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馬車の中

「さて、君の迎えが来たようだが、どうやら俺に刃を向けようとしているようだ。何が言いたいか分かるか?」


 馬車の中、真っ黒な霧状の魔力を纏いながら静かにそう告げるユーリを目の前に、リューイは天を仰いでいた。どうしてこうなった、と。

リューイの父親であるエドセル・シュミットから、ユーリを刺激せず、機嫌を損ねないようにシュミット領まで連れてくるように言われていた。そのため、事前に周辺の領の動きを調べ、また、使用予定の公道付近の村や町のトップには、この期間、シュミット領の馬車を見かけた際は何人たりとも近づかせないよう警告をしていたはずだった。それなのに、何故、よりによって普段気味が悪いからと距離を取られていたカルーロイの人間が絡んできたのか。そもそも、この時期帝都の方面から来たということはカルーロイ領への帰路のはずだが、この先にはカルーロイ領の方まで行く整備された道はない。通常であれば、シュミット領の手前にある峠を利用しているはずだが。


「リューイ、何か分かった?」


 先ほどまでユーリの横に座っていたはずのヨハネがリューイの横にいた。


「いや、本来、こんなところでカルーロイ子爵の方と遭遇するはずがないと思いまして。」

「あ、やっぱり、リューイもそう思ってた?カルーロイの人間はシュミットをかなり下に見てて、近くを通ると死臭が移るとか言って近づきもしなかった奴らだからね。この俺ですら覚えていたよ。っでどうする?このままだとユーリ、あの分身体であいつら殺しかねないけど。」

「あぁ・・・、そうだった。」


 今、馬車の外にいてカルーロイの人間と話している黒い人型はユーリの分身体である。しかし、霧状の魔力の集合体とはいえ、死神辺境伯のものだ。強力かつ、殺傷能力が高い。そして、ユーリが遠隔操作している時点で、向こうに勝ち目はない。


「ユーリ、ちょっとこの件、何者かに仕込まれた可能性があるから、手加減して情報を引き出して!このままアイツらボコボコにしたところで何も分からないままになっちゃうから!!」


 リューイは黒い霧の中にいるユーリに向かって叫んだ。すると、翡翠の瞳がこちらを睨みつけた。


「どうやら、既に手加減してるみたいだね。」


 ヨハネは静かにユーリの横に座り直し、感情の昂りにより出し過ぎた彼の黒い魔力を回収しはじめた。ユーリの魔力は触れただけでも生命を脅かす力を持っている。リューイも多少の耐性はあるが、ヨハネは耐性という次元ではなく、むしろ無力化していた。全然性格の合わなそうな彼らが一緒に生活しているのもこの体質がキッカケなのだろう。


 リューイがそう考えていると、ユーリと目が合った。そして、その瞳は一瞬、扉のほうを見て、何か訴えかけた。


「もしかして、一回僕に外に出ろって言ってる?」


 その宝石のような瞳は瞬きもせず、じっとリューイを見つめ続けた。


「了解です、『レイン辺境伯様』。」


 リューイは無言の指示を受け、カルーロイの人間に接触するため、馬車の外へと出た。

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