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11話

 何年ぶりかに「好き」と伝えた数十分後。私は夢の中で顔をほのかに赤くしたディランと向かい合っている。


「今日はもう夢に出てこないのかなって思ってたよ……」

『夢で会える分の魔力は残しておいたからね! えらいでしょう』


 得意げに笑うディランの顔がまともに見れない。だって、ディランが私の部屋から去っていく直前、言い逃げみたいな状況だから「好き」って勇気を出して言えただけであって。まさか、気持ちを落ち着けて眠ったらまた会えるだなんて思ってもいないじゃない!


『次はいつ会えるかなぁ。早く会いたいな』


 尻尾を振っている子犬のようにディランは嬉しそうだ。私もディランに会えたことは嬉しいんだけどね。ああして抱きしめられて告白もした直後だとどうにも気恥ずかしくてならない。


「それよりディラン、今日の質問は?」

『あ、そうだったね』


 話題を逸らそうと質問を促すと、ディランはあっさり食いついてくれた。『うーん』と、考えてから、


『ルリはお酒が好きなの?』


 と、聞いてきた。そうだった、ディランと会えたことですっかり頭から飛んでいたけれど、私は酔っ払って失態をしてしまったんだ。


「うん、好きでよく飲む。あそこまで酔うことはほとんどないんだけど……お見苦しいところをお見せしました」

『え、何で?』


 ディランはきょとんとして茶色い瞳をくるりと丸くした。


『可愛かったのに』

「か、かわ……!?」


 当たり前のように言うけれど、その度に私の心臓は跳ねる。


『もちろんルリはいつも可愛いよ? 夢で会う時も実際に会ってもね。だけど、酔ったルリはまた一段と……』

「ちょっと待って」


 私は手でディランを制す。今まで可愛いなんて言われて来なかった私がそう何度も可愛い可愛いと連呼されると恥ずかしくてたまらない。こちらは、清水の舞台から飛び降りる気持ちになってようやく好きだと言えたような人間だというのに。


 それに、私は本来可愛いと言われるような人間ではないのだ。容姿も去ることながら、性格だって女らしいとは程遠いし。


「可愛い子ならディランの国にもたくさんいるんじゃない?」


 ほら、こんな可愛くないことを聞くような女なのだ、私は。


「髪の色だってディランみたいに明るい人もいそうだし、私みたいな地味で女らしくないのは……」

『ルリ』


 あ、怒った。ディランは明らかに怒った顔と声で私の名前を呼んだ。


『俺はルリが可愛いと思ってるの! 他の人なんて関係ないよ』

「……」


 そうやって真剣に甘いことを言われると一気に体温が上がる気がする。ディランの真っ直ぐな愛情は夢の中でも直接会った時にも変わらない。


「……ありがと」


 もう折れるしかなかった。ディランがそう言ってくれるなら、恥ずかしくても受け入れようと思う。


『次また変なこと言ったら怒るからね』


 そうやってむくれるディランの方がよっぽど可愛いと思うのだけれど、そう言ったらディランは怒るのだろうか。


『次はルリが質問する番だよ』

「さっき日本に来たばかりで疲れてないの? 身体に不調とか出ない?」


 私だって長距離移動をしたら体力を消耗する。ディランの国と私の国は遠いと思われるから、それを身体一つでやってきたディランに負担がないはずはないと思ったのだ。


『心配してくれるの? ありがとう』


 ディランは嬉しそうに目を細めた。心配……するでしょ、そりゃ。だけど、素直にそうは言えなくて視線を逸らしてもごもごした。


『生身の俺は流石に疲れてるよ。魔力を相当使ったからね』

「魔力を使いすぎると疲れるんだね」

『うん、そりゃあね。でも大丈夫。俺は魔力量は少ない方だけど、回復は早い方だから』


 えへん、とディランは胸を張った。


『早く回復してまたルリに会いたいな。それまでに魔力を節約してそっちに行けるように、魔法陣の描き方を見直さないと』


 ディランは腕を組んで考えるような素振りを見せる。そうやって魔術について話したり考えている時のディランは子犬というより成犬のような凛々しさが加わる。コロコロと変わる表情は見ていて飽きない。


『あ、でも徹夜してルリに会えなくなるようなことがないように気をつけるからね!』


 私の視線を勘違いしたのか、ディランはそうフォローを入れてきた。私としても徹夜ばかりして身体を壊されるのは心配なのでこくりと頷いておく。


『でも、ルリの国は不思議なところだったなぁ。念のため一時的な転移にしておいて正解だったよ』

「不思議?」


 一瞬私の家に来ただけなのに何が違ったんだろうか。


『うん、ルリの国に行って初めて気がついたけど、たぶんロンド王国の地盤には大きい魔石が埋まってるんだろうね。だから、魔法陣を描くことで魔術が使いやすい。だけど、ルリの国では魔術が使える気がしなかった』


 ディランの言っていることは半分以上わからない。とにかく、日本では魔術が使えないみたいだってことなのかな。


「じゃあどうやってディランは自分の国に帰ったの?」

『あまりにも遠くて完全に転移するには相当な魔力とそれなりの術式が必要そうだったから、今回はルリに渡した魔石のところに一時的に転移するような術式を組んだんだ。俺のいるところの魔法陣を発動させたままにしておいて……わかる?』

「ううん」


 正直に答える。全然わからない。


「つまり、ずっとこっちに来るためにはもっと研究が必要ってこと?」

『そう。この方法で行き来はできるけど、さっきくらいの時間だと何もできないし』


 ディランは悩ましげにそう言う。


『しばらく研究を続けてみるよ。まずは、この方法で一日いられるくらいまでには持っていきたいね。完全にルリの国に行くには他の魔術師に手助けを頼む必要もありそうだし』


 ぶつぶつと言いながら考え込んでいる。こうやって真剣に考えているのがすべて私と一緒にいるためだと思うと、ちょっと、いや、かなり嬉しい。


『早くルリとデートしたいなぁ。ルリの世界を案内してね!』

「あ、うん」


 ディランと日本でデートするところを少しだけ想像して気がつく。この魔術師らしい格好で町中を歩こうものなら、ディランは完全にコスプレイヤー扱いだ。


「外に出られるように洋服も用意しなきゃね」

『用意してくれるの!?』


 ディランは目を輝かせた。


「うん、見てみるよ」

『楽しみだなぁ、ルリの国の服』


 ものすごく楽しみにしているようなので、私も頑張って用意してみようかな、という気になる。


『あ、そうそう。魔石と一緒に物を置いて眠ってくれたら、物も夢の中に現れるようにしてあるからね』

「そうなんだ」


 なんて便利な機能! じゃあ、早速ディランの服を買ったらここに持ってこようと思った。


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