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密談

 私達の世界は救済された。


 魔王と言われた魔族の王は約一月前に勇者の聖剣と右腕を代償に倒された。


 世間にはそう伝わっている。


 ただ、真実を知っている人間は私と、ごく一部の王族だけだ。


「よお、勇者様」


「なんだ、ルシエルか。びっくりさせるなよ……で、何のようだ?」


「ああ、いろいろと見つけてきたから報告だ。それよりも、警備緩すぎないか?私のこと誰一人気づいている様子じゃなかったぞ」


 深夜に侵入したとはいえ、城の兵士は私の足音に誰一人気づく様子はなかった。 


「――ああ、みっちり教育しておくよ。まあ、座れ」


 言われた通りに近くにあった椅子に座った。


 私は王城の最上部まで侵入して、わざわざ隻腕の勇者ミカエラに会いに来た。


 私達と一緒に魔王を倒した盟友でもあり、私を闇から引きはがしてくれた張本人でもある。


 魔王との戦いの最後に、自身の右腕と聖剣を犠牲に最後の隙を作り、私はその隙に残っていた魔力をそのまま魔王にぶつけることで、ようやく魔王を倒すことができた。だが、その代償として私達のパーティはミカエラと私以外、全員死んでしまった。



「あれから43日、姫様とは仲良く言っているのか?」


「まあまあかな。けど、戦いよりかは難しいかな」


「はっは、違いねえ。勇者に恋愛は難しすぎるか。けど、凱旋パレードは姫様も楽しそうだったぞ」


 30日ほど前に、魔王を倒した勇者は世界各地を回り、英雄として名を広めた。けれど、私はそこに参加できなかった。道の傍らで走る馬車を市民と一緒に見ることしかできんかった。


 政治的理由により、ミカエラを魔王を倒した存在に仕立てあげる必要が王族の中にはあった。そのため私は参加することができなかった。ほかのメンバーが一人でも生き残っていたならば、一緒に参加するという事ができたのかもしれないが、私は唯一の生き残りであることで他のみんなに申し訳なかったのかもしれない。


「ところで、魔界のことだが……」


 魔界、魔物が住む場所。と言ってしまえば、すごく単純だが、そうではなかった。


 あえて言うならば、平行世界。世界の構造が全く同じだった。今いる城も、大海も、雪山も火山も、全てが同じ形で存在していた。違う事があるとすれば、魔物が住んでいるか、人が住んでいるかだった。


「ああ、何か分かったのか?」


「まあな、世界各地を歩いていると、いろいろ見たよ。けれど、魔界への扉は一つしか見つからなかった」


 魔王を倒した後、最初に行われたのは、弔いだった。かつての仲間の死体を回収できなかったが、それでも、あいつらが持っていた武器を一つだけ回収して、墓を建てた。その墓は王族が亡くなった時に建てられる場所にあり、彼らの石碑には「勇者ミカエラの盟友ここに眠る」と記されている。


「で、その一つはどうなってるんだ?」


「一応封印はしておいた。だからこうやって報告をしに来たんだ」


「さすが魔剣士ルシエル。俺が思ったことは何でもしてくれるな」


「……」


「なんだよ、嫌なのか魔剣士?」


「別に嫌いじゃない。けど、剣を持つたびにお前の聖剣を思い出す。ただ、それだけだ」


「はいはい、そうですか。別に右腕ぐらいどうでもいいよ。聖剣も魔王を倒したし……それに今はよっぽどいい()()を見つけたよ」


 ミカエラは左腕を私に突き出すと、笑った。


 私も右手を突き出し、軽くタッチすると、また会話を再開した。


「で、行くのか?」


「ああ、もちろん。さすがに新婚の勇者様を連れていくわけにはいかない。それに、私もあいつらの死体を回収したいんだ」


「そうか……なら言ってこい」


 正直驚いた。私達のパーティの唯一の生き残りで、近くに残ってほしいかと思ったが、そうでもないらしい。嬉しい反面、拘ってほしいという感情もあった。


「ああ、それとこっちもいい情報手に入れたぞ」


 ミカエラは何やら楽しそうに私の方を見つめると、話始めた。


「魔王についての情報がだいぶ出そろった。これも先代様のおかげだ」


 初めて聞く情報だった。そもそも、勇者に先代がいるという事が最初の驚きだった。


「で、先代様がどうなんだ?」


「なんと、魔王はほかの魔族を吸収して強くなるらしい。そして時間が経てばたつほど、その形は異形になり化け物と化すらしい。そのほかには、魔王は1000年ごとに姿を変え現れるとか……」


 千年。はっきり言って、次の世代まで私達は生きることができない。肉体は腐り始め、魂は消滅する。


「……私達が戦った魔法って比較的人間に近くなかったか?」


「そうだな。けど最後には三つの頭を持つドラゴンに変身しただろ」


「そうだな。思い出すだけで、古傷が痛むよ」


「だからこそ、ルシエル。お前には魔界の調査をしてほしい。今となっては、俺よりお前のほうが何倍も強い。世界最強のお前にしか頼めないことだが、いいか?」


「もちろん受けるよ。なんたって、勇者の右腕だからな」


「最初は軽くでいい、生態調査と迷い込んだ人間がいれば、速やかに回収してほしい。最終的な目標としては、あいつらの死体の回収、そして聖剣のありかの調査だ。単独でとても危険な任務になるがいいか?」


「任せろ、魔王討伐に比べれば、何倍もマシだ。期待して待ってろ、未来の王様!」


 私は窓から飛び出し、魔界を目指し、動き出した。



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