死神辺境伯の推理
崩れ倒れた銀色の短髪の女の子を目の前にユーリは胸をなでおろした。
何故、ユーリが安心したかというと、あいまいな推理で行動を起こしてしまったことに起因する。そもそも、この世界はユーリに対して少し辛辣だ。まず、出生からハードモードであった。
まぁ、その件は後々に、今回に関しては、エドセル・シュミット男爵が『幽幻姫』も帝都に連れてけと言い出したことで、彼が何かを企んでいるではないかとユーリは察した。このエドセルという男は何かと人を試してくる。例え息子だろうが王族だろうが関係なしに自分にとって有益な存在かどうか何度も確認してくるめちゃくちゃ厄介な存在だ。胃が弱いくせに色々仕掛けてくる。カールロイ子爵の嫡男の件だって、わざと彼らを見逃しリューイのことを試していた。そして、ユーリとヨハネに与えられた課題は恐らく『見極める』こと。
『幽幻姫』なんて一般的には随分昔に噂されただけの不明瞭な存在だ。本当に魔法に長けていた存在だったのかも母親によって万能にされていたのかも自死だか自殺だかしたのかも分からない、いや、ルナ・シュテルン嬢という人間の存在すらいたのかどうか怪しい次元の話になる。ただし、ここいら周辺ではという話だ。実際、ユーリは帝都でアルクス・シュテルン夫人が美しい銀髪の幼女を連れているところに遭遇したことがあった。そのときの幼女が今ここにいる少女なんだろうが。
本筋に戻ると、普通だったらそんな不明瞭な存在をユーリたちと一緒に帝都へというのがおかしい。確認のため、ユーリが噂の話をしたら、エドセルは『幽幻姫』の存在を死霊魔法を用いて明確化したように見せかけてきた。だが、実際はゴルト・シュテルン辺境伯の死ぐらいしか情報としては出ておらず、実際にシュミット領に来ているのが本物のルナ・シュテルン嬢という証拠は何一つ出ていなかった。おそらく、エドセルは死霊魔法を用いた際、シュテルン辺境伯に娘がこの領に来ているかどうかそういう大事なことは訊いているのだろうが、そんなヒント、ユーリたちに教えるわけが無く、わざと情報を出さなかったのだと思う。ただ、本物かどうか調べるには他にも方法がある。ユーリたちにとって、一番面倒ごとが起こらない方法でいけば帝都の大教会で鑑定の宝玉で調べるのがいいのだが、万が一、その女がホフラ連邦国の間者や反逆者だった場合、またそれはそれで厄介なことに巻き込まれそうになるため、『見極め』が大事だった。
ユーリは、とりあえずここに来ているルナ・シュテルン嬢らしき女性、小姓といっている子供、そして、旅商人の見た目に関して情報を提示するようエドセルに求めた。すると、小姓に関する情報だけ曖昧なものだった。他の者に関しては髪色がどうだったとか自分にあったときの相手の印象だったりとか細かく説明できるのに対し、その子供の話をするとなると急に言葉が出なくなる。しかも、それがどうやら意図的にではないらしく、エドセル自身首をかしげていた。
そこでユーリは気付いた、その小姓が認識阻害の魔法を用いていることに。そして、その子供こそ本物のルナ・シュテルン嬢ではないのかと考えた。そもそも『幽幻姫』を騙っていたマリー・メンガー嬢はブロンズの髪に青い瞳だった。これはメンガー家の血縁の者によく見られる特徴であり、ゴルト・シュテルン辺境伯も同じくそうであり、また死霊魔法を用いて『幽幻姫』の存在について確認していたエドセルはマリー嬢の嘘を疑わなかったのだろう。ユーリも昔、帝都でアルクス・シュテルン夫人と幼子に遭遇したことが無ければきっと知らずに彼女の嘘を信じていたと思う。過去にヨハネからシュテルンの一族の遺伝の話をきいたこともあった。シュテルンの一族の長子は決まって赤い瞳の女の子が生まれる。その赤い瞳がシュテルンの名を引き継ぐ後継者、当主と決まっているらしい。蛇足的な話になるが、実はシュミットはシュテルンの名を引き継げなかった男が独立して出来た一族だそうだ。だからこそ、シュテルンの遺伝魔法に似たものが使うことが出来るようだが。
さて、エドセルの話を聞いただけでヨハネもある程度『幽幻姫』の正体に対して目処がたったらしく離れの屋敷へ行きたいと言い出した。ユーリはまだ核心が持てず、もう少し様子がみたいと、姿を見せないで彼女達を観察することをヨハネとエドセルに告げ、自分はいないものとして扱うよう頼んだ。
そして、実行された『幽幻姫』との面会。まず驚いたのは見事なまでに離れの屋敷には偽装魔法も認識阻害の魔法がかけられてた。普通、これだけの魔法を広域でかけていれば、ある程度のムラが出てしまうものだが、そんなことはなく高度な魔法技術を持った者が使用したのが理解できた。通常の訓練では身に付けられないであろうこの技術はどうやって手にしたのだろうか。ユーリは魔力が溢れてしまうくらい多くもってはいるので、魔力を大量に消費することで魔法を強引に使うことが出来ているが、二つの魔法を同時に広範囲で使用するなんざ王宮魔術師でも片手で数えるくらいしかいない。ましてや、偽装魔法も認識阻害の魔法を使用するには特殊魔法である闇魔法の特性を持っていなければ出来ない。ユーリは少しずつではあったが『幽幻姫』の存在、魔法特性の多さ、技術に関して本物なのではないかと思うようになっていた。
屋敷に入る直前、ユーリは恐らく『幽幻姫』が仕掛けただろう偽装魔法と認識阻害がだんだん壊れるように細工をした。細工といっても自分の魔力をぶつけただけであるが。それを見たヨハネはわざと騒がしく演じ、こちらの魔法の綻びに気付かないよう対応してくれた。長いこと一緒にいることだけはある。普段もそうやって察して行動してほしいが、ヨハネにそこまで期待してはいけない。
「貴様みたいなガキが、『死神辺境伯』な訳ないだろう!!」
思考をめぐらせていたユーリを床にへばり付いたままのルナ嬢が現在へと引き戻した。
「自分だけが偽装魔法を使えると思うな、世間知らずが。」
「偽装?本当に貴方がユーリ・レイン辺境伯だとして、今確か、40くらいのおっさんだったと思うんだけど…。そんないい歳したおっさんが女の子みたいな見た目の男の子の姿になるとか性癖やばいわ。ドン引きだわ。」
「おめぇなぁ、俺はまだ30だし、この姿は自分が12歳だった時の姿だ!!自分の幼かった頃の姿に擬態して何が悪い!!」
「天使みたいな見た目でそんな声で喋るな、気持ち悪い。」
「おい、今、どういう状況か理解してねぇみてぇだな。」
そういうとユーリは手袋を外した。手からブワッと黒い魔素が溢れ出てきた。
「辺境の姫様でも流石に知ってるだろう?俺の魔素は生命を脅かすほどヤベェもんってことをよぉ?」




