Dec
はぁ……
手をこすりながら、息を吐く。もわもわっと出た白い息。
20時16分、仕事帰りのいつもの道。
すぐ横を電車が抜けていく、街灯ちょっぴりのあの道。
でもそれが私の毎日。
鞄から取り出した携帯の電源を押す。
通知0件。
ついさっき送ったばっかりだから、彼からの返事はまだくるはずないのに。
きっと確認してしまったのは、
今日が24日だから。
クリスマスイブも相変わらずの仕事。
明日のクリスマスも相変わらずの仕事。
本当は明日の夜、彼と会うはずだったのだけれど、
「悪い!夜、先輩から飯誘われちゃって。。
いつもよくしてもらってる先輩だから断れないんだ。
ほんとごめん!!」
なんて昨日彼からごめんなさいLINEが来てしまったから、当然おじゃん。
気にしないで。って送りながらも、
先輩少し空気を読んでください!って正直思いながら、
しょうがないしょうがない。
そう心で自分に言い聞かせる。
でもやっぱりどこかもやもやした気持ちもあって、いつもより足取りが重い私。
通りすがりのカップルを見るたび、重さは増した。
「ただいま~。 おかえり~。」
誰もいない部屋に一人つぶやいて、一人で返事する。
2階建てのアパート、階段を上ってすぐの部屋。
塀からは公園、、ではなく、いつもの道。
カギと携帯、かばんを置いて、時計を見て。
今日はいつもより帰るの時間かかってるやなんて思いつつ、
冷蔵庫から昨日の夕飯を取り出して、食べる。
もやし炒めとサラダ。
明日直人に会うと思って、ダイエットしてたのになー、
口の中でもやしがシャンシャンと音をたてる。
食べるのはそれだけと決めていたのに、
やけになって、ダイエットだからと我慢していたみかんゼリーも食べてしまう。
帰宅して30分。
通知はまだ0件。
小さな彼への抵抗、携帯にあっかんべー。
彼からの着信音。
すごいタイミングにびくっとしてしまう。
「も、もしもし?お疲れさま。」
少しうわずってしまった私の声。
「お疲れさま。」
電話からかすかに聞こえてきた車の音。まだ彼は家に帰っていない様だった。
「直人どうしたの?」
「あ、いや。あのさ、今何してる?」
「ごはん食べ終わったとこだよ。」
いつもの何気ない電話だと嬉しい気持ち半分、
会えはしないのだとがっかり半分……。
そんな気持ちが彼に伝わってしまわぬように。
「何食べたの?」
彼がずずっと鼻をすする。
「んー、もやし炒めとサラダ。」
「昨日の残り?」
彼がくすっと笑う。
「うるさいなぁ。…でも図星です。」
笑いあう私たち。
「直人は何してるの?」
「んー、ご飯食べてー、
会社から帰ってるとき星がきれいだったからさ、もう一回みようと思って、今散歩してるんだよねー。
倫子もちょっと空見てみ?すっげー綺麗なんだよ。」
彼の時折鼻水をすする音が気になりつつ、
窓をすっと、網戸もすっと…
とはいかず、きーっと音を立てながらあける。
草履をはいて、ベランダ。
空を見上げると、彼の言った通り綺麗な星空。
少しだけ欠けたお月さまも空に浮かんでいた。
「ほんとだ!綺麗~!」
「だろ?」
「だろ?」
電話の彼の声、それともう一つ…
「……え!?」
下から聞こえた声。見下ろすといつもの道に彼。
「埋め合わせに来ました。」
彼が携帯を切って、私に直接声をかける。
びっくりして、びっくりして
でもすっごく嬉しくて……
「ばか。」
私は笑いながら、何度も何度もばかと繰り返す。
黙って笑いながら聞いてくれる彼。
「ごはん食べ終わったとこならちょうどよかったね。」
笑顔の彼。
「…直人、遅いのです。」
すねた口調の私。
「ん?」
「ダイエットしてたのに
直人に会わないと思って、さっきゼリーを食べてしまいました。」
彼がハハっと声をあげて笑う。
「でぶだあ。」
笑いながらのいつもの言葉が、やっぱりうれしくて、嬉しくて。
いつものベランダからの風景が、全く違ったものに見えたのだった。