!」


 ヨハネがニッコニコでユーリにそう言った。


「いや、俺は意識を奪うのは出来るが、眠らせるのは無理だ。」

「意識奪うのも眠らせるのも似たようなもんでしょ。もう、ユーリちゃんってば、意識奪うどころか命奪おうとしてたじゃん。君の手で直接殺すのは俺だけにしてほしい。その魔力だって濃度を上げるように依頼しているのは俺なのだから、俺のためだけに力を使って欲しい。」


 ヨハネの言葉にユーリは不機嫌そうに顔を歪めたが、ただそれだけで何をいうこともなく、ドサっと近くにあったソファーに腰を下ろした。


「そういや、男爵は?」

「マリー嬢と旅商人御一行を合流させて、ワゲン行かせるよう説得中だよぉ。いくら、旅になれてるとは言え、今のトグラに行かせるのは、ねぇ?」

「まぁ、今回の報告でトグラはきっと地図から消える可能性があるからな。っで、お前だけ戻ってきたのか。」

「お前だなんて…。パパって呼んでもいいんだぞ、ユーリちゃん。」


ユーリはそんなヨハネを無視し、眠っているルナをジッと見つめていた。


「もう…。じゃあ、もうこの娘連れてさっさと帝都行っちゃう?」

「あぁ、その方が面倒がなさそうだ。これ以上男爵に付き合うのも癪だしな。」


 そうユーリは言うと真っ黒な魔法陣を展開させた。


「いっつも思うんだけどさ、その空間魔法陣でレイン領から一気に帝都に行くのが一番楽じゃないかなぁって。俺、ほら、乗り物酔いひどいし。」

「毎回言ってるが、リューイに会わなきゃならないし、一応、シュミット領にも寄らないとだからな。それにこれ、名目上では王族の秘術だろ?リューイを万が一、いや、億が一に帝都に連れて行く際、これは使えないからな。無駄話はこんくらいにして、それ持って魔法陣の中入って。」

「それって、一応なりはこうでも、いいとこのお嬢さんなんだけどなぁ。」


 そうぼやきつつもヨハネはルナを肩に担ぎ、魔法陣の中へと入った。


「お嬢さんと言いながら担ぐのもどうかと思うが?まぁ、いいや。」


 ユーリもソファーから立ち上がり魔法陣の中に入ると、黒く強い光を放ち、三人を包み込んだ。光が止むと、そこには三人の姿はなく、誰もいなくなっていた。




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