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つつじが咲く頃

作者: おこじょ

肩を二度軽く叩かれて目が覚めた。

辺りは薄暗く風は無くて少し肌寒い、建物が全て横向きになっている。

目の前に黒くて長い髪の毛が右から左へと流れている。

微かに赤ちゃんの匂いもする。

見上げると知らない女性が見下ろしている。

少し苦しそうな悲しそうな表情で自分を見ている。

膝枕をしてもらっているので苦しいのかと思い、慌てて立ち上がろうとした。

寝起きなので少しふらついた。

「急に立ち上がると危ないよ」

その声を聞きながら立ち上がり、知らない人の方へ向き直った、その人は心配顔で見上げていた。

年齢は二十代位で子供が居そうな人だけど自分以外に子供は見当たらない。

苔や雑草で覆われた大きな石ならあるけど。

大きな石で思い出した。

この大きな石は大昔に建てられたお墓で誰のお墓なのか誰も知らない。

気持ちが落ち込んほでいる時は此処で何も考えずにぼーっとしていて、寝てしまったのかもしれない。

「お姉さんはどっからきたの?」

と聞いてみた。

「散歩していたら子供が倒れていて慌てたけど寝ているだけだと判ってほおっておく訳にもいかないし起こすのも可哀相なので起きるまで待ってたの」

「それっていつの事?」

「1時頃」

「いちじって何?」

「太陽が真上に居る時」

人差し指を上に向けて教えてくれた。

上を見て太陽を探すと何処にも居ない。

太陽が居なくなるまで膝枕してくれていたのだ。

凄い迷惑をかけてしまったと思った。

お姉さんが苦しそうな表情だったが判った気がした。

悲しそうな表情はなぜ?

と思ったときに、過去の記憶が心の中から音と映像になって現れてきた。

真夜中の救急車の音、窓ガラスが真っ赤になって部屋が赤くなっている。

外で大人の男女の声と、一人だけ物凄く大きい声を出している女性の声。

何か大変な事がこの人に起こって悲しそうな表情をしているのかもしれないと思った。

「太陽が昇ってくるのか沈んで行くのかどっちなんだろう」

と聞いてみた。

お姉さんは。

「日の出と日の入りって似ているからわかりずらいよね」

「もうすぐ夜になるから家に帰った方がいいよ家族も心配するしね」

明日から毎日此処に来ればお姉さんに会えるかもしれない。

そしたら笑顔になってくれるかもしれない。

精一杯の元気な声で。

「家に帰る、僕の家はあそこだよ」

と、指差してみたけれど、お姉さんはもう自分には全く興味が無いような、始めから一人で此処にいたような感じで膝枕してくれていた姿勢のままで座っている。

もう二度と出会えない気がする。

心の中でそのように感じている。

それから一度も会ったこともない。

名前も知らない。

急に悲しくなって、逃げるように家に走って帰った。





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