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13話

 翌日は月曜日。また憂鬱な一週間が始まる。だけど、今週末は三連休なので、何とか乗り切りたい。


 重い足取りで会社まで歩いていると、


「おはよー!」


 と、肩を叩かれた。振り返らなくてもわかる、このテンションは高達さんだ。何故、二週連続わざわざ月曜の朝に会うのだろう。月曜の朝に会いたくない人ナンバーワンなのに。


「……おはようございます」

「うわー、元気ないねー」


 それは主に貴方のせいですけど! と内心突っ込むけれど、高達さんは気がつく様子もなく並んで歩き始める。


「もしかして、まだ恋の悩み、継続中?」

「ああー」


 そういえば先週末。ディランが夢の中に出てこなかったことで落ち込んでいた私に高達さんはそう聞いてきたのだった。やっぱり恋の悩みだと思われているみたい。間違いではないのだけれど、あまり知られたくもないというか。


「違いますからね、あれ」

「嘘だー! 誤魔化しても無駄だよ」


 高達さんは笑顔で、しかし譲るつもりはないような確固たる意志を感じた。何故だ……そんなにわかりやすかっただろうか、私。


「そうそう、先週話した飲みの話だけどさ」

「あー、はい」


 景子を連れてくる代わりに高達さんが奢ってくれるっていう飲みの話。一応覚えている。それに、話を変えてもらえるなら、とほんのり安堵した。


「今日、どう?」

「今日っすか」


 このテンションの低い月曜朝に誘われると何とも微妙なリアクションをせざるを得ない。まだ身体も休みモードだと言うのに。


「仕事、落ち着いたでしょ?」

「まぁ、そうですね」

「喜多川さんにも聞いてみてよ。恋のことは聞かないでおいてあげるからさ」


 爽やかな顔で脅しですか!? 有無を言わさぬ雰囲気で頼まれる。まぁ景子に聞いたところでどうせ断られると思うから、聞くだけ聞いてみるかと了承した。


 ところが、私の目論見は外れる。


「飲み、行くー」


 昼休み。いつもよりは化粧は薄め、髪もぼさっとしている景子が乗ってきたのだ。


「何かあったの?」

「聞く? 聞いちゃう?」


 げっそりとした顔で景子は机に突っ伏す。


「最近ずっとあたしに言い寄ってきてた男がいたのね」

「うん」

「初めは断ってたんだけど、顔もそこそこ良くて優しいし、そこまできてくれるなら付き合ってもいいかなって思ったわけ」

「うんうん」

「……別の女に乗り換えてたー」

「あー」


 涙声で顔を伏せる景子の頭を私は撫でた。


「あたしが慎重になりすぎてたんかなー。もうちょっと早く好意を示してればよかったのかも……」

「よしよし」

「こっちも本気になりかけてたところだったからさー、こんなんだったら早く行動起こせばよかったよー」

「二股かけられてた後だから慎重にもなるよ」

「だよね!?」


 涙目の景子は勢い良く顔を上げる。


「タイミングが合わないよ……」

「飲もう、景子! こんな日は飲むに限るよ!」

「瑠理ぃ……」

「タダ酒で! 余計な高達さんもいるけど!」

「この際タダ酒ならいいわ……」

「よし、飲もう!」

「くそー! 飲むぞー!」


 こうして高達さんの誘いに乗じた景子励まし飲み会が決定した。ディランとの時間が減るのは寂しいけれど、友達も大事なのでここは景子を優先させてもらう。


 それにしても、景子は本当に男運がないというか。よく話を聞くけれど、二股とか心に来るだろうな、と今の私は思う。もしディランに二股かけられたら……立ち直れないかもしれない。あのディランに限ってそんなことはないと思うけれど。




「「「かんぱーい!」」」


 三人揃って定時退社に成功した夜。会社最寄り駅の半個室の居酒屋で私たちは一杯目のビールのジョッキを合わせた。


「はーっ!」


 乾杯でビールを半分ほど飲み干した景子は昼間よりは顔色が良さそうだ。


「今日は飲むぞー! 何もかも忘れてやるー!」

「付き合うよー!」


 私と景子は二人でもう一度乾杯し、さらにビールを飲み進める。


「何々、喜多川さん何かあったの?」

「空気読んでそこは聞かないところじゃないですか!?」


 景子は高達さんに睨みを効かせながらも、結局昼に私にしてくれた話をもう一度した。


「喜多川さんって男運ないねぇ。俺にしとけばいいのに」

「そこで変な口説き入れてくるのやめてもらえます!?」


 既に三杯目のハイボールに手を出している景子は容赦なく高達さんにツッコミを入れる。


「でも、今回ばかりはあたしが臆病だったからダメだった……もう少し早く相手のことを信じてあげればよかったのに」

「いや、喜多川さんは悪くないでしょ。悪いのはその男」


 涼しい顔で二杯目のビールを飲んでいる高達さんはそう言い切った。


「だって、喜多川さんは二股かけられた後で傷ついてたわけでしょ? その後でそんなにすぐに相手のことを信じられるわけがないし、信じてもらえるように頑張るのが男の役目だよ」

「高達さんが珍しくいいこと言ってる……」

「俺はいつもいいこと言うよ?」


 いい年してウィンクしてくる気持ち悪ささえなければ、なかなかいいことを言っていると思う。


「高達さんの言う通りだよ。恋愛は一人でするものじゃないから」

「瑠理も珍しくいいこと言ってる……」

「私もいつもいいこと言うよ!?」


 私はウィンクしないし!


「瑠理に恋愛について諭されるとはな……この瑠理に」

「失礼な!」

「確かに吉岡さんって恋愛してるイメージなかったけど、もしかして彼氏でもできた?」

「彼氏……」


 ポッとディランの顔が浮かんで一瞬動きが止まる。それを高達さんは見逃さず、


「あ、やっぱり」


 と、ニヤリと笑った。


「ちょっと! その話は聞かないっていう約束ですよね!?」

「え、嘘。瑠理が? 聞いてないけど」

「いや、あの」

「あの妄想彼氏じゃなくて」

「妄想彼氏?」

「その話はもういいから!」


 高達さんにまで魔術師の話をしたくないので慌てて切る。


「さ、飲もう飲もう! 高達さんの奢り酒だ!」

「あ、話逸した」

「ほらほら、それより高達さんの話聞かせてくださいよ!」


 そうしてぐいぐいとお酒を勧め、何とか誤魔化した。誤魔化せてるといいけど。


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