27話
「ねぇ、ディラン。景子との飲みなんだけど、4日後はどう?」
『わかった、大丈夫だよ』
その日の夜。早速ディランに聞いてみたら即答でOKだった。
「仕事とか大丈夫なの?」
『へーきへーき!』
軽い。仕事のできない同僚がこの返事をしたら、絶対に信用してはならない。だけど、ディランなら大丈夫かな?
「あと、高達さんもいるみたい」
『ああ、あの前にルリと二人で飲んだ男ね。わかった』
何だか目が怪しく光った気がするけど、気のせいだよね。
「そういえばちょっと気になったんだけど、ディランって日本語喋ってるじゃない? これも魔術なの?」
『そうだよ。……って、あ』
ディランは何かに気がついたような顔をする。
『ルリがこっちに来る前にルリにこっちの言葉がわかる魔術かけておかなきゃね。すっかり忘れてたよ』
何と、私にも魔術をかけてくれるらしい。魔術がかかるなんてどんな気分なんだろうか。
「言葉が通じるようになる魔術なんて、便利だね」
『うん。こっちの世界の隣国とはやりとりする前に魔術をかけてから話すのが普通だよ。魔術なんて到底かけることのできない平民は、どっちの言葉も喋れる人もいるみたいだけどね』
「へー」
こっちにも魔術があれば、私も英語ペラペラになれたのに。そしたら海外の仕事だって受けられるかもしれない。
そうして飲み会の予定も決まった。日曜には友達の結婚式もあるし、忙しい土日になりそうだ。
前日の金曜日。久しぶりに朝、高達さんと一緒になった。高達さんが景子と付き合ってから、ちゃんと話すのは初めてだ。
「景子から聞きました。オメデトウゴザイマス」
「棒読みだよ吉岡さん」
高達さんに苦笑いされる。
「まだ俺のこと疑ってるの?」
「あまりに手が早いもので」
「それはまぁ勘弁してよ」
私だって景子が幸せならいいって思ってる。だけど、高達さんのことを信用したわけじゃないということを態度で示しておきたかった。
「大丈夫だよ。俺だってちゃんと考えて付き合ったつもりだから」
「景子のこと、本気だと?」
「そうだよ」
じっと高達さんを見るが、あまりしつこくするのも悪い。このくらいで勘弁してあげることにした。
「景子が幸せならいいですけど」
「友達思いだねぇ。まぁそれはお互い様か」
高達さんは目を細めて笑う。
「吉岡さんに彼氏がいるって聞いて、すごく心配してたんだ。なだめるの、大変だったんだからね?」
「高達さんが余計なこと言うから……」
「でも、いずれ言うつもりだったんでしょ?」
「それはそうですけど、タイミングっていうものがですね」
人の秘密を喋っておいて悪びれる様子はない。確かに景子に言ういいきっかけになったとは思うけど。
「だけど、俺まで会えるなんて楽しみだな」
「高達さんに会わせたくはないですけど」
「嫌われてるなぁ」
高達さんに苦笑いされてしまう。嫌っているわけではないのだけど、何となくひねくれた言葉を返してしまう相手なのだ。
「高達さんはあくまでオマケなんですからね」
「はいはい、わかったよ」
ディランと高達さん、景子が会う姿はまだ想像できない。私の夢の中に現れた魔術師が現実の世界にやってくるみたいで、不思議な気持ちだ。
外国人だと言ってあるけれど、ディランの様子がおかしいってバレないといいな。二人と会って大丈夫かな……。今更になって心配になってくるのだった。
さて、来る土曜日。飲みは19時からなので、ディランにはその前に家に来てもらうことにした。時間の概念が違うのが不安だけれど、前回14時過ぎに現れたのでそこから4時間程後に来てほしいと、頑張って伝えた。
そうしたら、ちゃんと予定通り18時過ぎに来てくれたのでホッとする。
「ディラン」
今日も茶髪ディランがやってきた。見る度に格好いいなぁ、ディラン。
ちなみに今日の私はいつものパンツスタイルである。前回はデートだからスカートにしたけれど、景子と高達さんに会うのにスカート履いていったら絶対ネタにされるから。
「ルリ、お待たせ」
ディランは挨拶するとすぐに、まず私を抱きしめた。
「ディラン」
照れながら名前を呼ぶと、
「今日はあんまりこういうことできないかもしれないもんね」
と、耳元で低い声で言われる。それは反則だ! ドキリとしてしまう。
だけど、抱きしめられてぬくもりを感じられることは私も嬉しくて、黙ってそれを受け入れる。
そうして二人の時間を楽しんでいたら、約束の時間にちょっと遅刻になってしまった。だけど、会える時間が限られる私達なのだから勘弁していただきたい。
高達さんが予約してくれたというちょっと雰囲気のいい個室居酒屋に到着すると、私服姿の景子と高達さんが待っていてくれた。景子は休日に会ったこともあるけれど、高達さんとはもちろん初めて。
白シャツにベスト、下はチノパンというラフながらもどこか決まった格好は流石と言うべきか。ちなみに景子は白いトップスにシフォンスカートという大人キレイめな格好で、二人はなかなかにお似合いである。
「お待たせー」
「あ、瑠、璃」
景子の目が私の後ろから入ってきたディランに釘付けになる。ディランはふわりと微笑んで、
「こんばんは。ディラン・フォーレンハイムです」
と、挨拶をした。景子が目を丸くするのもわかる。だって、ディラン格好いいよね!? とても、私の彼氏だとは思えないでしょ!?
本人を目の前にそんなことを言うわけにもいかず、私は少し照れながらも二人の前に座った。




