馬車の外
リューイは馬車から出た瞬間に頭を抱えた。黒い霧の人影の前で下半身をびしょびしょにして真っ白になったカルーロイ子爵の嫡男のデイビット、ユーリの圧に耐えられず気絶し倒れている冒険者達の道、そんな光景を憐れむように立ち尽くす愛馬…。
「なんかごめんねぇ、こんなことになって。」
頭の無い首をフルフルと振り、バシバシと尻尾を叩いた。愛馬は最早こんな状況でも気にしになくなったようだ。リューイ自身はまだ耐性がついていないのに。
「俺にも気を使ってほしいのだが?」
分身体を通してユーリが話しかけてきた。
「いや、こうなったのは辺境伯様のせいでしょう?」
「そんなことは無い。こいつらが俺が誰だかも分からずに攻撃してきたのがいけない。相手の力量もはかれず、むやみやたらに攻撃をするなんて、このお漏らし野郎の護衛だかなんだか知らねーが、馬鹿にもほどがある。」
こんな真っ黒な謎の人型のものを見て、誰があの『死神』の分身体だと思うだろうか。リューイは少しだけ冒険者達を憐れに思った。
ふと気がつくと、帝都の方から立派な馬車が近づいてくるのが見えた。
「やっと来たか。リューイ、あれはおそらくフレッド・カーチスという狐野郎だ。どんな手を使っても良い。ここから先、レイン領に近づかせないように仕向けろ。俺は一度、術を解く。」
そう言うと黒い霧は飛散し、リューイをその場に置いて元の身体のほうへに戻ってしまった。
「フレッド・カーチスか…。確かグーテ兄さんの話に出てきたことがあった気がするなぁ。」
グーテとはリューイの年が4つ上の血の繋がった兄だ。何年か彼もレイン領の領主代理として働いていた時期があるが、今はシュミットの領主の跡を継ぐため、引継ぎとして現領主である父の元、勉強しつつ働いている。
そんな兄が学生時代、敵にしないよう要注意人物として警戒していた中にフレッド・カーチスの名前があったような気がした。なんで警戒しなければならなかったのか。そのことについて訊いたことは無かったが、先ほどのユーリの『狐野郎』という言い方からして厄介な相手のようだ。
リューイは気を引き締めると近くまで来た馬車が止まるのを待った。




