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18話

 ディランとキスをしてしまった。たかだかキスで、と思うかもしれないが、それだけで翌朝までぼんやり夢心地になってしまうほど動揺したのがアラサー女の私だ。


 今時、小学生でもキスくらいするというのに、まったく情けないと思う。だけど、好きな人との初めてのキスというのはそのくらいの威力があるということを知らされた。


 そんな状況だから、会社に行って高達さんの顔を見るまで昨夜のことをすっかりと忘れてしまっていた。そう、景子が無事だったのかどうかだ。


「高達さん」


 私は何かしら用事を見つけて高達さんのデスクまで行った。


「昨日、景子は大丈夫でした?」

「俺を疑ってる? 大丈夫だよ」


 そう笑った高達さんは昨日とは違うスーツだし身なりも綺麗にしているのに、どこか疲れている様子だ。仕事中に問い詰めるのも悪いし、ひとまず言うことを信じて昼休みに景子に話を聞こうと思った。


 そして、昼休み。いつものように景子と会うと、こちらも疲れた表情だ。珍しくクマができている。


「瑠理、昨日はごめん」


 開口一番、景子はそう謝ってきた。


「私は大丈夫だけど、景子こそ大丈夫? 二日酔いとか……」

「それは大丈夫。あたし、次の日には引きずらないタイプだから。だけど、あんなに酔っ払うなんて……夜はきつかった」


 思い出したのか、景子はげっそりとしている。


「高達さんに任せちゃって大丈夫だった? 何もされなかった?」

「ああ……うん」


 景子は歯切れ悪く目を逸らす。え、何? その反応。


「まさか高達さん……」

「いや、本当に何もなかったの! なかった……んだけど」


 言葉を濁す景子はかなり珍しい。何があったのかと、私は景子をじっと見つめる。


「なんか、タクシーで酔ってかなり気持ち悪かったし心細くてさ、家の中までついてきてもらったんだよね。あたしが頼んで」

「え、ええ!?」


 あんなに嫌がってた高達さんに部屋の中まで着いてきてもらうなんて、それこそ景子らしくないと思う。それだけ失恋がきつかったということでもあるのかもしれないけど。


「そこでさ、何ていうか襲われてもいいかなって思っちゃったんだよね」

「……まじか」

「だけどさ、高達さん本当に手出して来なくてさ。看病はしてくれて、だいぶ遅くまで付き添ってくれてたんだけどね。たぶん、帰ったのは夜中の3時とかだったと思う」

「そんなに遅くまで!」


 だから高達さん疲れた顔をしていたのか、と納得がいく。


「今まで高達さんってチャラチャラしてて信用ならないって思ってたけど、そうじゃないんだって思ったら、なんか……」

「え、まさか」


 景子が頬を僅かに赤らめて目線を彷徨わせている。その反応、どう見ても恋する乙女なんですけど!


「まさかそんなことになるなんて」

「あたしだってびっくりだよ! だけどさ……なんか頭から離れなくてさ。どうしよう」

「どうしようも何も……」


 私も驚いてなんて答えたらいいかわからない。まさか一夜でこんな急展開があるなんて。


 だけど、私の大切な友達である景子には幸せになってほしい。今まで男運がなくてさんざん傷ついてきたこともあるし。


「高達さん、かぁ」


 女性関係でいい噂は聞かない高達さん。安易に手を出さないとか、そういう振る舞いができるからこそモテるのかもしれない。だからこそ、景子のことが本気で好きなのか、遊びなのかそうじゃないのか知る必要があると思った。


「私からもそれとなく探ってみる」

「探るって何を?」

「今彼女いないのか、とかさ」

「……瑠理ぃ」


 いつもクールビューティーな景子が私に抱きついてきた。恋すると女は変わるのだ。それは自分でも十分に理解している。


 景子を変えた高達さんがどう思っているのか、友達として力になろうと決意した。




 その日の夢の中。今日はディランはちゃんと出てきてくれた。ついこの前会った時に初めてキスをされたんだ、と思うとまともに顔を見ることが恥ずかしい。しかし、ディランはそのことなんて忘れたかのようにいつも通り笑顔だ。


