表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ばかって言う君が好き。  作者: 下駄
oneyear
9/38

Dec


 はぁ……

手をこすりながら、息を吐く。もわもわっと出た白い息。


20時16分、仕事帰りのいつもの道。

すぐ横を電車が抜けていく、街灯ちょっぴりのあの道。

でもそれが私の毎日。


鞄から取り出した携帯の電源を押す。

通知0件。


ついさっき送ったばっかりだから、彼からの返事はまだくるはずないのに。


きっと確認してしまったのは、

今日が24日だから。


クリスマスイブも相変わらずの仕事。

明日のクリスマスも相変わらずの仕事。


本当は明日の夜、彼と会うはずだったのだけれど、



「悪い!夜、先輩から飯誘われちゃって。。

いつもよくしてもらってる先輩だから断れないんだ。

ほんとごめん!!」


なんて昨日彼からごめんなさいLINEが来てしまったから、当然おじゃん。


気にしないで。って送りながらも、

先輩少し空気を読んでください!って正直思いながら、


しょうがないしょうがない。

そう心で自分に言い聞かせる。


でもやっぱりどこかもやもやした気持ちもあって、いつもより足取りが重い私。


通りすがりのカップルを見るたび、重さは増した。


「ただいま~。 おかえり~。」

 誰もいない部屋に一人つぶやいて、一人で返事する。


2階建てのアパート、階段を上ってすぐの部屋。

塀からは公園、、ではなく、いつもの道。


カギと携帯、かばんを置いて、時計を見て。


今日はいつもより帰るの時間かかってるやなんて思いつつ、

冷蔵庫から昨日の夕飯を取り出して、食べる。


もやし炒めとサラダ。


明日直人に会うと思って、ダイエットしてたのになー、

口の中でもやしがシャンシャンと音をたてる。


食べるのはそれだけと決めていたのに、

やけになって、ダイエットだからと我慢していたみかんゼリーも食べてしまう。


帰宅して30分。

通知はまだ0件。

小さな彼への抵抗、携帯にあっかんべー。


彼からの着信音。

すごいタイミングにびくっとしてしまう。


「も、もしもし?お疲れさま。」

 少しうわずってしまった私の声。


「お疲れさま。」

 電話からかすかに聞こえてきた車の音。まだ彼は家に帰っていない様だった。


「直人どうしたの?」


「あ、いや。あのさ、今何してる?」


「ごはん食べ終わったとこだよ。」

 いつもの何気ない電話だと嬉しい気持ち半分、


会えはしないのだとがっかり半分……。

そんな気持ちが彼に伝わってしまわぬように。


「何食べたの?」

 彼がずずっと鼻をすする。


「んー、もやし炒めとサラダ。」


「昨日の残り?」

 彼がくすっと笑う。


「うるさいなぁ。…でも図星です。」

 笑いあう私たち。


「直人は何してるの?」


「んー、ご飯食べてー、

会社から帰ってるとき星がきれいだったからさ、もう一回みようと思って、今散歩してるんだよねー。


倫子もちょっと空見てみ?すっげー綺麗なんだよ。」


彼の時折鼻水をすする音が気になりつつ、

窓をすっと、網戸もすっと…


とはいかず、きーっと音を立てながらあける。


草履をはいて、ベランダ。

空を見上げると、彼の言った通り綺麗な星空。

少しだけ欠けたお月さまも空に浮かんでいた。


「ほんとだ!綺麗~!」


「だろ?」

「だろ?」 


電話の彼の声、それともう一つ…


「……え!?」

 下から聞こえた声。見下ろすといつもの道に彼。


「埋め合わせに来ました。」

 彼が携帯を切って、私に直接声をかける。 


びっくりして、びっくりして

でもすっごく嬉しくて……


「ばか。」

 私は笑いながら、何度も何度もばかと繰り返す。

黙って笑いながら聞いてくれる彼。



「ごはん食べ終わったとこならちょうどよかったね。」

 笑顔の彼。


「…直人、遅いのです。」

 すねた口調の私。


「ん?」



「ダイエットしてたのに

直人に会わないと思って、さっきゼリーを食べてしまいました。」


彼がハハっと声をあげて笑う。


「でぶだあ。」

 笑いながらのいつもの言葉が、やっぱりうれしくて、嬉しくて。


いつものベランダからの風景が、全く違ったものに見えたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