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◎お気楽お嬢と僕

 ここに滞在してどのくらい経つだろうか。窓の外をみると薄暗く重たい灰色。そんな暗い天気にもかかわらずお嬢は優雅にお茶を飲んでいたが、僕は気が気じゃなかった。

 

 随分昔ではあったが、交流のあった商人に助けを求めることに成功したのは良かったものの、本当なら無法地帯とも言えるレイン領を利用して国外へと逃げ出す予定だった。しかし、その直前で、まさかシュミット領で足止めされるとは思わなかった。しかも、一緒に旅した商会の旦那様達と離れ離れにされ、監視のためか領主のほうから用意された老年のメイドが一人、常に付きっ切りの状態で、この大きな屋敷に軟禁されている。


「ココ、そんなにそわそわしてたって何の解決にもならないわよ。それに、流石に追っ手の奴らだって、帝都を越えてシュミットまで来てるとは思っていないわよ。」


 確かにお嬢の言うとおり、ホフラ連邦国以外の国外へ逃げるとなった場合、海を渡ることにはなるが豊かで人も穏やかなお国柄のワゲン島や、多少魔獣はいるものの一般人でも倒せる程度のレベルしかいない丘をいくつか超えるとたどり着くピシャロ国など比較的逃げやすい国へではなく、あえて、逃走先へと考えないであろう治安の悪いトグラへ行こうとしていたのだから、恐らく追っ手はシュミットに僕達がいるとは思いもよらないだろう。しかし、だ。シュミットは死霊魔法から派生した死霊使いの一族が領主を務める地だ。もしかしたら、あの裏切り者と繋がりがあったりしたら僕達はもう終わりだ。


 裏切り者、それはヴァンシュター家の末娘、アクーラのことだ。シュテルン家の一人娘で後継者であったアルクス・シュテルンが奇病により亡くなった後、シュテルン家の当主となったものの悲しみに打ちひしがれていたゴルト・シュテルンにメイドの身でありながら寄り添い、見事、後妻の座を得た。あの女は毒のような色香でゴルトを壊し、そして、シュテルン領を掌握した。

 そんな女の実家はホフラ連邦国と繋がっていた。ホフラ連邦国は表面的には友好国として帝国と交流をしているが、裏では静かに帝国が滅ぼそうと企んでいたようだった。アルクス様がなくなったのは未知なる奇病ではなく、ホフラの毒花が原因だったのではないのかということが最近分かった。思い出してみれば、あの女がメイドとしてシュテルン家に雇われてから、アルクス様の顔色が悪いこと度々見られていたような気がする。

 

 僕がもっと早く気付けていれば・・・。彼女は芯の強い方だった。身体の調子が悪かろうが、無理をしてでも笑顔でいるような人だったじゃないか。


 次狙われるとしたら、力を失ったと言われていてもシュテルンの血をひく・・・。


「ココ、あなた、顔色悪いわよ。私の横に座りなさい。」

「そんなこと、出来ません。」


 すると、お嬢の青い瞳が潤んだ。


「私はあなたみたいに頭よくないから、難しいこと考えられないから、力になれていないと思うわ。」

「そんなことはないです。こうやって、一緒にいてくれるだけで僕は!!」

「だったら、お願い、少しでも休んでほしいの。きっと大丈夫よ。私がいうのよ、大丈夫。」


 すると、いつの間にか屋敷から離れていた老年のメイドが戻ってきていた。


「今、大丈夫でしょうか?領主様が、紹介したい人物がいるとのことでこれからこちらの屋敷にいらっしゃいます。」


 僕はメイドの言葉に警戒しつつ、お嬢にアイコンタクトを送った。

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