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2、“黒の旅団”の愉快な先輩たち

「ひっ、お、男の子ですかあ。佐竹君、私、男の子に免疫ないって言ったじゃないですかあ」 


 眼鏡の大人しそうな先輩が隣の長身の男子生徒の後ろに隠れる。


「まあまあ、水野さんもそろそろ男子に慣れてもらわないと困るよ」


 水野と呼ばれた先輩が頬を赤らめる。いかにも文学少女といった風体だ。このクラブに不似合いな気さえする。それでも副部長の佐竹由紀夫を怖がっていないということは二人は長い付き合いなのだろうか。


「あのー、先輩方。私も入れてもらえるのでしょうか」


 童顔の朱音が恐る恐るといった感じで聞く。術者で魔法使いの卵だ。


「もっちろんさ!歓迎するよ。水野さんも可愛い後輩が増えて良かったねっ」


 性格のいいイケメンの佐竹先輩はことさら爽やかに言った。この先輩なら女子人気も高そうだ。


「よろしく。わ、私は水野葉月。この通り対人恐怖症なの。ま、まともに話せない駄目な先輩で御免なさいね」


 水野先輩が申し訳なさそうに謝って来る。


「なぜ水野先輩はそんなに人間が怖いのですか」

「ああ、そ、それはっ」


 長身の生徒が進み出る。そして、水野先輩をかばうように手で制した。


「華座屋さんやったか。そういうことはぶしつけに聞くもんやないで。葉月のトラウマ抉るんはやめてあげてや」


 怖そうな顔がふっと緩む。関西弁なまりの強いアクセントだが、言っていることは優しい。


 対して華座屋花連は黙った。財閥令嬢のためか、華座屋は歯に衣着せないところがある。それに友達もおらず、一人でいるのは孤独なのかもしれない。


「・・・・・・すいません。失礼なこと聞いて」


 意外にも、華座屋はすぐに謝った。佐竹先輩が割って入る。


「こいつは反町(そりまち)(ゆずる)、うちのクラブ自慢の戦士さ。顔は怖いけど、根は良い奴さ。揉め事には助けに呼んでくれれば駆けつける、な、反町」


 反町先輩がうなずく。


「こほん。俺たち三人を中核に部長がいるんだけど、今日は都合がつかなくてね。ざっと部員は百名を超える」

「随分大規模なクラブなんですね」

「他のS級クラブは千人は超えるよ。“黒の旅団”って言えばこの学園ではせいぜい仲良しG級クラブがいいとこ。ま、連中は雲の上ってところかな。かち合ったら、逃げるに限るね」


 そんなことは知っている。でも、(さか)しらにすれば、疑われるだろう。ここは無垢な後輩を演じておくに限る。


 佐竹先輩、反町先輩、水野先輩はいい人そうだし、しばらくはこのクラブに身を潜め、白内菜穂の行方を探すとしよう。


「さて、君たちのふさわしい装備を探すとするかい」


 軽く言うと佐竹先輩が先導して、先輩たち、俺、朱音、花蓮と続く。購買部といっても、商店街のように武器屋や防具屋、さらに魔法解説書の本屋まである。店員は高校生で制服を着ていた。


「教頭先生の話にもあったけど、あんまり年配の人はこの学園にはいないよ。先生も若いし、学生の自治が徹底してる。若い才能を伸ばすというのがこの学園の理事長の方針でさ」


 佐竹先輩はお喋りだ。延々とさっきから話し続けている。


「学園の悪徳クラブも簡単には。う・・・・・・」


 佐竹先輩の顔色が変わる。


「やばいな」


 俺たちが見るとまるで大名行列のように騎士たちが重装備で固めていた。ユニコーンに乗っている男子生徒までいる。


「脇にどこう。将軍(ジェネラル)様のお通りだ」








 それは絵画から抜けてきたような重装備の鎧の少女。彼女は胸当てなどをしっかりと身につけ、周囲を威圧するように見回す。


 美しい少女だった。(はかな)いとも形容できる黒髪の乙女は感情のない目で周りを見る。まるで人形の様なぎこちなさ。それが彼女の悲劇性を際立たせていた。


御身(おんみ)らが新入生か」


 騎士の一人がまるで路傍の石ころでも見るような素っ気ない調子で言った。


(おり)()様、見どころのある者はいらっしゃいますか」


 猫撫で声で騎士が聞くと、ふるふると首を振った。


「いない。雑魚ばっか」


 まるで口を開くのも億劫(おっくう)だと言わんばかりの率直な感想だった。新入生たちが静まりかえる。


「そうですか。では次の店に」

「お、お待ちくださいッ」


 高い声がした。入学式の時、隣にいた福田朱音。朱音は土下座すると、騎士たちも脇にどく。織江と呼ばれた少女が感情のない瞳で朱音を見た。


「私をぜひ仲間に。今はまだ勉強中の身ですが、ゆくゆくは難易度SSダンジョンのクリアを目指しています。細川(ほそかわ)(おり)()先輩のクラブ“将軍様の騎士団”に入れていただきたく」


「御身が。笑わせる。見たところ、庶民。血統定まらぬ雑種の牝犬が。我がクラブになど・・・・・・」

「いいよ」

「そう、駄目に決まって。ええっ、い、いいんですかあ!」


 男子生徒が大袈裟に驚き、キャラ設定すら忘れて、素を見せた。


「だって、女子の比率低いし、男子は私の胸ばっか見てくるし。オタサ―の姫って奴?何かクラブの威厳を保つために強キャラ感出してるけど、怖がられて周りに避けられるだけだし。最近キャラ設定に飽きて来たもん。あー鎧って本当重いよね。私おっぱいおっきいから余計肩凝()るっていうかー」


「そのお気持ち、ほんっとうに良く分かります!」


 朱音は細川先輩の手を取って、同志を見つけたようにはしゃぐ。というか、さっき黒の旅団に入るって言ってなかったか、あの女。裏切るとは、節操のない女だ。


 胸の慎ましやかな女子一部の憎しみの籠った視線を受けながら、朱音ははしゃいでいた。


 その時だった。


 斬撃が襲う。目にも止まらぬ斬撃だ。だが、訓練を積んでいれば見分けられる。


 細川先輩はまともに受けて、転倒した。


「外道が。俺の後輩に手を出すなよ。いつも通りの茶番だろ。いつもの常套(じょうとう)手段だ。これでどれだけの女生徒がお前の毒牙にかかってきたか。クラスメイトの俺をごまかせると思うなよ、細川」


 細川先輩の頭を地面に叩きつけた。佐竹先輩は冷酷な表情で続ける。


「そうやって、何人の生徒を虐待して来たんだよ。お前らは」


「あ、あの佐竹先輩?」


 朱音が思わず声をかけた。


 その瞬間、佐竹先輩の体が宙に浮く。無傷の細川先輩は顔面に傷一つ負っていない。また無表情になったが、細川先輩は佐竹先輩をまっすぐに見る。


「無力な雛鳥(ひなどり)が。死ね」


 その瞬間、佐竹先輩の右手がおかしなほうにねじ曲がった。


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