「もう魔力は大丈夫なの?」

『うん、おかげさまで。ここに出て来られるくらいには回復したよ』


 疲れた様子も見られなくて、私はホッと息を吐き出す。気を抜くとディランの唇を見てしまいそうになるので、気をそらすためにも私はちゃんと話をしなければと思った。


「あのね、ディラン。今日の質問なんだけどね、聞いて欲しい話があるの」

『? 何?』


 私はディランに会社で仲のいい友達の景子が同僚に恋をした模様だということ、その男性(高達さん)も景子に前々からアプローチしていたけれど、どのくらい本気なのか見極めたいことを説明した。その上で、私はディランに尋ねる。


「そういう込み入った話をするのは会社ではできないから、飲みに誘おうかと思うんだけど行ってきていいかな?」


 私はディランと付き合っている。人によっては異性と二人きりで飲みに行くのも浮気だって言う人もいるから、確認しておこうと思ったのだ。私もディランの嫌がることはしたくないし。


 私の話をふんふんと聞いていてくれたディランは、


『いいよ、行ってきなよ』


 と、言ってくれた。


『でも、気をつけてね。この前みたいに危ない目に合わないように』

「わかった。今回は通る道をちゃんと考えるよ」


 快く承諾してくれたディランに感謝しながら、これ以上の不安を与えないようにしっかりと頷く。


「ありがとね、景子のためにも話聞いておきたかったから。だけど、ディランの国では恋人以外の異性と二人で飲みに行くとか、あんまりないことなんじゃない?」

『うーん、そう言われてみれば』


 ディランは腕を組んで首を僅かに傾ける。


『そもそも、貴族の人達は家に決められた結婚がほとんどだから、付き合うっていう概念があまりないんだけどね』

「そうなんだ!?」


 確かに、貴族と言われて想像すると自由に恋愛をしているイメージはない。


『俺みたいな平民は自分で相手を決めるけどね。それでも、親同士の付き合いで決まることもないわけじゃないし』

「そっか……何かそれって嫌だね」


 親に決められて、好きでもない人と結婚なんて、私だったら絶対に嫌だ。日本でもないわけじゃないんだろうが、ごく少数だ。


『だから、お互いに隠れて別の人と恋仲になる、なんていうのはよく聞く話だよね。そういう物語や劇もあるくらいだから』

「そうなっちゃうよね……」


 自分の好きな人を見つけたらそっちに走ってしまうのはあることだと思う。そう思えば自由に恋愛ができる私たちは幸運だ。


『だけど、俺はルリを信じてるし』

「ディラン……」

『それに、魔石があればルリのだいたいの行動はわかるからね』

「えぇ!?」


 何だか恐ろしいことを言われた気がする。そういえば、昨日の夜も私の危険を魔石から読み取ってやってきたとか言っていたっけ。


『もし、ルリの感情に動揺が走ったらすぐにわかるよ』


 満面の笑顔で恐ろしいことを言うディラン。この魔石、超高性能GPSみたいな役割もあるんじゃないの!? まぁ、別にやましいことはないんだから、別にいいんだけどね。


『じゃあ今度は俺の質問ね。ルリの次の休みはいつ?』

「あーえーっと、今日が火曜で今週末は三連休だから、4日後から3日間休みだよ!」

『何か予定はある?』

「うーんと、月曜に……つまり、6日後は飲み会があるんだよね。だから、4日後と5日後は暇かな」

『そっか、じゃあ遊びに行ってもいい!?』

「! 来れるの!?」

『そこまでに魔力も回復してると思うんだ』

「本当! もちろんいいよ!」


 嬉しい! 3連休なのに1日しか予定ないやって思ってたし、ディランと会えるのは私も嬉しい。すぐに了承の返事をした。


『その時にはこっちのお酒持っていくね!』

「ありがとう!」


 ディランの国のお酒……喉が鳴りそうだ。


「どこか出かける? ディランが行って楽しそうなところ考えておくよ!」

『楽しみだなぁ』

「私も」


 こんなに頻繁に会えると思っていなかったから嬉しい。私にとっても久しぶりのデートだ。どこに行こうか考えると今から楽しみになってきた。


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