24話
スカイツリーは思ったより並ばずに天望デッキへ。天望デッキだけでもなかなかのお値段なのに、さらに上は追加で料金がかかる。申し訳ないけれど、天望デッキで我慢してもらうことにする。
ディランは短時間で上まで昇ったことにまず興奮していた。魔術で空に昇る時は抵抗がすごいのにそれもなく昇れるなんてすごい、と。
私からしたら生身の身体で空中に浮くことを考えただけで足がすくみそうだし、魔術がなければそんなことできないからすごいことだと思う。そういえばディランが魔術を使っているところ、見たことがないんだよね。ちょっと見てみたい気がする。
スカイツリーからの眺めはよかった。ちょっと曇ってはいたけど問題なく見れた。ディランも驚いていたけれど、改めて東京ってビルばっかりだなぁ。人も多いわけですわ。
景色をじっくり堪能してから早めの夕食。ディランは何でもいいと言うので私の気分で牛タン屋さんにした。牛タンの食感にもお米にもお箸にも、何もかも驚いていた。文化が全く違うんだなって改めて気がつく。
そうしてデートを終え、タイムリミット一時間前に家まで戻ってくることができた。途中のスーパーでチーズなどおつまみを買ってから。
「かんぱーい!」
そうして、私とディランは狭いワンルームの部屋でグラスを合わせた。私のグラスにはディランが持ってきてくれた果実酒が、ディランのグラスには買い置きしてあったビールが注がれている。
くんくんと爽やかな匂いを嗅いでから、赤い果実酒を飲んでみる。
「お!?」
果実酒は思っていたのと全然違う味がした。甘いのかと思っていたのだけれど、酸味が爽やかなさっぱりとした口当たりだ。渋みもなくて、例えるならアセロラジュースみたいな感じ。しかし、ちゃんとアルコールは感じる。どうも弱くはなさそう。
どう飲んだらいいかわからなくてとりあえずストレートで飲んでみたけれど、正解だったみたい。実は甘いお酒は苦手なので、甘くなくて安心したし、むしろ好きな方だ。
「美味しいよ、ディラン!」
「よかった」
ディランは笑顔でビールを飲んでいる。
「うん、こっちも美味しい。これに近いお酒がロンド王国にもあるよ」
「そうなんだ?」
「だけど、これみたいにシュワシュワはしてない。すごい口当たりだね」
「炭酸がないのかな? うんうん、癖になるでしょ?」
どうやら炭酸を飲んだことがなさそうなディランにビールを飲ませてあげられてよかった。
「ルリの国は面白いね。食事も美味しいし、不思議なものがたくさんある」
「そうかな」
「文明はロンド王国よりもかなり進んでいると思う」
ディランは私の部屋を見渡す。
「その映像が映る箱もすごいし、ルリの持っていたスマホ? も、かなり便利だ。建物も頑丈そうだし、えれべーたーなんていうすごいものまで……俺じゃなくて技術者を連れてきたらすごく驚きそうだ」
例えば平安時代の人が現代に来るくらいの差があったりするのだろうか。だとしたら、ものすごい未来を見ているような気持ちになるだろう。
「ディランは日本で暮らしていけそう?」
「慣れるまで時間はかかりそうだけどね。特に魔術が使えないのは不便に感じるかも」
「そうだよね……」
自分で空まで飛べていたのができなくなるのは、それは不便だろう。技術的に向上している日本でも、個人でできることが変われば不自由だ。
「そういえば、ルリも一度ロンド王国に来てみる?」
「行けるの!?」
私は目を丸くした。
「うん、この前ルリがこっちに来るっていう考えもあるって言ってたから、魔法陣を作ってたんだ」
「わー!」
ディランの国に行ける。ファンタジーの世界へ! いざ行けると思うとワクワクしてくる。
「ちょうど今度王都へ行く用事ができそうでさ。知り合いの魔術師がいるから、協力してもらおうかと思って」
「知り合いの魔術師に?」
「そう。俺とは比べ物にならないくらいの魔力を持った男でさ、頼めば連れて来れると思う。魔力の回復まで時間がかかるから、2、3日は滞在してもらえるとありがたいんだけど」
「そんなに長くいられるの?」
「うん、ルリの世界では魔術が使いにくいから、一時的な転移でしか来られないんだけど、考えてみたらルリがロンド王国に来る方がかなり楽なんだよね。送り返すのは魔力のあるロンド王国から魔術が使えるからね。魔力の消費は多いから、逆に短時間の滞在は難しいんだけど」
「なるほど」
いつも通りディランの言うことの半分くらいしかわからなかったけれど、つまり普通に行けるってことだよね。土日に有給を付けて4日程休めば足りるだろうか。ちょうど今は仕事も落ち着いているし、有給も余っているので使っても問題ないだろう。
「大丈夫そう」
「よかった。じゃあ、知り合いに話をつけておく。またわかったら教えるね」
そう言ってディランは笑顔を見せた。ディランの世界でディラン以外の人にも会えるのかぁ。なんだかドキドキしてしまう。それに、ディランとそんなに長い時間一緒にいられるのも嬉しいし。
「今日は本当に楽しかったよ、ルリ」
ディランが私の隣まで移動してきて、手を握りながら笑顔を見せる。
「魔術の調子もいい感じだ。この調子だと、来る時間も頻度も増やせるかもしれない」
「本当!?」
「うん、まぁ仕事次第ではあるけどね。そっちで魔力使いすぎちゃうとルリのところへ来る魔力を残しておけないから」
「仕事、大変なんだね……」
「まぁ今はちょっとね。緊急の案件が入ってて」
「緊急の?」
「そう。地盤の緩みが確認されてね、どうやらロンド王国の山で噴火が起きそうなんだ」
「噴火!?」
「そう。50年に1回くらいはあることなんだ。噴火すると被害がでるから魔術で抑えてるんだけど、今回もそれをやらなきゃならない。魔法陣を改良したり、魔石を集めたり、魔術師は手分けして慌ただしくしてるのさ」
「そんな忙しい時に日本に来て大丈夫だったの?」
「平気平気! 俺は魔術を発動する側じゃなくて、魔法陣を改良する側だからね。今回は魔力量も多く確保できそうだし、魔法陣もさほど大掛かりな改良はしないし。何か問題が起きればテストしなきゃならないんだけどね」
「へぇー」
何だか私とディランの仕事のスケールが違う。ディランは本当に国を守っているんだ、と思うと見直してしまう。
「今日ルリに会えたから、明日からまた頑張れそうだよ」
ディランの手が私の頭に伸びて、優しく撫でる。くすぐったくて目を閉じていると、その手が頬へと伸びてきて軽く触れられた。目を開くと、至近距離でディランと目が合う。
「ルリ、好きだよ」
「う……ん」
蕩けるような笑顔でそう言ったディランは優しく私に口付けた。この前とは違って何度も、そして時間をかけてゆっくりと。蕩けていく頭で、今まで私は誰かにこんなに愛されたことがあっただろうか、と思う。
愛されていると胸を張って言える。それは本当に幸せなことで怖いくらいだった。




