友達
かつて占いが流行した時、人々はこぞって占い師のもとへと足を運んだ。友人から親から果ては恋人とのそれを占っては一喜一憂した。中には占いの結果によって結婚相手を決めた人間もいた。
占いには古い歴史がある。それこそ千年以上の重みを持ったものだ。あながち占いは宛にならないとは言い切れない部分もあった。
だが占いのブームは十年と持たず、現在占い師という職業に就くものはごくわずかとなった。そして占いに取って変わるものが日本に誕生した。
人工知能による相性確率診断だ。これの原理は複雑なもので、国が管理している個々人の家族歴や人生、そして昔の占いの仕組みからその他様々な要素が組み込まれたものであった。
これにより人間関係のいざこざは大きく減ったのだった。
「お嬢さん、お嬢さん」
商店街を歩く二人の女子高生に話しかけたのは、今時珍しく占い師という職業の人間だった。
女子高生たちは訝しげに占い師の方へ目を向ける。占い師はルーペを二人にかざしてまざまざと顔を見ていた。
「あんたたち、ものすごく相性が悪いね」
「私たちが?」
「まさか、私とA子に限ってそんなはずないじゃん!」
A子ともう片方の女子高生B子はまるで信じられないと顔を見合わせて笑った。
「うちら小学校からの仲良しだしね」
「だよねー。今さらA子と私の相性とか相性確率診断をやるまでもないのに」
A子とB子は確かに仲が良かった。好きな食べ物が同じ、好きな色も同じ。好みの服も、考え方も同じだった。
「いいや、君たちは近い将来で仲違いするだろう」
「あはは。そうだね」
「ふふ。そうね」
A子もB子も占い師の言うことを真に受けることはなかった。
A子とB子は小学校から高校まで同じ学校に通っている、本当に仲のいいいわゆる親友だった。
その仲の良さゆえ、一度だけ友情が危うくなったことがあった。なにしろ好みがまったく一緒であったから、好きになった異性も同じ人間だったのだ。これをお互いに知ったときはさすがに苦笑したが、
「私とB子、どっちかに彼氏ができても私たちは友達だよ?」
「もちろん。私も同じこと考えてた」
二人はそんな誓いを交わした。
そしていざ、A子がめでたく片想いに終止符を打ったわけだが、二人の友好は終わることは無かった。それどころか、A子は笑いながら自分の恋の話をB子に話すことすらできた。逆もまた然り、だった。
そうして二人は当たり前のように同じ大学に通い、同じ会社に就職した。
とはいえ、会社では別の部署に配置されたため、一緒にいられる時間は昔より格段に減った。
それでも二人の友情は続いていた。
その日は久々に二人でショッピングに出掛けていた。そしてひょんなことから二人は人工知能の相性確率診断を受けることになった。
「そういえば昔、占い師に相性最悪って言われたよね」
「あったあった。エセだよね~!」
A子が切り出した思出話が、
「ねえ、あの占い師の言ったことが嘘だって確かめに行かない?」
「確かめるって?」
「相性確率診断!」
流れで人工知能のそれに診断してもらうことになったのだ。
人工知能の相性確率診断は、各市民センターに設置してあり、五百円ほどで利用できる。
A子とB子は意気揚々と市民センターに足を向ける。そしてなんの疑いもなくそれを受けた。
『相性確率〇パーセント。二人の相性はこの上なく最悪なり』
結果を見た二人は何も言えず呆然とするばかりだった。
そんなわけだから、帰り道は二人とも無言であった。無理もない、人工知能の相性確率診断は百パーセントの確率だと世間に認知されている。
だが二人はさすが親友といったところである、二人とも同じことを考えていたのだ。
『友達だと思っていたのは私だけ?』
その日以降、二人が会うことはなかった。