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ばかって言う君が好き。  作者: 下駄
oneyear
7/38

Oct


うなだれるような暑さの影は、すっかりなくなっていた。


ピンポーン


あと5分で店つくよ。

先飲み物頼んでていいから。



彼と待ち合わせ。


おしゃれな音楽がかかる喫茶店。

ぬくもりを感じる店内。レンガ造りの壁に、ヒノキの床。

ぷ~んと香るコーヒーのにおい。


ところどころに飾ってある植物が、ドキドキしてる心を少し落ち着かせてくれる。



既に窓際の二人席に腰かけていた私は、

もう頼んでますよ~なーんて思いながら、砂糖1個入りのコーヒーを一口含んだ。



約1ヶ月ぶりの彼。


隣の席の二人組の女の子たち。

話の内容までは聞こえないけど、表情からするに恋愛話?


店内奥のカウンターに座ってる男女2人組、ちょっとまだ間が空いてる感じは、

まだ会ったばかり?

なんて考えて、心を躍らせてしまう。


携帯で時間を確認、

たまにしてしまう、「彼とのLINEを見返す」という行為。


女の子ならきっとしてしまうそれ。

にやにやしちゃうその感じ。


ちょっとした遠距離みたいだね。


なかなか会えなくて、私は彼にそうLINEを送っていた。



そうだね。

でも倫子となら遠距離でも大丈夫かな。

信頼できるし。


ばか笑

でもあたしはもう遠距離はしたくないかな、、


なんで?


んー、、



「倫子、お待たせ。」

 頭上から私を呼ぶ声。


「直人……。」

顔を上げると―――彼。

私は携帯の画面を閉じて、それを机にふせる。


「会いたかったあ。

あ、すみません、コーヒー一つ。」



そばを通った店員さんがかしこまりましたと、頭を軽く下げた。


椅子を引き、浅く腰掛ける。

いつもの黒ぶちめがね、

前髪だけちょっとくせっけで、ふわふわの髪。

光に当たると茶色ぎみ。

落ち着いた雰囲気なのに、笑うと一気に表情は幼くなる。


1ヶ月前とは違って、すっかり衣替えした彼。

秋仕様の薄手の白いセーター、黒のパンツ。

まだ見たことがない私服。

なんでかな、そんななんてことない一部分に少し距離を感じてしまう。


「服、似合ってる。買ったの?」


「うん、倫子と久しぶりのデートだしね。」


ありがとう、かっこいいよ。

思いとは裏腹に


「そっか。」

 ただ一言言葉を返して、コーヒーを一口。

恥ずかしさが邪魔をする。


「倫子?」


「ん?」

コーヒーをかたんと置いて、目をあわせた。

彼はにやっと笑って、

私が見えるように足を机の下からのぞかせた。


「服は新しいですが、

今日も相変わらずのスニーカーなのです。」


彼のいつものおどけた口調。



「ばか。」

 彼と微笑みあう。


もう3年以上履いているというスニーカー。


もう新しいの買ったら?というのだけれど、「まだ使う。」と言い張る彼。


おかしいかな?


その履きならしたスニーカーで、彼なのだと私は安心してしまう。


「お待たせいたしました。ごゆっくりお過ごしください。」

店員さんがコーヒーを机にかたんとおいて、私達は、会えなかった間にあったことを報告しあう。


LINEを一週間とらないこともあった。

電話もできていなかった。


表情を、

声を、

動作を、


一つ一つを確かめ合う。



「あたしさ、ちょっと不安感じてた。」

私は彼に告げる。


「ん?」


「忙しいの本当なのかあとか。

 あんなにくだらないことで笑いあうのに、


あたしたち、お互いのことはあまり話し合ってなかったんだなぁって

ふと思っちゃってさ。」


コーヒーを一口。

彼も一口。



「うん。うん。忙しかったのは本当。


倫子と付き合って、初めての仕事忙しい時だったから、

不安にさせちゃったよね、ごめん。」



「でも俺ね、寝る前倫子の事絶対思い浮かべちゃってた。

大丈夫だよってLINE送ってくれるけど、大丈夫じゃないんだろうなぁとか。


そんな風に強がらせちゃって悪いなぁとか。

早く会いたいなって。」


「うん。」



「俺さ、くだらない冗談に乗って、好きとか言えるけど

本気では言えないっていうか、恥ずかしいっていうか。」


「……うん」

 直人はそういう人って分かってるからこそ、彼の言葉に笑いがこぼれる。



「遠距離みたいだねって話してたじゃん?

 俺も、ちょっと不安になった。

あ、俺の知らない倫子がいるって。


今まで倫子がどんな経験してきたとかまだ知らないんだなって。」


「うん。」


「だから、今日はとことんおしゃべりしましょう!」


「うん!」

私は彼の目を見て微笑んだ。



「……ということでおかわり!!!」

 彼が近くの店員さんにコップをアピールする。


「またおどけるんだから。」

 私は笑いながら、彼と同じように店員さんにコップをアピールした。



大丈夫、大丈夫。

この人となら、きっと、、大丈夫。


私は心にそう言い聞かせた。



まだ告げれていない過去に封をして。




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