12話
翌日、私はディランの服を見に買い物に出かけた。まさかしばらく彼氏のいなかった私が男物の服を一人で見に行く日が来るとは、人生わからないものである。
男物のブランドはよくわからないので、とりあえずデパートにやってきた。ブラブラとウインドウショッピングをしながら何となくイメージを作り上げる。
ディランにはどんな服が似合うだろうか。パーカーにジーンズみたいなスポーティな洋服も可愛く着こなせそうだけれど、シャツにジャケットのようなきっちりとした服装も似合う気がした。ここはせっかくだから私の好みを優先して後者にさせてもらおう。
それらしい服がディスプレイされているお店に入ると早速髭を生やした男の店員さんが近づいてきた。
「いらっしゃいませ。彼氏さんへのプレゼントですか?」
「いや……はい、そうです」
反射的に否定しようとして、それは本当のことだと気がつく。こんな大きな宝石に見える魔石ももらっちゃったし、お返しとしてプレゼントということで問題ないだろう。
「いいですね。何をプレゼントされるご予定ですか? ジャケットとか?」
「あー、えーっと、全身一式……」
「わお! 大盤振る舞いですね!」
私もそう思う! お値段を見るとそこそこするみたいだし、これはしばらくお酒のグレードを下げる必要がありそうだ。
「サイズはおわかりですか?」
「このくらい?」
私は手で示して見せた。つい昨日抱きしめられたことを思い出して何となくの身長差はわかった気がしている。思い出すのが若干恥ずかしいのだけど。
「僕より少し高いくらいですかね?」
「そうですね」
この店員さんも身長170センチはありそう。そう思うとディランは私の想像よりも高いのだ。子犬のような振る舞いからもう少し低いように思うけれど、ちゃんと男なんだよなぁ。抱きしめられた時だって──
と、さっきからそのことばかり思い出している。これじゃあ変態みたいなので、意識的に頭から追い出して買い物に集中した。
結局、私はそのお店で白いワイシャツ、黒の光沢のあるジャケット、黒いズボンとベルトを購入した。かなり自分好みにしてしまったけれど、きっとディランにも似合うと思う。着てもらう日が楽しみだ。
早速、私はその日魔石を買い物袋の中に入れて、それを隣に置いて眠ることにした。眠りにつくと、本当に夢の中にもその袋が現れたのでびっくりだ。
『あ、ちゃんと成功したみたいだね』
ディランも見慣れない袋に反応してニコリと笑った。
「はい、これディランに」
袋から魔石だけを抜き取ってディランに手渡すと、中身を見てパアっと顔を輝かせる。
『これ、俺の服!?』
「そうだよ」
自分のセンスをどう思われるか心配だったのだけれど、広げたディランはすごく嬉しそうだ。
『へぇー何だか俺の国の服よりも動きやすそうだ!』
ディランは物珍しそうに広げて様々な角度からしげしげと見ている。
『ありがとう、ルリ! 今度そっちに行く時には着ていくね!』
「うん。あ、でも、服はいいとして、その髪の色で外に出ると目立つかも。私の国には赤髪の人はほとんどいないと思うから」
染めている人も少数な赤髪はきっと目立つだろうと思う。
「茶髪とかにすれば馴染むと思うけど、わざわざ髪の毛を染めるのもねぇ。帽子とか買ってくればよかったかな」
『あ、それなら大丈夫!』
ディランは洋服を綺麗に畳んで仕舞ってから、
『魔術で髪の色を変えて行くことにするよ』
と、微笑んだ。
「そんなことできるの?」
『うん、自分の髪の色を変えるくらいなら簡単だよ』
魔術とはなんて便利なものなのだろう。茶髪のディランという貴重な姿が見られるのも楽しみだ。
「それじゃあ今日の質問ね。魔術で髪の色が変えられるってことは、ずっと老けずに今の見た目で居続けることもできるの?」
これも私の数少ないファンタジーの知識だが、魔女といえばシワシワのおばあちゃんでも魔法で見た目を若いままに偽っていたりする。髪の色が変えられるなら、そういうこともできるんじゃないかと思ったのだ。
『変身魔術師なら可能だけど、俺には無理だなぁ』
返ってきた答えはそんなものだった。
「変身専門の魔術師ってこと?」
『専門ではないんだけど、得意って感じかな。今はもう数人しかいないけど、できる人はいるよ。変身魔術ってかなり癖が強くて、魔力の質を選ぶんだよね』
「ふーん」
また難しい話になってきたが、とにかくディランはできないらしい。
『俺にできるのはせいぜい髪の色を変えるとか瞳の色を変えるとか、そのくらい。色素を変えるのは簡単なんだけど、形を変えるのは難しいんだよね』
万能のように思える魔術だけれど、いろいろあるんだな。毎日ディランから魔術について聞いていたら、何だか興味が湧いてきた。
『それじゃあ次は俺の質問の番ね。ルリはお酒が好きだって言ってたよね?』
「そうね」
『じゃあ、こっちのお酒をプレゼントしたら嬉しい?』
「な、なんですと!?」
思わずぐっと身を乗り出す。行儀が悪いとは思ったけれど、やっぱりお酒ネタには素直に食いついてしまう。だって、興味あるじゃない! 別の世界のお酒!
私の反応ですべてを察したのだろう、ディランは、
『じゃあ、今度そっちに行く時に持ってくるね』
と、笑った。
「あ、でも、いいの? 洋服のお返しだったら……」
『いや、そうじゃないよ。お付き合いしている女性にはプレゼントを贈るのが普通でしょう? だから……』
「ちょっと待って」
引っかかりを覚えて私はディランを止める。
「私の国ではプレゼントを贈り合うのは誕生日とか年に数回のイベントの時くらいなんだけど、ディランは違うの?」
『え、あれ?』
ディランは何度か瞬きをした。
『俺の国では女性と会う時に男性は毎回プレゼントを持っていくのが普通だけど』
「そんなに毎回はいらないよ!? こっちだとプレゼントされたらお返しするのが普通で、もらってばっかりとか気使っちゃうから!」
『そうなのかぁ』
早めに文化の違いに気がつけてよかった。このままだと毎回プレゼントをもらうことになるところだった。私も毎度お返ししてたら流石に財布が空になっちゃうし。
『わかった、じゃあ毎回はやめておく。だけど、今度お酒は持っていくね』
「そ、それも遠慮……しません。お願いします」
欲に負ける私です。素直に頭を下げました。だって、やっぱりそちらのお酒気になるもの。
『任せといて』
ディランも嬉しそうなので、今回だけはいただくことにした。




