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8話

 翌日の夜。帰りの電車に揺られながら、今日はディランと何を話そうかと考えている。家になんて寝るために帰っているようなものだったので、こんなにワクワクするのは初めてのことかもしれない。


 今では私はすっかりディランの存在を信じている。だって、話をしていることが楽しい。


 純粋な好意を私に向けてくれているからかとても落ち着くし、私個人に興味を持ってくれるのはやっぱり嬉しい。仕事以外での異性との交流もほとんどなかったから。


 ディランのことがもっと知りたい。本当は魔術の仕組みとか今後実際に会えるのかどうかとか、聞かなきゃいけないことはいっぱいある。だけど、時間は短いし、いつもついディランのことを聞いてしまう。


 今日こそは知らなきゃいけないことを聞こうかな。まぁ、何を聞いても楽しいんだけどね──


 そう思うと、自然と口角が上がってしまうのだ。




 今日の夢は昨日までのディランの家とは打って変わって暗い場所。何事か!? と、目を瞬くと、だんだんと目が慣れてきて状況がわかってくる。


 ここは、洞窟のようだ。土の壁に覆われた空間に私はいて、僅かに灯りはあるけれど、とにかく暗い。


『ルリ!』


 私は聞き慣れた声にもビクリと身体を震わせるくらい怖がっていたらしい。目を凝らすと、ランタンのようなものを持って、この場にふさわしくないような明るい笑顔のディランがやってきた。


「びっくりしたよ。暗かったから」

『ごめんごめん。今日は魔法陣の実験をしていてさ。そのまま寝落ちしちゃったみたいだ』

「ディランが眠っている場所が映るようになってるの?」


 足を踏み出してみるとふわふわとしたいつもの感触。ここは夢だということがわかる。


『そう、今のところはね。魔法陣を改良すれば、別の景色を映すこともできると思うけど、優先度が低くてさ』


 私は洞窟の中を見渡す。閉所恐怖症の人だったら辛そうな5畳ほどの狭い空間。


「って、ディランここで眠ってるってこと!? 地面固いし、身体に悪いよ」

『大丈夫、毛布を敷いて寝てるからさ』


 そう言ってディランは隅に置いてある毛布を指し示す。


「その言い方だとここで寝るの慣れてるみたいだね……私には無理」

『暗くて居心地いいよ? それに、起きたらすぐに実験を再開できるし!』

「寝て起きてすぐ仕事なんて、何そのブラック企業!」


 ディランはきょとんとした顔をしている。本人が苦じゃないならいいのかもしれないけど……いや、やっぱり良くない。


『それじゃあ今日の質問ね! まず俺から!』


 私がお叱りモードになるのを察したのか、ディランは質問へと移る。可愛い顔して危機回避能力はあるらしい。


『ルリって身分はどのくらいなの?』

「身分?」


 また思ってもみないことを聞かれた。


「身分って王様とかそういうやつ?」

『ルリって王女なの!?』

「違うよ」


 私は笑って否定する。こんな簡素なパジャマを着ているお姫様がどこにいるものか!


「私の国にはほとんど身分ってないよ。みんな同じ」

『そうなんだ!? じゃあみんな平民っていうこと?』

「そんな感じだと思う。そう聞くってことはディランの国には身分制度があるんだね?」

『うん。まぁ俺は平民なんだけどね』


 ディランは恥ずかしそうにそう言った。別に恥ずかしがることでもないと思うんだけど、ディランの国ではそうでもないのだろうか。


『国王陛下や王子、王女を抜かすと、貴族っていう人達がいてね。貴族にも階級があるんだ』

「へぇ」


 私は詳しくないけれど昔の日本にも階位があったらしい。そういうイメージなのかな?


『じゃあルリの世界に貴族が存在しないなら、俺とルリは結婚できるね』


 ディランはさらっと笑顔でとんでもないことを言ってきた! まだ付き合ったばっかりだし、そもそもまだ私はディランを好きと言っているわけでもないし、結婚というのはまだ早い……って、私が暴走してどうする!


「じゃあ、次は私が質問する番ね」


 ここは、私の危機回避能力を発揮させてもらう! ディランは少し不満そうだけど『どうぞ』と、一応言ってくれた。


「魔術ってどうやって使うの?」

『魔術? ええっとねぇ、なんて説明したらいいのかなぁ』


 ディランは初めて答えにつまった。私だって当たり前のことを聞かれたら、どう説明したものか悩むもんな。そんな感じなのかもしれない。


『簡単な魔術だと呪文を唱えるだけで使えるんだ。体内の魔力を消費して、それを呪文に乗せて放出する感じ!』

「ほう」


 一気にファンタジー感が出てきた。私が想像する魔術っていうのはゲームとかで見る、とんがり帽子を被った女性が片手に持っている本に書かれた呪文を唱えて杖を振る! という感じだけど、似たようなものなのだろうか。ディランはとんがり帽子は被っていないし女性でもないけれど。


『難しい魔術だと魔法陣を描いて、その上で呪文を唱えるんだ。ルリの夢にお邪魔しているのも、魔法陣を使った魔術だよ』

「ふむふむ」


 聞いておいていいリアクションができない。だって、知らないことだらけだからどう返したらいいかもわからないし。


『ルリの世界には魔術がないんだよね』

「そうよ」

『ってことは、大地に魔力がないのかもなぁ。俺が行っても魔術を使えないかも……』

「え、ディラン、いつか来るつもりなの!?」


 ディランが聞き捨てならないことを言ったので、そこには瞬時に反応する。ディランは口を尖らせながら、


『当たり前だろ? だって、ルリに会いたいから』


 と、不満そうに言った。うっ、何だ、その破壊力……! ちょっと、いや、かなりドキッとした。


『必ず魔術を完成させるから、待っててね』

「うん」


 いつかディランに会える。それは、私の胸を温かくさせた。


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